第7話 恋愛初心者(バカップル)

「そういえば、妹さんが7時に帰ってくるって言ってたよね」


 神代さんはガラスコップのリンゴジュースを飲み干すと、時計を見ながら言った。


「ええ、そうですね。楓は部活が6時半ごろまでありますからね。いつも最終下校で学校を出てますよ。ウチの学校って施設も充実しているので、中等部も高校の施設を使わせてもらっているみたいですよ」

「妹さん、私たちの後輩なんだよね」

「あ、そうなんです。中3なんですけど、そのままエスカレーターで高校に入るつもりで、外部進学は考えてないみたいです」

「へぇー。そういえば、凜華の弟も同じ学年よね…たしか」

「神代さんは聞いたことありませんか? 聖マリオストロ学園中等部の頭脳明晰・容姿端麗の生徒会長と副会長の話…」

「あー、何か聞いたことある。確か、常に定期テスト・学力テストで生徒会長が首席、副会長が次席って…え、まさか……」

「生徒会長が橘花さんの弟くんで、副会長がウチの妹です」

「それって最強コンビじゃん…」

「中学校では、この二人がいつになったらくっ付くのか周囲がドギマギしているようですけどね…」

「まあ、それは当人次第って感じよね。たとえ、頭脳明晰・容姿端麗であったとしても、当人たちに恋愛感情がなければ、くっ付くわけないわよね」

「まあ、ウチの妹は『恋愛』より『水泳部』を満喫されている様子ですけどね…」

「そっか、楓ちゃんってどこかで聞いたことあるなぁ…と思ったら、ジュニアインターハイの水泳の自由型で優勝してたわね…。妹さん、スペック最強過ぎじゃない?」

「ええ、ですので、兄としては妹のサポートをすることに徹していまして…」

「なるほど、すごく大事なことね。だから、清水くんは乙女心も分かるってわけか…」

「いや、乙女心はわからないですよ。妹以外の相手をしたことはありませんから…。まあ、ギャルゲーくらいなら……。あ………」


 隣の美人なお嬢さんが凄く鋭い眼光でジトーッとこちらを睨んでいる…。

 ボク、コロサレルノカナ……。


「まあ、健全な男の子かつなんだから、リアルな女の子より選択肢で自分を好いてくれる女の子の方がいいって感じなわけ?」

「いや、別にそういうわけでは…」

「ところで、清水くんって…その……陵辱モノとか…NTRとか…好きなのかな……?」

「全くダメですね…。純愛オンリーです…」

「そ、そうなんだ…良かった……」


 あー、すっごく安心なされたのが表情で理解できた。何、この安堵感…。

 さすがに自分の彼女のようなキャラクターを虐めたり、人に奪われたりはイヤだ…。

 あれ? ボクってもしかして、独占欲強いのかな?


「そういえば、神代さんの家は兄弟とかいるんですか?」

「うん、いるよ。中2の妹と小5の弟が一人。あとはお母さんと一緒に住んでるよ」

「そうなんだ。お父さんは単身赴任か何か?」


 ボクがそう問いかけると、神代さんの表情が一気に曇る。

 あれ? マズイこと訊いちゃったのかな…。


「家にいないよ。私、お父さん嫌いだから、追い出しちゃった…。これ以上、今日は話さない…。またいつか話すよ…」

「う、うん…。別にいいよ。話したくなかったらさ」


 ボクは神代さんの頭をヨシヨシと撫でる。彼女の表情は少し明るさを取り戻した。

 神代さんは、エヘヘって笑って、ボクの方を見つめる。

 逆にボクの方が恥ずかしい…。


「何だか私たち、二人とも『恋愛初心者』だよね。距離感も分からないし、今のナデナデもそうだけど、外から見たらバカップル全開よね」

「あ、それ、自分で言っちゃいます? ボクは口に出すのが恥ずかしくて言わなかったんですけどね」

「でも、来週からは定期テスト2週間前だから、学校内の空気もテスト対策モードに嫌でも切り替わるのよねぇ…」

「そうですね。まあ、その期間になれば、ボクたちも勉強モードに入りますけどね…」

「でもさぁ、私たちどうやって一緒に勉強する? 学校の自習室とか空き教室とかもあるけど、そこで私たち二人で並ぶのって今の状況下だとまずそうだし…」

「さっきも話していたように、地元こっちでやりませんか?」

「確か、図書館に自習室が解放されていますよ。あそこはそんなに人がいないし、個室になっていますから…。しかも、ネットで予約できるんですよ、ホラ!」


 ボクはスマホのアプリ一覧から、図書館関係のアプリを立ち上げる。

 図書館の利用予約に関してのアイコンをクリックするとスケジュール欄に○・△・×が表記されている。と、いうより、ほとんどが○だ。

 今の時期は、あまり利用者はいないようだ。


「へぇ~すごいね。予約しておいたら、周囲を気にせずに勉強できるね!

 まずはさぁ、来週の月曜日から始めない? どうしても数学で教えて欲しいところがあるの!」

「え、いいですよ。じゃあ、今ここで予約入れておきますね」

「さんきゅー! やっぱ仕事のできる彼氏は助かるわ~」

「まあ、その代わり陰キャなんで、外遊び全般は不得意分野ですけどね…」

「その辺は私が教えてあげるから問題ナシっ! 夏休みにはプールとかも一緒に行きたいしなぁ~。清水くんを私の水着で悩殺させてあげるわ! えへへ、まだ買ってないけどね」


 神代さんの水着姿――!?

 このスタイルならば、どんな水着でも悩殺されちゃうよ!

 鼻血出過ぎて、血液不足で死んだりしないだろうか…、ああ、不安。


「あ! もうそろそろ6時だね。月曜日は、ちゃんと学校に行くから、安心しておいて。あー、でも学校ではほとんど話せないんだよね」

「月曜日は社会科がありますから、社会科係として話をすることはできますよ」

「なるほど、確かに自然な状態ね。じゃあ、私、家に帰るわ…って上の階に移動するだけだけど」


 ボクは彼女を玄関先まで見送った。

 何だかあっという間に時間が過ぎ去ったような気がする。

 神代さんとの話し相手は全然疲れないし、むしろ自然なままでいられる。

 何だか、変わった人だなぁ…。ボクを好きになってくれた陽キャな彼女は、とことん、ボクの心を離さない、そんな彼女ひとでした。


「あ、6時だ…。晩御飯作らないと! 今日は中華中華~~~」


 ボクはコップを片付け、キッチンで鶏の唐揚げ、青椒肉絲チンジャオロースとたまごスープを作り始めた。

 妹の喜ぶ顔を想像しながら……。



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