第11話 妹・楓は自覚がない

 7階フロアの本屋さんは日本各地にある大手書店がテナントとして入っていて、フロアの半分を本屋さんにしているという大きさだ。

 ボクも学校指定で購買部でしか買えない本以外の大抵の参考書はここで購入している。

 コミックや小説なども取り扱っているが、ボクは部屋が狭くなるという理由で、インターネットから電子書籍を購入して読んでいる。

 だから、コミックのコーナーはスルー。

 一直線に参考書のコーナーに向かう。

 ウチのような中高一貫校では、中等部の2年間で通常の中学校のカリキュラムを終了させ、中等部3年からは高校のカリキュラムを3年かけて行う。最後の高等部3年は大学入試のための対策を行うのが、定石となっている。だから、ボクや神代さんはすでに高3の内容を学んでいる。もう、大学受験も踏まえたうえでの内容を行っているというわけ。

 ちなみに、中学3年生の楓は高校数学の授業が始まっていると言っていた。

 だから、参考書も高校生用のものに買い直さなくてはならない。


「ウチの学校は結構、大学実績もいいから、授業内容としてはそこそこ高いレベルを要求してくることが多いからな。だから、参考書としてもガッチリと応用まで抑えられているものを購入するほうがいいと思うんだよ。で、そこでおすすめのモノと言えば、これと…これ…あ、あとこれ…。この3つの中で使い勝手のいいものを選べば問題なく使えると思うよ」

「うあ。高校ともなると結構参考書も分厚いなぁ…。これまでの中学で使っていたものに比べると、ファッション雑誌からアフ●ヌーンになったくらいに分厚いなぁ…」


 妹よ。どうしてファッション雑誌とコミック雑誌が同列に並べられるんだい?

 しかも、アフ●ヌーンとはまたなかなかマニアックな…。

 楓はパラパラと3冊を比較し始める。特に最近習ったページを中心に比較している。


「ボクが使っているのはそっちの『BASIC数学α』ってヤツなんだけど、楓くらいのレベルになると、『HighLevel数学』のほうがいいように思うけどな…」

「うーん。やっぱ『HighLevel数学』の方が難しい問題もあるし、説明は分かりやすいなぁ…て思ってたんだよね。こっちにするね!」

「おお、そうするか。あ、そうだ。この図書カード、いくらか残っていると思うから参考書の足しにしてくれていいよ。参考書もバカにならないからね」

「マジで? さんきゅー!」


 妹はボクの手から図書カードを取ると、そのままレジに向かって行った。

 その参考書をきちんと理解して買おうとするだけでも十分、頭脳明晰だよ、ウチの可愛い妹は。



 明日のための服と参考書と若干、荷物がかさばってきたので、ボクが持ってあげることにする。

 これじゃあ、完全に彼女とのデートのエスコートしている男じゃないか…。

 本屋を出たあと、ボクと楓はブラブラとモール内の様々なお店を見て回った。

 その間にも何人か高等部の連中にあったが、その都度、


「メッチャ綺麗な子~」

「その子、隼の彼女? え? 違うの? 妹!?」

「可愛いね、俺の彼女に…、いや何でもない…」


など、声を掛けられる。その都度、顔を赤らめるものだから、周囲も本気で彼女なのではないかと勘違いしたりする。いやいや、それは問題でしょ。


「やっぱり、楓は中学生にしては美少女すぎるのではないか…」

「お兄ちゃんまで何てこと言うのよ…。私より可愛い人なんてたくさんいるのに…」

「いや、楓、自覚ないのか?」

「フフフ…残念ながら、中学3年生にして『高嶺の花』なんて伊達に学校で呼ばれてないですよ…」

「ああ、ゴメンって。そんなつもりは全くなかったんだよ…」

「でも、いいんです! 私にはお兄ちゃんがいますから!」

「いや、そろそろ彼氏がいてもおかしくない年齢ではあると思うんだけど…」

「そもそも、私はまだ中学3年生ですよ! 中3でリア充とか爆発しろですよーだ!」


 まだまだ、ウチの妹に彼氏ができるのは先の話かな…。

 まあ、ボクも高校2年でようやく神代さんという彼女さんができたくらいなんだから、楓に取ったらまだまだ遅いなんてもんじゃない。逆に彼氏が出来たら、かなり早い方になってしまう。

 まあ、まずは友だちときちんと仲良くだけはしてほしいものだね。

 「高嶺の花」も稚拙だけどさ――。


「ところでお兄ちゃん。今日の夕食はどうするの?」

「さすがに昼も夜も外食ってのはお金がかかりすぎるし…。そうだ。家にウナギの蒲焼が半切れ残っていたんだ。これを使って出汁茶漬けなんてどう? お昼のどっしりとしたメニューとは逆にやや軽めになるけど」

「うん、それでいいよ…。やっぱ、お兄ちゃんは私と結婚してもらわないとダメだわ~」


 いや、だからお兄ちゃんの存在意義って何なのさ。

 楓にとってのボクって本当にメイドか執事…家政婦的な扱いだよね。

 そんな彼女は、ボクの腕に抱きつくと、はにかんだ笑顔をしながら、


「お兄ちゃん、大好きだよ!」


 と、周囲が聞いたら、大きな勘違いをしてくれそうな台詞を言う。

 妹にそんなこと言われても、普通ならドキドキしないかもしれないけど、ウチの妹はメチャクチャ美少女だ。

 勘違いだって……、絶対に起こしてはいけない。

 ボクは心の中でそう言い聞かせながら、帰路についた。


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