第12話 邪な夢。

 だんだんとが傾き始めた遊園地・宝急ほうきゅうアイランド―――。

 

 妹の楓は、ベンチからスクッと立ち上がると、ボクの腕を引っ張り、


「お兄ちゃん、一緒に観覧車に乗ろ?」

「え? 別に構わないよ。でも、楓は高所恐怖症だったんだじゃないの?」

「う、うん。そうなんだけど、一緒にに二人だけの時間が欲しくてさ…」

「そうなんだ。よし、じゃあ、最後に乗りに行くか!」

「う、うん…。ありがとう…」


 楓の表情が若干、赤くなっているようにも見えるが、夕日でその表情が読み取れない。

 ボクらは観覧車まで来る。

 観覧車に人はなく、待ち時間なしに乗り込むことができた。


「うわぁ…。観覧車って何年ぶりだろ…」


 楓は子どものように嬉しそうに窓の外を眺める。

 本当に懐かしい。

 ただ、少しずつ上がり始めると、楓が顔を真っ赤にしながら、上目遣いでボクを見てくる。


「お兄ちゃん……」

「え!? どうしたの?」

「お兄ちゃん、こっちに来てもらえないかな…」

「もしかして…」

「やっぱり、怖くなってきちゃった…」

「ははは、分かった分かった…。お兄ちゃんが楓の横に行くよ…」


 ボクは席を立つと、妹の横に座る。

 観覧車のゴンドラが少し傾くように重さで沈み込む。


「きゃっ…。こ、これはこれで何だか怖いね…」


 楓はボクの手を怖さのあまり自然と握りしめる。


 ギシッギシギシッ……

 徐々に高度が上がっていくと、ゴンドラの軸が回転して、きしむような音を立てる。


「…きゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 楓はついにボクの手を放し、ボクの身体を抱きしめる。

 ちょ…ちょっと待って……。これはさすがにマズくないか…?

 ボクの顔の横には美少女の…でも妹の…顔がある。

 抱きしめられたことで、妹の胸のふくらみがダイレクトにボクの身体に伝わってくる。

 こ、こんな関係ダメに決まってるだろ!

 兄妹きょうだいなんだぞ! 絶対にダメだ!


「お兄ちゃん…、彼女いるでしょ……」

「え? どうして????」

「何となく…女の勘……」

「そ、そうなんだ…。よくわかったね…」

「べ、別に奪われたとかお兄ちゃんを取り返すって思いはないよ…。でも、なんだか、遠くに行っちゃうような気がして辛いよ…。だから、今日は私に好きにさせて…お兄ちゃん……」


 すると、ボクの顔の横にあった妹の顔が正面に向く。

 ほんのりと顔は紅潮していて、目尻にはうっすら涙を浮かべている。

 そのまま妹の顔がボクに近づいていき、柔らかな感触を唇に感じる…。

 キス――――!?

 妹はボクにキスをしている。しかも、そのまま舌を絡めてきている。

 ボクはやめさせようとするけど、身体が動かない。金縛りにあったみたいに。


(どうして動かないの!? なんで!?)


「お兄ちゃん…このまま私の旦那さんになって…。私、もう、我慢できないよ!!」


 そのまま、ボクを押し倒す!!!


「私の初めて、お兄ちゃんに………」


 それはダメだ! それは絶対にダメだーーーーーーーっ!!!!

 ボクは心の中で叫んだ!




「うわあああああああああああああああああああっ!!!!!」


 ボクは大声をあげて、

 と、同時に心で…いや、身体全身で安堵を感じる…。

 ボクは夢を見ていたんだ……。

 あまりにもリアリティのありすぎる夢を―――。

 でも、そんなことがあってはいけない……。

 昨日の「アミュンザ」での買い物をしていた時の雰囲気が妹…というより女になろうとしていたところがあった。それが原因かもしれない…とボクは考えた。


 ガチャ……

 ドアがゆっくりと開く。

 ひょこっと楓は心配そうな顔で覗き込む。


「お兄ちゃん、大丈夫? すごく大きな声で叫んでいたけど…」

「あ、ああ、ゴメンね。もう大丈夫だよ…」


 ボクは部屋の明かりをつけて、ベッドから楓を見つめる。

 妹がボクの部屋に入ってくる。

 水玉模様のパジャマ姿が可愛いらしい。

 でも、楓はボクの血の繋がっている妹であり、幼馴染おさななじみではない。

絶対に「彼女」という選択肢を選ぶことが許されない関係だ。

 だから、あの夢がどれだけリアリティがあっても、本当に起こりえることはありえない。

 見つめ合いながら、しばしの沈黙が訪れる。


「お兄ちゃん…。エッチな夢でも見たの…?」

「え!?」


 確かにエッチだったかもしれないから、恥ずかしくて仕方がない。

 とはいえ、さすがに言えるような内容でもない。


「まあ、お兄ちゃんも男の子なんだから、こういう風になることがあるのは理解するけど、できれば、私のいないところで、ちゃんと処理しといてよね」


 ジト目でボクの方を睨みつける。

 ボクは反論する余地すらない状態であったこともあり、


「あ、はい。申し訳ございません…」


 素直に妹に謝罪した。

 ああ、死ねるものなら死にたい…。


「じゃあ、私は寝るね。明日、楽しみにしてるんだから、寝坊しちゃダメだよ! お兄ちゃん」

「ああ、分かってるって…」

「フフフ…」

「何だよ」

「怖いのなら、添い寝してあげようか?」


 それこそ冗談じゃなくなってしまう。

 普通に相手が「彼女」なら喜ぶだろう…。でも、相手は楓…妹なんだ。


兄妹きょうだいなんだから、それはダメだろ…!」

「いいじゃん。別に同じベッドで寝ても…。ケチッ! 妹はお兄ちゃんの不安な気持ちを取り除いてあげようと添い寝を提案したのに…」

「いや、まあ例え楓が原因じゃなくても、兄の布団に妹が添い寝するのはヤバイと思うので、自室にお帰り下さいませ…」

「は~い。じゃあ、寝るね。おやすみ~」


 楓はドアをゆっくりと締めて自室に戻った。

 ボクはやり場のない羞恥心を心に仕舞い込んで、布団にもぐった。

 ボクが見た夢は衝撃が強すぎて、忘れようにも忘れられない…。

 脳内の記憶回路にロックでも掛けられたように…。

 スマホが点滅していたので見てみると、LINEに神代さんから昼に送った文章の返信だった。


『土日は妹さんがベッタリか~。いいなぁ。浮気しちゃダメだぞ!』


 そうだよ。ボクには神代さんという彼女がいるじゃないか。

 妹とのさっきの夢の状態になれば、ラインを越えてしまっている。それはいけない。

 ボクは、その夢が現実にならないことを祈りながら、再度襲ってきた睡魔に引きずり込まれるように眠った。


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作品をお読みいただきありがとうございます!

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