第14話 楓様は美少女と遭遇した。
ランチは園内のフードコートで購入したハンバーガーだ。
とはいえ、普通のハンバーガーなどではない。ここ宝急アイランドは食の部分でも金をつぎ込んでいて、それもあって食べ物の持ち込みは一切禁止となっている。
何と、全国各地から厳選されたご当地バーガーが10種類も用意されているのである。しかも、これが定期的にメニューに入れ替わりが起こるのだから、人気が出ないわけがない。
これ以外にも、ご当地ラーメンだったり、ご当地スイーツなどが楽しめたりする。年に2回、春と秋にはスイーツ博なるものも行っており、遊園地というよりも総合アミューズメントパークとしての最強の位置づけを誇っていたりする。まあ、商売上手ということだろう。
で、個々の運営を行っているのが、橘花グループっだったりするのだから、世間ってのは末恐ろしい。
「これ、なかなか美味いな!」
「そうよね…。バンズなんかもすごく分厚くて食べ応えも十分だし、そこにかかっているソースも肉の香ばしさにマッチしてる…。これとポテトとドリンクがセットで1000円はお得だと思うわ」
「ハンバーガーがファストフードとかジャンクフードとかいう奴いるけど、総出で謝罪すべきだね。これはもう、ファストフードとかじゃないな…」
「あれ~、これはこれは清水くんじゃないの?」
「あ、米倉先生! こんにちは」
声の主は、「学園の
今日はデニムのキュロットスカートに真っ白な袖のあるシャツをお召しになられている。
綺麗な足を惜しげもなく晒していて、周りにいるものがナンパしそうな勢いだ。
ライオンの放し飼いの場所に1匹のウサギを放つようなもんだ…。
「先生は今日はどうしたんですか? お一人っぽい感じですが…」
「清水くん、世の中には知っていいことと知ってはいけないこの二つがあって~」
「あ、敢えて聞きません…。さっき聞いたことは答えなくて結構です」
「よろしい。て、まあそれは冗談として、折角の休みだから、スイーツのはしごでもしようかなぁ…と思ってね。新年度が始まった頃ってのは、教師は忙しすぎて、春の新作をまだ味わえてないのよね。私、毎シーズンここのスイーツの新作食べてるからね~♪」
「だから、お一人なんですね」
「清水くん…そっちに綺麗な池があってね、結構深いんだけど、泳いでみる?」
ボクも冗談のつもりで言ったといっても信じて貰えないんだろうな…。
やり取りをハンバーガーをかじりつつ眺めている妹・楓。
米倉先生の視線はそんな妹にも。
「あら、可愛い彼女さんね! 清水くんはリア充してるのね…。爆発しやがれ!」
「米倉先生、途中でキャラを180度変えるのは止めてください…」
「あはは、冗談よ、冗談! だって、あなた、妹の楓さんでしょ?」
「あ、はい…」
「ご存じだったんですか?」
「伊達に私だって聖マリオストロ学園で先生やってません! ちゃんとこれから上がってくる子の情報くらい頭に入れてるわよ!」
「楓さんは、とっても優秀だから特に気にかけてるわ♪」
「はあ…、まあ次席ですけどね…」
「まあ首席は、橘花さんの弟さんよね…。でも、いつもそれほど差があるわけじゃないじゃない。いつも2~3点差ってところよね」
「あはは…。まあ大きな壁なんですけどね…」
「ま、落ち込まない落ち込まない…。高校までに一度くらいは首席取ることを目標にするのもいいことかもね。昔の今よりももっと可愛らしかった私なんかもそうやって勉学にも磨きを掛けたもの…。一番のあの子を倒すってね」
「先生は倒せたんですか…?」
楓はおずおずと訊く。
米倉先生は楓の方に振り替えると、
「もちろんよ! 勝ってこそ、意味のある戦いじゃない? テストって♪」
まあ、ボクはそんな風に考えたことはなかった。
常に学年10位以内には入っているから。トップは無理だと思っているわけではないけど、トップ10ともなると猛者揃いだ。そう簡単にトップ5以上になることは不可能だ。
