第13話 妹・楓は遊園地を楽しみたい

 宝急アイランド―――。

 宝島急行電鉄が運営する遊園地である。未開発の丘陵地を宝島急行電鉄が購入し、世界一の興奮、感動を与えるアミューズメントパークとして開業した。創設時の社長であり現会長が「絶叫系」をこよなく愛したことから、絶叫系のアトラクションの入れ替えはかなりの頻度と言っても過言ではない。また、小さな子どもたちも遊べるように、と一部のエリアは小規模な動物園となっている。こちらは、県立大学の動物科学科が中心となって運営に当たっており、動物生命工学、飼育学など動物に関する幅広い分野を研究する施設にもなっている。

 と、まあ、老若男女問わず一日かけて遊ぶことができるということもあり、入場者数が減少することなく運営が行われているのが実状である。

 ボクと楓は、チケットを入場ゲートで渡し、腕にシリコン製のリングを取り付けてもらうと、楓がボクの腕を引くようにゲートをくぐる。

 ゲートをくぐるとそこに拡がっているのは、ただただ広いアミューズメントパークであった。


「久々に来たけど、やっぱ宝急アイランドは広いなぁ…」

「お兄ちゃん! 私としては『絶叫系』連続アタックをしたくてならないの!」


 興奮気味に指さしながら、ボクに訴えかける妹。

 昨日、「アミュンザ」で購入した、スキニーパンツにボクのデザインTシャツを着て、その上にジーンズのアウターを羽織っている。髪の毛は後ろでポニーテールにしている。今日もボクの妹は可愛いと思う。

 それよりも妹の計画している、絶叫系の連続アタックって何…?。心臓でも破壊する気なの…?

 ボクも絶叫系はそれほど嫌いではない。きゃあきゃあと声を上げることなく、アップダウンやローリングを目と身体の感覚で楽しんでいるので、同乗者にはいつも、「本当に楽しんでる?」と聞かれることが多いが、自分の中ではとても満足しているのだったりする。


「で? 楓様は、まずどの『絶叫系』をご所望でしょうか…」

「うむ。よくぞ聞いてくれた。私が一番最初に乗りたいのは、今春に稼働した立って乗れるジェットコースター、『スタンディング・サイクロン』! これしかないでしょ!」

「立って乗るとか、支えなくて感覚おかしくなりそう…」


 ボクの不安は的中した。

 ボクたちの順番が回ってきて、乗車台に固定される。固定具がかなり強めにされていることから、このアトラクションの危険度を推し量ることができる。

 ブザーが鳴り、いざ出発!

 立った状態でまずは、ほぼ直角に感じるような角度で下っていき、右ひねり、左ひねり、を何度か繰り返し、さらには360度のリーリングターンまでやってみせる。もう、三半規管をないなった…。さすがにこれ開発した人は最強のアホだろう…。(最大級の褒め言葉)


「こ、これは初っ端からなかなか凄かったね」


 ボクが楓に声をかけると、声では半分放心状態で「うん…」と声にならない声で頷いていた。

 いやいや、怖かったんかい! さっき、自分で誘ってたよね!?


「楓も久々なんだから、無茶しちゃダメだよ」

「はぁ~い。さすがに今ので三半規管が可笑しくなったから、連続でジェットコースター計画は一時中断しよう。次は、お化け屋敷がいいな~」

「また、全然違うベクトルに進むんだね」

「ここのお化け屋敷は、心拍数測定装置を付けて進むんだって、心拍数によってコースが変わっちゃうらしいよ」

「怖がり過ぎたら、優しくなるのか?」

「うーん、その辺はあんま知らないんだよね。」

「ま、行ってみるか…」


 楓はまたしてもボクの腕を引っ張りながら、「こっちこっち!」と言いながら走り出した。

 たまにはこんな楽しんでいる妹を見るのも悪くない。



 お化け屋敷って作り物ってイメージありません?

 ボクはそういう考えばかりで、リア充が腕に抱き着いて、キャアキャアと喚いているのは、男に気を惹かせるための演技なのではないか…と。

 でもね、さすが宝急アイランドは一味も二味も違った…。

 一言言わせてもらうと、ここの「心拍数ルート変更システム」は絶対に死者が出る!

 まずは入る前に「同意書」を書かせる時点で文句を言えないようにしているのだけど、そういうレベルではなかった。

 心拍数が高くなれば高くなるほど、怖いルートへと導かれるのである。

 しかも、だ。男女で一緒に回った場合は、特別仕様で絶対に女の子が泣きそうになるルートに丁重にご案内してくださる。いや、そのシステムおかしいだろ。

 しかも、自分から行こうと言ったにもかかわらず、妹は怖がりだ。

 まだ入って間もない通路を歩いているだけにも拘わらず、すでにボクの腕に抱き着いている。抱きしめ具合もかなり強くて、ボクの腕が妹の胸の間に挟まれている状態になっているが、本人はお構いなしのようだ。ボクはお構いアリなんですけど…理性を保たせなきゃならないので…。

 妹がこんな感じだから、ボクが冷静であっても、妹の心拍数は如実に上がっていっている。普段は60くらいなのに、すでにモニターには120を超えている。いや、これ以上上がったら、死ぬんじゃないか?

