第20話 ボクらにとっての初めて。
6月に入って、ボクらの住んでいる地方にも、『梅雨入り』が宣言された。
梅雨前線の影響で、今日もぐずついた天気になっている。
こんな土曜日は、学校の復習やら課題やらを片付けるに限る。
妹は朝から1日部活だ。そろそろ大会(本人は記録会と呼んでいたが…)が差し迫ってきていて、高校の先輩方と一緒に泳いだりしてタイムアップを図っているそうだ。
だから、ご覧の通り、家はボクが課題にシャーペンを走らせる音だけがしている。
ティロロン!
ボクのスマホがブルッと震えながら、音がした。
見てみると、神代さんからだ。
『やっほー! 清水くんは今日は何してるの? 私は数学の課題やってるんだけど、分からないところがあるの。もし、可能だったら教えて欲しい~~~泣』
先日の1学期の中間テストで、神代さんは驚きの20位アップを果たした。
陽キャの子たちの間でも話題になっていたし、ボクら陰キャ側も話題になった。
――どうして、急にそんなに順位アップしたのか?
彼女はこの間の中間テストの勉強はほとんど一緒に、図書館の個室で行った。
それ以外の変更点は本人に確認したところでは、ほぼないと言っていた。
だから、ボクに分からないところを聞きつつ、理解を深めていったことが要因だと思う。
でも、ボクらが付き合っていることは、妹と神代家しか知らない。
え? 神代家でどうしてバレてるんだって?
中間テストの総合結果が貼り出された後、「誕生日会兼祝賀会」を行うことになった際に、神代さんはお母さんに相談したんだそうだ。
その時に、『勘のいい』お母さんから、
「最近、なんだかユーリちゃん、女としての魅力みたいなものが出てきたのよねぇ~。もしかして、いい
と、カマをかけられたところ、隠しきれないリアクションをしてしまった神代さんにお母さんから、
「ふ~~~~~ん…。ユーリちゃんにそんないい
「ま、まだそんなことはしてない! あくまでも健全なお付き合いよ!」
「ふ~~~ん。『まだ』ね。じゃあ、行く行くはそういうご関係になっちゃうのね。いいわよ。そんな素敵な子は逃しちゃダメよ」
お母さんは娘の両肩をしっかりと掴み、力強く訴えた。
と、言うことがあったらしい。
その時以来、ボクのことで嬉しいことがあれば、枕を抱きしめつつ、ゴロゴロとのたうち回るよう…まあ、隠すこともなくなったそうだ。
ボクのことで、そんなのたうち回るような嬉しいことってあったのかなぁ…。
まあ、人は感じ方がそれぞれ違うから、良いか。
ボクは、スマホを操作して、
『今は家で課題をしています。今日は妹がいないので、分からないところがあれば、夕方までずっと一緒に課題が出来ますよ』
と、送った。
ボクは「フゥ…」と一息つくようにスマホをテーブルに置いた瞬間。
「お邪魔しま~す」
神代さんの声がした。
廊下からヒョッコリと現れた神代さんは今日も可愛い。
今日は彼女も外出する気はなかったのだろうか。青と黒のギンガムチェックのミニキャミソールワンピースに課題などを入れたトートバッグを肩から掛けている。
「いやいや、いくらなんでも早すぎでしょ!」
「え? あれ? ゴメン!! そ、そんなつもりはなかったんだよ! た、ただね、早く教えて欲しいなぁ…って思っていたから、LINEしながらすでに下まで降り始めてたのよ」
「あはは…。ボクがいない可能性は――?」
「いやいや、陰キャが雨の日にわざわざ外に出ていかないって。勉強してるか、ゲームしてるかのどっちかな…としか思わなかった」
う。なかなかグッサリと刺しますね。
陰キャをよく見てきているのが伝わる言い草です。
あと、合鍵を渡してからはノックすらせずに、鍵開けて入ってくるのは、なかなか衝撃だ。
もう、これで料理とかし始めたら『通い妻』じゃん! 通い妻かぁ…。それもいいなぁ…。
「…清水くん、何だか良からぬこと考えてるでしょ…。口から、ヨダレ垂れてるわよ…」
「ああ、ゴメン! 今、テーブル片付けますね」
「あ、サンキュー。じゃあ、私こっちでいい?」
神代さんは、ボクの対面側に行く。
図書館の個室では、部屋の構造上、どうしても横並びにならざるを得ないけど、家のテーブルだと向かい合わせに座るのが確かに普通だ。
「じゃあ、さっそく教えてもらってもいいかな?」
「いいですよ」
「この問題なんだけど…」
「ああ、ここなら…こうして…ここの数字を右辺に移動させて……」
神代さんも20位アップでトップ10入りしてから凄く変わった。
自分でもやればできるんだ! と、いう自信を感じるようになったようだ。
それに彼女はこねくり回して学ぶのではなく、シンプルに学ぼうとするスタイル。
これも学力向上に繋がった。
深い学びは大学では良いが、中学や高校での学びはどちらかと、シンプルに理論や方法を学んで『解く』ことに徹底した方が案外成績が伸びやすい。
その辺も彼女はボクとの話の中で心得て、普段から学ぶようにしているようだ。
だから、呑み込みが早く、問題演習もスムーズで問題ない。
集中していると案外時間がたつのも早く、そろそろお昼時。
お腹も空いてきた時間となる。
今日の昼食は、冷蔵庫の残り物で作った
フワフワに炒った卵と程よい塩味の聞いたご飯が絶妙に口の中で
「これもすっごく美味しい!」
「あはは。お気に召していただけて嬉しいよ。まあ、残り物で作ったから本格的ではないけどね」
「ううん。そんなことないよ。すごく美味しい。いいなぁ…こんなお兄ちゃんがいる楓ちゃんは…。私は本当に立派な清水くんのお嫁さんになれるんだろうか…」
「ぶふぅ!」
「え? ど、どうしたの!?」
「あ、い、いや、大丈夫……」
今、『お嫁さん』って言ったよね…。
確かに付き合ってるけど、すっごく話が飛躍してないか!?
