第18話 派閥闘争の中心人物と外野の反応
最寄りの駅までは、神代さんと一緒に通学するのが最近の
まあ、ウチの最寄り駅にも同じクラスの生徒はいてるだろうけど、さすがにそこまでボクが目立っているわけではないから、駅までは一緒に歩いていくことにしたのだ。
「今日の朝はゴメンね! ち、ちょっと興奮しちゃってさ…やり過ぎました……」
「いや、まあ、その…確かにやり過ぎたところはあるけど、ボクも雰囲気に乗せられちゃって…その…神代さんの……」
「あ、それ以上言わないで……。ね? こっちも恥ずかしからさ…」
「あ、う、うん…」
ボクらの数メートル後ろに、妹の楓が
普段、ボクと一緒に通学なんかしなかったじゃないか…。そんなに神代さんとボクが一緒にいることが問題なのかな…?
しかし、そこはさすがの副会長。同じクラスの子に出会うと、最高のはにかみスマイルで「おはよう~」と返しているのは怖いくらいだ。楓って多重人格者だったっけなぁ…。
「今日はいよいよ中間テストの成績返却日だね」
「あ、そっか~。もう一週間経ったんだっけ…。今回はそこそこできたと思うんだけどなぁ…」
「神代さんは前回何位だったの?」
「私は35位。まあ、200人いる中でこの順位だから悪くはないんだけど、やっぱ、彼氏がトップ10入りの常連さんだから、見合う女になりたいわけよ」
えっへん! と彼女は胸を張る。豊満なバストがこれでもかというくらい自己主張している。
朝の通勤通学の時間帯だから、サラリーマンや大学生にとっては良い目の保養になることだろう…。満員電車でムラムラされては意味がないが…。
「そうなんだ。上がっているといいね」
「う、うん!」
そんな会話をしていたら、駅に着いてしまった。
ああ、何とも悲しいタイムアップ。
彼女も同じ考えのようで、
「楽しい時間ってすぐに過ぎ去っちゃうから、困っちゃうよねぇ~」
「そうだね。じゃあ、また、あとでね」
神代さんは、「うん!」と頷き、先に階段を上がっていく。
ボクは少し間をあけてから、階段を上り始めた。
「その瞬間に、ボクの間合いに入るのは止めようね、楓…」
「う…。どうしてバレたんだ…。今日は久々にお兄ちゃんと一緒に電車に乗ろうと思っていたのに…」
「痴漢に会うのが嫌だったら、女性専用車両に乗るべきだと思うよ」
「お兄ちゃんになら、されてもいいよ」
コイツ、本気で言ってるの? ボクが捕まっちゃうじゃないか。
ボクが非難の目で妹を見ると、両手をヒラヒラさせながら、
「冗談です。イッツ ア ジョーク! じゃ、またね! お兄ちゃん!」
妹は同級生を見つけたらしく、その子と一緒に女性専用車両に向かって走っていった。
さあ、今日も一日頑張るぞ。
クラスの部屋に入ると、翼が文字の通り、
隣に座っていた葵は、首を横に振る。
「今日の翼は一味違う呻き方だね。どうしたの?」
「まあ、翼は100位くらいにいてるから、それほどバカじゃないんだけど、親から100位を切ったら高校を退学させられるんだってさ」
「あれまぁ…。で、ちゃんと勉強したんだろ?」
「それがね、今回の条件が出されたのが、昨日何だって…」
「ああ、後出しだったんだ~。でも、何で急に?」
「何でも、昨日、進路のことで揉めたんだってさ。翼は『Youtuber』か『eスポーツの選手』のどちらかになりたいんだけど、両親を納得させられなかったんだって。で、学力でも見せればいいんだろ! とか強気の発言したらしくてさ…」
「まあ、何とかなるんじゃないの?」
「今回の俺は一味も二味も違うんだぞ、隼! 新作のゲームが目白押しだったこともあって、普段の勉強量の半分くらいしかやってねーんだよ」
「うーん、じゃあ、退学だね」
ボクがあっさりと言いのけると、翼は俺にしがみ付きながら、