「清水くんも高校で一度は首席を取ってね! あ、そろそろ限定スイーツの販売時間じゃない! じゃあ、また明日学校でね~」
そういうと、米倉先生は走り去るようにその場からいなくなった。
楓はどちらかというと新しい生き物を見たかのように呆気にとられつつ、ポテトをつまんでいる。
「高校の先生ってああいうのばっか?」
「いや、あれはかなり緩いタイプだな…」
「ああ、なる…。理解できたよ、お兄ちゃん。高校では人間観察も趣味に入れちゃうかもしれないね…」
「それ、絶対に楽しくないと思うよ」
ボクと楓は昼食を取り終えると、遊園地ゾーンから動物園ゾーンに移動する。
動物園を専門でやっているわけではないので、それほど広い場所を使っているわけではないが、それでもかなりの種類の動物を研究目的で飼育されている。
小動物ばかりを飼育している建物以外にも、多くの建物が乱立されており、動物園というよりは本当に大学の研究棟のような様子だ。
とはいえ、小動物好きの妹にとってみれば、キュートな生き物が所狭しと飼育されているのだから、見ていても飽きない。
まあ、ボクも大型動物よりも小動物の方が好きなので、一緒に見ていると心が安らぐ。
周りは先程の遊園地エリアと比べると子ども連れの家族が多いように感じる。
「あれ? 清水くんじゃない…?」
また声を掛けられる。今度は誰だろう…。
声を掛けるたびに殺気立たせるのはお止めよ、妹よ。
「あ、神代さんじゃないですか…」
そこには金髪の美少女である神代さんが立っていた。
横には小さな男の子も一緒に。
ボクの表情の変化を見て、楓が警戒し始める。
「弟の勇気がどうしても行きたいっていうからね…。今日は弟と動物園デートって感じなわけよ」
「あ、そうなんですか。妹さんは?」
「茜なら、昨日からすでにテスト勉強始めてたよ…。私はまだ早いから大丈夫って言ったんだけど、あの子真面目だから…。中学の先輩に憧れ持っちゃってね…」
「そっか、それはそれでモチベーション、強いては成績に繋がっていいんじゃないですか」
「そうね。君みたいにポジティブに考えることにするわ」
妹がボクと神代さんのやり取りをポカーンと半口開けながら見ていた。
な、何だろう…。今、どういう感覚でボクらのやり取りを見ているんだろう。
当然、ボクと神代さんのルールで家族関係にはバレたときは素直に認めあうということは決めているんだけど…。
何だか、妹が物凄く怪しんでいる表情をしているような気がする。
そんな妹に神代さんが振り向き、
「あ、あなたが妹さんの…」
「楓です」
ぶっきら棒に応える楓。
あらら、やっぱり不機嫌なんだねぇ…。
「ああ、楓さんね。私は清水くんの同じクラスの神代遊里って言うの。同じマンションに住んでるから、お兄さんに分からない女の悩みは私に聞いてね」
「あ、はい…」
神代さんは超営業スマイルで楓との初顔合わせを上手くやり過ごした。
ただ、そのあと、よく喋る陽キャの二人がコミュ障状態で、重い空気がボクらの間に流れる。
重い…重い…重すぎる……。
ボクはもう耐えられなかった…。
「ちょっと飲み物、買いに行ってくるよ」
「勇気もお兄ちゃんと一緒に行っておいでよ。好きなの買ってもらえるよ!」
「へいへい、ここは出させていただきますよ。二人のも適当に買ってくるよ。神代さんは炭酸系以外なら大丈夫だよね」
「あ、うん。問題ないよ~」
「じゃあ、行ってくるわ」
「行ってら~~~~」
神代さんがボクを見送ってくれた。勇気くんはもう小学5年生だから、さすがに手を繋ぐのは嫌だろうな。
迷子にならないようにだけは注意しておこう。
相変わらず妹は無口のままで、ボーッとしてたなぁ…。
もしかして、何かのボクと神代さんの関係を感づいたのかな…。
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