まだ、キスしかしてないんだよ。
それなのに、結婚とか陽キャの脳味噌ってどうなってんの!?
ボクは深呼吸をして、残りの炒飯と卵スープを平らげた。
午後は文系科目の課題を片付け始めた。
ただ、文系科目というのはどうしても質問された時に、横に着かないと説明しにくい。
そこで、午後からはボクは彼女と隣同士に座って、質問に応対しつつ、自分の課題も片付けていく。
午後の課題をし始めてから、1時間くらい経ったころ。
すると、どこからともなく、息の漏れるような音が聞こえる…。
神代さんがボクの横で頭をコクリコクリと縦横に揺らしている。
そして、そのままボクの肩にもたれる様な姿勢になる。
彼女の顔は寝顔も可愛い。
そりゃ、学校でも1、2位を争う美少女なのだから、と言ってしまえばそこまでだが、それ以上にそんな顔をこんなに近くで……。
そこでボクは気づい…てしまった……。
ゴクリ……
ボクは唾を飲む。
ボクにもたれかかったことで、神代さんの豊満なおっぱいがさらに寄りかかって強調されている。
それだけじゃない―――。
キャミソールワンピースということもあって、上から押しつぶされそうになる谷間が丸見えだ。
はい。ボクは健全な男子高校生です。
陰キャも陽キャも関係ない。
こんな立派なものを見せられたら、正常でいようとすることそのものが無理難題だろう。
ご、誤魔化すために何か他のことを考えないと…。
…………。
……………………。
…………………………………………………………………………………ゴクリ。
チーン。
無理でした。ガッチリと脳内に焼き付いてしまうよ、この胸は。
でも、さすがに寝込みを襲うなんてのは、常識外れだからボクは少し身体を引き、彼女に膝枕で寝かせてあげる。
リップでも付けているのだろうか。彼女の唇はプルプルに見えて、凄くそそられた。
「キス…くらいはいいかな……。誰も見てないし……」
ボクは、そっと顔を近づけ、その柔らかい唇に吸い込まれるようにキスをした。
すると、彼女はそっと目を覚ました。
半分眠気眼な状態で。
「あ、清水くんだ~。キスくらいいくらでもしてあげるよ~~~」
今度は神代さんが、ボクの頬にそっと手を添えて、唇を重ねる。
お互いが求めあうまま、
…んちゅんちゅ…くちゅくちゅ…
舌を絡めあうと、いやらしい音がボクらの興奮をさらに高めた。
彼女は身体に力が入らない様子で、
「この間の朝の続き…して……」
神代さんが求めるようにボクを抱きしめた。
ボクは彼女の身体を、優しく触れた。そのたびに、彼女は小さく身体を震わせた。
そして、お互いの初めて――――。
彼女は少し痛かったようで、涙目になった。
彼女とボクはシャワーを終えると、服を着たものの、何事もなかったかのように課題に集中することができなかった。
「あ~あ、勢いとは言え、まさか付き合って1か月も経つ前に、彼氏の家で…」
「ああ、何だかごめんなさい!」
「えー、謝ることないよ。さっきは二人ともそういう気分だったし…。まあ、私も関係が発達するかもって少しは思っていたし…」
「その…神代さん、すごく気持ちよかったです…」
「面と向かって言われると恥ずかしいよ…。まあ、私も気持ちよかったんだけどね…」
ボクと神代さんはお互いの目を見て、「エヘヘ」と照れてしまう。
「あ、そうだ…。これを機にさ、私たち名前で呼び合わない?」
「名前ですか?」
「そう。何だか、もうすぐ付き合い始めて1ヶ月が経つしさ。何だか、名字だけだと他人行儀すぎるような感じがしちゃってさ…。だから、これからは清水くんのことを私は、『隼』って言うね」
「じゃあ、ボクは、『遊里』って呼べばいいですか?」
「うん。隼!」
「ありがとう。遊里!」
「何だか、急だと恥ずかしいね! でも、呼び続ければ慣れるよね!」
「た、たぶん、慣れると思いますよ」
「えへへ」
神代さんはボクの方にもたれかかって、
「これからもいっぱい私のことを愛してね、隼!」
シャワーで濡れた髪が艶やかな彼女の表情と合わさって、普段よりもさらに可愛く見える。
クソ! こんなの反則じゃないか!
ボクはそんなことを心の中で思いながら、「うん…遊里……」と呟きながら、彼女を抱きしめた。
ボクは絶対に彼女を手放したくない。彼女のことが今日で、さらに好きになってしまった。
ボクらは今日もバカップルです。(経験済み)
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