「まだ、死にたくねーよぉ……」
いやいや、往生際悪いでしょ…さすがに。
さすがに一学期の中間テストなんだから、初っ端くらいは結果出そうとかするだろう。
何で、コイツは自分の身を守りにいかずに、その時の快楽に溺れるんだろう…。まあ、それが翼なのだが…。
「あら? 翼くんは退学が迫っているのかしら…。ふん、いい気味ね! このままいけば、私たちの勝利ってことね」
泣きっ面にハチを堂々とやってのける橘花凜華。
うーん。強靭な精神の持ち主だなぁ…。さすが、橘花財閥のあと継ぎ。
「うるさい! いい気になっていられるのも、あと少しだからな!」
「フンッ。負け犬風情が、よく吠えますわね…」
「誰が負け犬だよ!」
橘花さんの後ろには、神代さんと二葉さんの姿もある。
神代さんはボクにアイコンタクトで、「このやりとりつまんなーい」と訴えてくるが、ボクがどうすることもできないので、苦笑いを返すだけだ。
その時、朝礼の開始を告げるチャイムが鳴る。
と、同時に入ってくるのが、ウチの担任・入山静香先生。
表情はキリッとした何とも威圧感のある真っ赤な枠の眼鏡をした女性教諭だ。
担当教科は英語で、一流大学の英文科卒で海外留学経験もあり、となかなかのハイスペックなんだけど、男性には恵まれていなくて、27歳の今でも独身のままだ。
国語科の米倉先生と同期で、仲もいいので合コンにも参加しているようだが、このハイスペックが邪魔をしているようで、なかなか色恋沙汰には結びつかないご様子だ。
「さあ、朝の会を始めるから、皆さん、座りなさい! 朝の会は短いので、いくつかの連絡事項を伝えます。皆さん、指定のスケジュールブックを出しなさい。本日の予定にいくつかの変更が生じていますので、書き込んでもらいます…」
淡々と入山先生は必要事項を伝えていく。生徒たちは聞き漏らしてはいけないので、メモを取るのに必死だ。
「そして、最後に。今日は先に行われた中間テストの成績発表日となっている。放課後、1階昇降口前に貼りだすから各自、確認を怠らないように。それと、各科目の成績等については本日付で各ご家庭に速達で到着していると思いますので、保護者の方と確認を行うように。以上」
そういうと、入山先生は出席簿を片手に教室から出ていった。
その歩き姿も凄く綺麗で、スーツ姿がピッタリと当てはまりすぎている。
「おやおや、隼くんは、入山先生が気になる感じ? 年増とまではいかないけど、年上好きだったっけ?」
「い、いや、そんなことないよ…。でも、美人だよねぇ…。テキパキしていて卒がないっていうか…。完璧だよねぇ…」
「まあ、さすがに教師と生徒がくっ付きあえるのは、ラブコメ本だけだよ。隼もお付き合いできる女の子を探した方がいいよ」
「いや、まあ、そうなんだけど…ねぇっ!?」
「ん? どうかしたのか?」
「い、いや、何でもない…」
ボクはドッと流れ出た冷や汗をハンカチでふき取る。
入山先生を見ていたのが、どうやら神代さんにバレたようで、物凄い不穏なオーラをこちらに向けて送り続けていたのだから…。
うう…。怖いぞ…。さすがに今のは怖かったぞ…。
その瞬間、ブルッとボクのスマホが震える。
LINEの通知が来た。もちろん、相手は神代さんだ。
『今日の掲示、一緒に見れたらいいね』
怒ってるの? 怒ってないの? どっちなの?
ボクは頭に「?」をいくつも浮かべながら、「そうだね。一緒にみたいね」と返信を打った。
それを見た神代さんは「エヘヘ…」と
うーん。やっぱりボクの彼女は可愛い。これは何物にも譲れない可愛らしさだ。
早く、学校での陽キャ・陰キャの騒動が終わってほしいと心の奥底から願ってやまないのだった。
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