第22話 ボクの彼女は初体験を洩らす。

 ガチャリ…バタン。

 マンションのドアの鍵が開錠され、二人の客人が中に入ってくる。


「お邪魔しまーす!」

「……お邪魔します」


 元気な声と大人しい声が一つずつ。

 神代さん姉妹だ。

 いつも通り、というと問題がありそうだが、合鍵を使って入ってくる。


「ようこそ、いらっしゃいませ!」


 楓は客人を丁重に迎えに入れる。

 が、視線は明らかに下の方を向いている。

 つまり、遊里さんの生足をガン見している。

 姉の遊里さんは、デニムのショートパンツにTシャツというラフな装い。

 妹の茜ちゃんは、青と白のギンガムチェックのミニキャミソールワンピースとこちらもラフな感じだ。

 ボクは茜ちゃんに初めて会うけど、遊里さんの髪型を黒くして、お胸を少しナーフさせた感じだ。

 見たまま、遊里さんが陽キャで、茜ちゃんが陰キャといった感じ。


「遊里先輩、ちょっと足、出し過ぎじゃないですか…」

「え? そう? 隼が好きだって言うから…」


 ジロリと妹はボクを睨みつける。

 言ってません。たぶん…。

 付き合って1か月の彼女に対して、「君の生足が好き」とかそんなフェチをさらけ出すことはない。

 そりゃ、今、ちょっと意識して見てしまったけど、程よい肉付きと張りのあるお肌が遊里さんのエロティシズムを引き立てる。

 それにボクのことを名前で呼んでいるのも、妹は見逃さない。


「そ、それに…。お兄ちゃんのこと、名前で呼んでるぅぅぅぅぅっ! ふ、二人の距離がまた一段と近づいた気がする…。なんか、彼女としての余裕というか風格というか…大人の色気まで出てきているような気がする…」

「そ、そう…? そんなに変わったかな…?」


 遊里さんは妹の茜ちゃんに訊くが、茜さんは興味なさそうに、


「そうかな…。あんまりお姉ちゃんを凝視することないから…。それに人の色恋沙汰には興味がないな…」


 何とも味気のない回答に遊里さんも苦笑いをしている。

 茜ちゃんはどちらかというと感情を押し殺しているタイプのようだ。

 陰キャにも色々といるけど、このタイプは本当に根暗な感じの印象を受ける。


「お兄ちゃん! 遊里先輩との関係はどの辺まで進んだのかな…?」

「まあまあ、遊里とボクとの関係が進展していても、楓には関係のないことだろう…?」

「あーっ! お兄ちゃんまで『名前呼び』になってる! こ、これは絶対に破廉恥ハレンチ極まりない領域まで進んでしまったんだわ…。穢れを知らないお兄ちゃんがどこかに行ってしまった…。お兄ちゃんのエッチ!」


 うーん。

 どうして、遊里さんと楓が揃うとこうも賑やかになってしまうんだろうなぁ…。

 やっぱ、陽キャvs陽キャってこうなっちゃうんだろうか…。

 それに対して、茜ちゃんは普段見ることのないようなキャラになっている楓を変わった生き物でも見ているような目線だ。

 遊里さんとは確かに、初体験を果たした。

 妹はそれを当然知らない。


「遊里さん、お兄ちゃんとエッチしたでしょ!」


 楓はストレートな質問を遊里さんに投げつける。

 あ。しまった。

 遊里さんってこういうストレートな質問に対するリアクションが最悪なんだった…。


「え…!? な、何のこと!?」


 うーん。最悪なリアクションですね。

 遊里さんは顔を真っ赤に染め上げて、たじろぎながら後退あとずさる。

 その反応はバレバレです!


「そ、そんな…隼にペロペロされたりとか、気持ちも身体もいっぱい満たされたとか…そんなこと…な、ないんだからね!」


 全部、言ってる――――――――っ!!

 遊里さん、それはアウトです!


「うわっ! お姉ちゃん、本当に…その…してたんですか!?」

「遊里先輩は、いつの間にかお兄ちゃんとの一線を越えてしまったようですね…」


 物静かに言い争いを見ていた茜ちゃんもさすがにお姉ちゃんのエッチ事情になると黙っていられなくなったようで、驚きを隠せずにいる。

 楓はというと、ボクの方に殺意を向けている。

 妹よ。そんな視線を送っても、ボクと君では兄妹きょうだいだから、絶対に超えてはならないラインなんだよ。


「な、なぜバレた!」

「いや、全部、お姉ちゃんが言ったんです…」

「マジで!? 茜? 私、全部言っちゃってた…」

「あ、はい。『隼さんにペロペロされたりとか、気持ちも身体もいっぱい満たされた』と…。はぁ…」


 言いながら、顔を赤らめるの止めてもらってもいいかな…、茜ちゃん。

 て、そろそろ良いかな…。今日、何のために集まったのか分からなくなってしまう。


「はいはい。そういうお話はまた後でしてね…」

「えっ!? いいの?」


 嬉々として楓がボクに訊く。

 いや、本当は良くないけど…。

 そうでも言わないと、あなたたち止めないでしょ?


「楓、食事を運んでくれよ。いつまで経ってもお祝いが始まらないよ」

「ちぇっ! もう少しで、遊里さんを追い込めたのに…。まあ、後でたっぷりと聞き出してあげるわ。ふふふ」

「そんなこと言って、遊里をいじめないの。義理のお姉さんになるかもしれないんだから」

「えっ!? もう結婚まで考えてるの!? お兄ちゃん、いつの間に陽キャみたいな思想になっちゃったの!?」

「あ、いや…。まあ、将来的にそうなるかもしれないって話です…。はい…」


 やべぇ…。妹の圧が何か怖ぇ~よ。

 リビングのテーブルに色鮮やかな食事が並べられていく。

 サンドイッチ、ロティサリーチキン、カップサラダ、クラッカーのオードブル乗せ、フルーツカクテル。

 次々と並べられていく食事に遊里さんや茜さんも興味津々だ。


「このチキンも家で料理したの?」

「ええ。朝から調味液に付け込んでおいて、1時間くらい前からじっくりとオーブンで焼いてみました」

「こんなのって、お店でしか食べられないものだと思ってた…」

「オーブンさえあれば、作ろうと思えば作れちゃいますよ。レシピを教えようか?」

「うん。ぜひともお願いしたいな! 家でも作ってみたいし」

「楓先輩のお兄さんって本当にお料理が得意なんですね…」

「そうなのよ! 私の身体をここまで育ててくれたのは、お兄ちゃんのお陰なの!」

「そうでしょうね。お弁当もお兄さんのお手製というのは薄々感じてましたけど…」

「ゔ…。み、みんなには内緒でお願いね…」

「か弱くなる先輩も可愛いですね…」

「茜ちゃん、先輩に対する扱いが酷いよ!」

「先輩の自然体を見れたので、私も緊張がほぐれたからですよ」

「まあ、それはそれでいっか…」


 そこにボクが飲み物とグラスをもって、現れる。


「さあ、みんな席に座ってよ」


 ボク、そしてその横には遊里さん。机をはさんだ向かいには、楓と茜ちゃんが座る。

 ボクがコップにジュースを注いでいく。


「では、これより遊里の誕生日とボクたちの中間テストお疲れ様会を始めたいと思います!」


 みんながコップを掲げる。


「乾杯~~~~~~~~っ!」

「「「乾杯~~~~~~~~っ!」」」



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作品をお読みいただきありがとうございます!

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