第6話 イチャイチャしたい彼女

「今だったら、もう気持ち的にも落ち着いたから、朝の話しても大丈夫だよ」


 彼女はガラスコップに入ったリンゴジュースを少し飲んで、深呼吸してからそういった。

 顔色もかなり良くなっている。

 彼女曰く、清水くんに会えたから、気持ちが凄く楽になった、のだそうだ。

 面と向かってそんなこと言われると、照れます。


早乙女さおとめくん、あの噂、信じていたんだね」

「そうみたいですね…」


 噂というのは、「神代さんがパパ活をやっているビッチだ」という話。

 そもそもどこからの出所か分からないけど…。


「まあ、出所は何となくは分かっているんだけどね。たぶん、3か月前に告白してきたサッカー部の伊藤だと思う。アイツを振った後にこの噂が流れ始めたから…」


 サッカー部の伊藤駿介いとうしゅんすけか…。アイツは完全なる支配タイプの男だよな。これまでも色々と聞いている。他校の女子生徒に手を出したとか、そういう類の話までも。

 ウチのサッカー部は全国大会に毎回出場している強豪校で、かつそのチームのエースストライカーが伊藤だったりする。


「アイツに対する良くない噂は色んな友達から聞いていたら、容姿とか関係なく、何か嫌だったから振ったのよね。

 まあ、そのころからすでに私は清水くんを見ていたんだけどね~エヘヘ」

「あ、そうだったんですか」

 

 ゔ――――。そう言われるとすっごく恥ずかしいぞ! て、神代さんが言い出しっぺなのに、恥ずかしがるのは反則でしょ。えへへ、が犯罪級に可愛い。


「だから、あの噂は全くのウソなんだよね…。それに清水くんには伝えておくわ。

 私、だから!」

「う、うん…」


 そんな宣言されてもどう反応すればいいの!?

 困るに決まってるでしょ。


「でも、あそこまで盛大に凜華りんかも、陰キャをディスっちゃうと何だか後戻りしにくい空気作っちゃったよねぇ~」

「でも、そもそもの原因は翼が持ってきたエロゲーの話をしだしたことなんだけどね。そこに橘花さんが陰キャ=キモイという括りを誕生させてしまって、闘争化してしまいましたよね…」

「やっぱり、今日の教室の空気は――」

。」

「やっぱりそうかぁ…。凜華と雪香は私の噂はウソだって分かっているんだけど、あそこまで煽られたような空気があるとねぇ…。凜華はそれだけでスイッチ入っちゃうんだよね…。橘花家って血の気の多い人ばっかりなのかしら…」


 確か、橘花さんの弟と妹って一緒に生徒会してたよな…。今度聞いてみるか…。


「あ、そういえば、クラス内の陽キャの中に『神代遊里親衛隊』なるものが出来てましたよ」

「え? 何それ? ウケるんだけど…」

「まあ、翼の言い方が、神代さんに対してかなりキツイ言い方でしたからね。絶対にボクらは敵として認識されてますよ」

「え? 清水くんも? 何で?」

「そりゃ、翼や葵はボクと常に一緒につるんでいる仲間ですからね。たとえ、ボクだけが人畜無害であるとされていても、一緒に行動している限りには…」

「何だか面倒くさいことに巻き込んじゃってゴメン…」

「神代さんが謝る必要はありませんよ…。ボクも神代さんのことをそんな風に言った翼が許せませんでしたし。あの後、翼に対してボクからの最大限の恐怖を味わわせておきました」

「あ、そうなんだ…」

「で、あと一つ厄介なものが…」

「まだ、何かあんの!?」

「ええ、実は、『ギャルゲー・エロゲーという文化の自由を脅かすことに反対提唱する連盟』が陰キャ側で出来ました」

「ええっ!? もう、クラス真っ二つじゃん!」

「そうなんですよ」


 本当に頭が痛い…。

 最初のままであれば、「神代さんの噂はウソ」「お互い言い過ぎた、ごめんなさい」で終わるような話だったのに…。まさか、ここまで大事おおごとになるとは。


「何だか、学校で私たち一緒にいられそうな雰囲気じゃないね…。『彼氏彼女の関係』なんて堂々とできないじゃん…」

「本当にそれなんですよ…」


 ボクはそこでガラスコップに残っていたリンゴジュースを飲み干す。

 すると、彼女はボクをギュッと抱きしめて、


「あ~ん、折角『彼氏彼女の関係』になって、もっと近い存在になったのに、何だか遠くに離れていってしまったような感覚だわ~」

「え、どうして急にギュッてしちゃうんでんすか!?」

「だって、遠くに行ってほしくないもん! それに二人きりだからしてんのよ! まだ、誰かに見られている状況ではさすがにできないわ…。その…恥ずかしくて……」


 ボクにとっては、誰かに見られていなくても、恥ずかしいです。

 ギュッてされちゃうと、神代さんの立派な膨らみ二つがフニュンとボクにぶつかるんですから…。

 陰キャなボクでなきゃ、押し倒しちゃう展開ですよ!


「じゃあさ! いっそのこと地元こっちで『彼氏彼女の関係』を維持しない?」

「いいですけど、妹とか神代さんのご家族についてはどうします?」

「まあ、たぶん、近いうちに親とかにはバレるんだと思うけど、それまでは隠しながら付き合っちゃおうか」

「そうですね。その方がいいかもしれませんね。もうすぐ中間テストだから、勉強会もできそうですしね」

「えーっ、それメッチャ『彼氏彼女の関係』じゃない。今からテスト勉強楽しみになってきたー!」


 中間テストの勉強を楽しみにしている人なんて、世の中にほとんどいないと思うんだけどなぁ…。

 さすがにしっかりと点数を取らないと、ウチには学力最強・スタイル最強の妹君がいらっしゃるからなぁ…。

 結果を出しておかないと、そろそろ海外赴任中の両親からお小言が、それこそ海を飛び超えてやってくるかもしれない。

 時計の針は、5時半を差していた。



―――――――――――――――――――――――――――――

作品をお読みいただきありがとうございます!

少しでもいいな、続きが読みたいな、と思っていただけたなら、ブクマよろしくお願いいたします。

評価もお待ちしております。

コメントやレビューを書いていただくと作者、泣いて喜びます!

―――――――――――――――――――――――――――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る