 しかも、ルート分岐が必ず吃驚させた後にあるので、心拍数が跳ね上がったところで計測されるのもなかなか意地悪な仕様だ。

 ということで、ボクと妹はすべての分岐を怖い方にばかり選択されているようだ。

 丘陵地を使って造られた宝急アイランドは、お化け屋敷が、丘陵地の地下を使っていて、自然のひんやりとした涼しさがさらに恐怖を引き出していたりする。

 楓はボクの腕を抱きしめならが、モジモジとし始める。まさか…!?


「お兄ちゃん…オシッコしたい……」

「マジか…。確かにこの辺、冷えるからなぁ…」


 このお化け屋敷、長いルートを歩かされることもあり、途中で何か所かトイレが設置されている。


「ちょっと行ってくるね…。絶対にで待っていてね!!!」


 妹はトイレに行くだけなのに、半泣きの表情だ。

 どうして、ジェットコースターは色々と調べてあったのに、お化け屋敷は調べずに来ちゃったんだろうか…。

 妹は女子トイレに駆け込んでいった。

 待つこと2~3分。

 トイレの中から楓の絶叫が木魂した。叫び声の余韻が残っている状況で、フラフラになりながら妹はトイレから出てくる。


「だ、大丈夫?」

「ううん。大丈夫くない…」


 もう、完全に泣いてるじゃないか!?

 何があったというのだろうか…。


「トイレに何があったの?」

「う…。笑わないでね…。あのね、トイレを済ませて、手を洗っていたら、手洗い場のすぐ後ろのトイレの使用禁止って書いてるトイレのドアから腕とか顔とかをバキバキと音出しながら出てきたの…。しかも、目が合った瞬間、口がグバァッて裂けて、気味悪い笑い方で笑ってきたの…。あんなの泣くって! トイレくらい安心してさせろ! そして、今日から家でも夜のトイレに一人でいけないよ! お兄ちゃん、助けて…」

「え、さすがにそれは…。いい歳なんだから、トイレくらい自分で行ってよね…」


 てか、宝急アイランド、やることがエグイぞ!

 妹の精神をここまで破壊してくるとは…。

 この後も何度か分岐があったのだが、その都度、妹の心拍数が130くらいまで跳ね上がった状態だったので、所謂、怖いルートを選択されられているようだ。

 出口に到着して、スタッフに心拍数測定装置を返却すると、通ったルートを難易度別に分けた認定証が渡される。

 ちなみに僕らの認定証には、「最恐地獄篇クリア」と書かれていた。

 認定証には一番妹が怖がっている写真まで印刷されている。

 さすがの妹もこればかりは顔を赤らめて俯いてしまった。


 日曜日ということもあり、遊園地は賑わっていた。

 ボクたち…主に妹がお化け屋敷で怖がっていた30~40分の間に家族連れのお客さんも増えたようで、メリーゴーランドやコーヒーカップといった王道の遊具にも行列ができていた。

 ボクたちも心臓に悪い2つのアトラクションが続いたこともあり、ランチまでの1時間を王道の遊具で遊ぶことにした。

 メリーゴーランドに乗る妹はさっきの怖がっていたそれとはまったく違い、可愛かった。


「メリーゴーランドなんて、ちっさい頃に乗って以来久々だったから、何かちょっと恥ずかしかったな…」

「そうか? 十分、白馬に乗った女騎士って感じだったよ」

「えー、そこはお姫様にして欲しかったな、さすがに!」

「まあ、今日の服装はスカートじゃないからね」

「……むぅ……」

「そろそろ昼食にするか…。何か食べたいのある?」


 ボクは自分で作るけど、あまりお店を選ぶっていう点でいうと、得意ではない。

 そういった方は、妹の楓の方が色んな情報を持っていて、お店を選んでくれることが多い。


「ふふふっ! お兄ちゃん、ランチはもう決めてあるの!」


 楓はそういうと、再び、ボクの腕を掴んで走り出したのだった。

 こんなに走り回らされたら、明日絶対に筋肉痛確定だな…これは。

 でも、妹がこんなに楽しんでくれてるんだから、それくらいどうってことない。

 ウチは両親が海外に住んで働いているから、こういう風に遊園地に行くなんてあまりなかった家だからね。

 だから、妹は中学に入って、水泳部にのめり込んで、休みの日に家で暇な時間を作らないようにしていたくらいだ。

 そんな妹がメチャクチャ素敵な笑顔で遊園地を満喫している。

 神代さん、これは浮気じゃないけど、許してくださいね。


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