第17話 理性と戦うモーニングコール

 中間テストは本当にあっという間に過ぎ去った。

 ボクと神代さんは、図書館の個室を借りて、集中して取り組むことができた。

 もちろん、神代さんと一緒にいるというのは、ボクと神代さんの気持ち的にも落ち着いてできる環境でもあった。

 不思議なことに一緒にいると、ドキドキとしちゃうんじゃないかなって思っていたけど、そんなこともなかった。

 もちろん、勉強に集中しなければならないから、ということもあるが、神代さんの言葉を借りるなら、「お互いがいることが当たり前」になってきたのかもしれない。

 今日は、テストが終わって、もう1週間が経った。

 つまり、総合成績が発表される日だ。


「…おはよぉ~ございまぁ~すぅ…」


 耳元から楓の囁くような声が聞こえる。

 いや、おかしいだろ。

 ここはボクの部屋でボクのベッドです。

 寝ているボクのすぐ横に美少女の…妹の顔がある…。

 妹はボクのベッドに一緒にいる。

 脱出せねば!!!!

 刹那、妹の腕がボクの身体をガッシリと抱きかかえこむ。


「ふふふ…お兄ちゃん。どうですか? 私の朝のモーニングコール…」

「できれば、もう少し普通のモーニングコールできないのかな…」

「今日はかなりマシな方でしょう…」


 いや、まあそうなんだけどね。

 宝急アイランドに行って以来、毎日のように楓からのモーニングコールが行われている。

 最初は、素っ裸で布団の中で、ボクを抱きしめるという完全アウトな起こし方をしにきてくれた。

 しかも、耳音で妹のハアハアという興奮気味な吐息付き。

 完全にアウトだろうが。

 またある日は、スクール水着を着て、ベッドインしていた。

 基本的に、ベッドインしてきているのだが、ボクも最近は夜遅くまで勉強していたことも影響してか、妹よりも早く起きることが出来なくなっていて、毎回、ベッドへの侵入を阻止できていない。

 で、今日はというと、Tシャツを着ていることは確認できた…。


「私、気づいたんです。お兄ちゃんは変態ではない、と。つまり、水着とか素っ裸よりも…」

「よりも…?」

「一緒に布団の中で脱ぎあいっこする方が好きなのではないか…と」

「お前の頭が変態だ――――――っ!」


 ボクの両腕とともに妹に抱きしめられており、ツッコミのチョップすら入れられない、。

 妹はボクのすぐ横に顔を寄せてきて、妖艶な微笑みをしている。


「フフフ…。もう、逃がしませんよ。いつもはキスで誤魔化されていますが、今日は朝ご飯までたっぷりと時間があります。安心してください。私がお兄ちゃんのをしてあげます!」

「そんな恥ずかしい宣言するんじゃありません。後輩たちが聞いたら、ドン引きするよ…。瑞希くんも、ね」

「う…。み、瑞希は関係ないから、瑞希に言うのは止めてよね…。それは反則だよ!」

「そもそも、兄妹きょうだいであるから、今、やろうとしている行為そのものが反則だよ…」

「安心して、一線を越えてないから…。ちゃんと初めては取ってあるよ!」

「そういう問題じゃない…」


 ぬぉぉぉぉおぉぉぉぉっ!

 妹が抱きしめながら、グニグニと動くから、背中に柔らかな感触が…しかも動くたびに形を変えているのが伝わってくる!


「…楓…。お前、まさか―――!?」

「もちろん、ここに来るまでにナイトブラは外してきましたよ。ダイレクトに妹の胸を味わえるなんて幸せ者だね…お兄ちゃんも!」


 いや、Tシャツ着てるからダイレクトではありません。

 妹は調子に乗って、グニグニと胸を擦り付ける!

 シャツなんていう防御力が格段に低い布切れを通して、妹の感触が伝わってくる!!

 ヤバイ…。ボクだって健全な男なんだぞ!

 ダメだ…このままでは理性が吹っ飛んでしまう…。


「コラ――――っ!! 今日もライン越えギリギリやってるんじゃないよ―――っ!!」


 こういうときに救世主が現れるのが、安心できるこの世界…。

 大声と同時にボクの部屋にドカドカと踏み込んできて、布団を剥ぎ取り、ついでに妹も力づくで剥ぎ取る!


