第10話 楓様とのご昼食
妹が紹介してくれたのは、8階の飲食店が並ぶ通りの奥まったところにあった。
お店の名前は「Pasta cruda -パスタ・クルーダ-」。イタリア語で生パスタというそのままの意味のお店。
まだ、ランチには少し早い時間だったこともあり、それほど多くの人がいるわけではなく、ほぼ待つこともなく、店内に招かれた。
ボクは、「焦がしベーコンとパルメザンチーズのトマトソース生パスタ」をランチセット(パン、サラダ付)で頼み、楓は「海鮮と新キャベツのクリーム生パスタ」をデザートセット(サラダ、デザート付)で頼んだ。
「へー、こんなお店があるんだね」
「うん。この間ね、ここでバイトを始めたウチの部活の先輩が大学生でいてさ、メニュー持ってきてくれたんだよ。あと、
「え? 今どきって
「私もそう思った。お兄ちゃんが晩御飯を作ってくれなくなったら、ここでアルバイトするしかないって思ったもん」
だから、お兄ちゃんの存在意義って何?
何だか美味しい晩御飯製造マシンになってない!?
「だーかーらー、ぜひともお兄ちゃんにここの生パスタを味わってもらって、家で作ってもらおうと思ったわけよ!」
「でも、生パスタってまたハードル高いものを要求してくるね…。ボクでもできるかどうか不安だよ」
「まあ、まずはしっかりと味わおうよ」
「お待たせいたしました。………て、楓さん!?」
「あ、美沙先輩。今日もバイトなんだ、偉いですね!」
「楓さんこそ今日はちゃっかり羽を伸ばしているんだね。私服姿、久々に見たよ」
この
清楚なメイド服がこのお店の制服なんだけど、すごくぴったりとフィットしていて、すごく清楚感が出ている。(この辺も大学生のなせる
「わざわざ食べに来てくれたんだね。ありがとね」
「先輩のお話を聞いてると美味しそうだったので、つい――」
美沙さんは手際よく、食事をボクと楓の前に並べていく。
さすが、慣れていらっしゃる。
並べ終えると、美沙さんは膝をついて、楓の耳元に話しかける。
「ちなみにさ…楓。一つ聞いていい?」
「ええ、何でしょうか…?」
「あれ? 彼氏?」
「ち、違いますよ! あれは私の兄です!」
「あ、そうなんだ…。楓も可愛いんだから、男がいてもおかしくないかなぁ…と思っていたんだけど、違ったか」
「残念ながら、私はそういう方はいません…!」
美沙さんと妹よ。残念ながら、ひそひそ話がボクに丸聞こえなんですけど…。
楓くらいの美少女になると彼氏がいて当然と思われているんだなぁ…。
美沙さんが「ごゆっくり~」と言い残して、厨房の方へ去っていった。
「さてと、じゃあ、いただきますかね」
「う、うん……」
楓はまた顔を赤らめたままだ。
複雑なお年頃だなぁ~。彼氏は欲しいのかもしれないけど…。
複雑な表情をした楓も、パスタを口にする頃にはご機嫌になっていた。
それほど美味しかったのである。
「ねえねえ、お兄ちゃん、そっちのも少し頂戴! 私のもあげるから」
「ん? いいよ。ほら」
ボクがフォークとスプーンでパスタを取り分け、妹の前に差し出す。
すると、楓はそのままパクッと食べてしまった。
「うーん。この焦がしベーコンとトマトが合うね! じゃあ、私のを、はい!」
楓もボクと同じようにフォークとスプーンに取り分けで、そのまま差し出す。
ボクもそれをそのまま頂く。
「海鮮の出汁と生クリームが絶妙に合わさってるね。これは美味い」
そこでボクは遅ればせながら気づいた。
今の間接キスだよね…。
何だか、すごく自然に食べさせに来てたから、そのまま食べてしまった。
目線を妹に向けると、妹も積極的に行ったことを後悔しているのか、恥ずかしがっているのか分からないけど、顔を赤らめている。
何か、腕組んできたり、お互いであ~んしたりと今日の妹は何だか積極的過ぎるんだが…。
どうしたんだ―――!?
しばらく、ぎこちない空気が漂う中での食事となった。まあ、すごく美味しいパスタだったのは間違いないんだけどね。
食事がほぼ終わった頃に、
「デザートセットのデザートと、ランチセットの紅茶をお持ちしました~」
美沙さん再登場。
この固まった空気を通常モードに戻してくれた。ありがとう。
妹はデザートセットなので、さらにティラミスまでついている。
いやぁ、妹はどうしてこんなに食べてるのに、無駄なお肉が付かないのかねぇ…。
食事を食べ終え、楓はデザートを、ボクは紅茶を嗜んでいる。
ボクは唐突に―――、
「ところで、楓って学校で告白されたりしないの?」
「ブフッ! いきなり何よ……」
「いや、ボクが言うのも変だけど、楓ってすごく可愛いし、水泳部ではジュニアインターハイも制覇、さらには生徒会の副会長でしょ…。告白するヤツがいてもおかしくないかなぁ…って」
「うーん。いないって言ったらウソに聞こえるかもしれないけど、これまで告白はされたことないなぁ~。多分、ハイスペック過ぎるんだよ…。中学生で使う言葉じゃないと思うけど、『高嶺の花』って扱いされているんだと思うな」
「うん、確かに中学生に使う言葉としてはどうかと思うね…」
「だから、さっき、
「まあ、確かにハイスペック過ぎると、チャラい男も遊びで声かける勇気は
「そうそう。だから、私はこれまで告白されたことはありませーん。あ、でも別に私に女の魅力がないのかな…とか凹んだりしてないよ。お兄ちゃんに目いっぱい『可愛い』って言われまくっているから、それだけで救われているね。何ならお釣りが来ちゃうくらいに」
「まあ、可愛いことは噓じゃないから、な!」
「あ~、お兄ちゃんみたいな彼氏いないかなぁ~」
「そう簡単には見つからないだろうねぇ…。こんな変わり者…」
「そうだよね。メチャクチャ妹思いで、料理が上手すぎる人なんて、そういないよね」
だーかーらー、ボクの存在意義って何!?
しかも、それを彼氏の条件にしちゃったら、相手も見つからないよ!
「お兄ちゃん、なし崩し的に私が大人になったら、結婚しちゃう?」
「あはは…ぜってーに両親が包丁握って、イギリスから飛んで帰ってくるから止めときなさい」
「えー、残念だー」
さらに本当に残念そうな顔をするのはお止めなさい。
楓は残っているティラミスをパクパクと食べ終え、満足そうに「ごちそうさまでした」と手を合わせた。
「ここは、ボクが払っておくよ。生パスタといういい勉強もできたしね」
「え? マジで? ゴチになります!」
「じゃあ、この後は、参考書を買いに本屋さんだね…」
「そうそう! 数学が、中3になって、いきなり高1の内容をし始めるんだもん。このままじゃ、首席を狙うどころか、次席すら危ういよ…」
「中学数学と高校数学は大きく違うからなぁ…。ま、いい参考書があるから、紹介してあげるよ」
「さんきゅー!」
ボクたちは店を出ると、順番待ちをしているお客さんを横目に、本屋のある7階を目指した。
妹はここでもボクの左腕に自分の腕を絡ませてくる。
何なになに――――????
付き合い始めたときの練習のつもりなのか?
あまり積極的に攻めすぎると、お兄ちゃんの心が壊れちゃいますよ…。ボクも男なんですから…。
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