「きゃっ!?」


 剥ぎ取られた楓は、ベッドの外に投げ捨てられる。


「お・は・よ・ぉ・し・み・ず・く~~~~ん!」


 物凄く低い声でモーニングコールがボクの耳元でなされた。

 嗚呼…殺気が凄い…。間違いなく死ねる。

 妹の拘束からは解放されたが、新たな敵に捕縛されるボク。


「あ、おはよ~、神代さん。今日も清々しい朝だね」

「そうね。妹のハグ&ちっこい胸の攻撃で変な声を出さなかっただけ許してあげる…」


 妹よ、「誰がちっパイじゃーっ!」と後ろで朝から叫ばないの。

 神代さんのおっぱいに比べたら、妹のおっぱいが小さいのは間違いない。


「あんな小娘ので、がこうなるのは、さすがに…だ、ダメだぞ!」

「ああ、ごめんなさい…」

「まあ、清水くんがそんなに謝る必要はないんだよ…。た…ただ…、楓ちゃんがしたことを私もしたいなって…」

「ずるい! 私のお兄ちゃんなのに!」


 いや、その発言、絶対に間違ってる!

 ボクはツッコミを入れようとしたが、それはできなかった。いや、させてくれなかった。神代さんの柔らかい唇がボクの唇と絡み合っていたから。


「あ―――――――っ!! 今日はキスするの忘れてた―――――っ!!」


 ボクの部屋に妹の絶叫がこだましたのであった…。

 本日のとなった妹はトボトボとボクの部屋から退散する。

 部屋には、ボクと神代さんだけになる。

 ちなみに神代さんは妹に『彼氏彼女の関係』がバレたあと、ボクから合鍵を渡した。

 妹からのでボクがになったときに、助けてもらうため…というのもあるが、お互いが信頼関係となったということも要因の一つだ。


「やっぱり、今日来たのは正解だったわね」

「まあ、最近はいつも何かしらの攻撃を喰らっているとは思うんだけどね…ハハハ……」

「中学3年生の妹が高校2年生の兄をたぶらかす…というのは、その…あまりにも問題がある構図よ…さすがに……」


 でも、そこでボクも気づく。


(今の状況もの前ではかなりヤバイのでは…)


 神代さんはボクのベッドの中に一緒に入っている。

 しかも、まだ朝早い時間帯ということもあり、彼女の服装は制服ではない。

 上下が分かれたスポーツウェアだ。

 つまり、顔から少し下を覗けば、神代さんの豊満なおっぱいがウェアで守られているとはいえ、形がくっきりと分かる。


「な…何…? ど、どうしたの?」

「いや、神代さんってやっぱり可愛いなぁ…って」

「面と向かって改まって言われると、恥ずかしいよ…」


 お互いの視線が絡み合う。

 神代さんは、頬を赤らめながら物欲しげな表情をする。

 ボクは、神代さんの頬に右手を添えると、そのまま優しく唇を重ね合わせた。

 んちゅ…くちゅくちゅ…ちゅっちゅっ……

 最初は優しいキス―――。

 でも、だんだんと舌が絡み合い、お互いに身体を抱きしめあいながらのキスが始まる。

 朝からこんな幸せな時間があっていいのだろうか。


「んんっ♡」


 神代さんは可愛らしい声をあげる。

 目がとろんととろけていて、エッチな雰囲気を醸し出している。


「ねえねえ、お兄ちゃん、御飯ま…ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?

 な、何やってんの!? ちょ、ちょっと! 妹がいる前ですることじゃないだろぉぉぉぉぉっ!!」

「んにゃっ!?」

「うわっ!?」


 今度は神代さんが怒り狂った楓に首根っこを持たれて、ボクから引き離される。

 ボクは獲物を急に引き剝がされてショックを隠せない猛獣のように呆気にとられた。

 妹は神代さんが逃げないように首根っこを掴んだまま、ボクのところに来て、空いた手で頬をつねる。


「お兄ちゃん…、私の前で惚気のろけるのはまだ許すけど、エッチなのは許さない…OK?」

「ふぁ…ふぁい…いひゃいいひゃい! ゆるひへ……」

「うぅ…もう少しで…清水くんの手で気持ちよくなれたのに……くすん」

「遊里先輩も少しは自重して下さい! ここは清水家の家です!」

「はい……ぐすん」


 かくして神代さんはションボリと落ち込みながら、自宅のある上の階に引き上げていった。

 ボクはというと、朝からエッチなことを目の前で見せた罪ということで、妹へのキス1回と朝食を提供するという、どう考えてもやり始めたのが楓なので、ボクに分の悪すぎる罰を与えられたのであった。

 なんで、ボクが損してるの!?

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