第5話 陰キャと陽キャの距離感
その日、神代さんは体調不良で早退した。
一コマも授業を受けずに…だ。
そりゃそうだろう。クラスみんなの前で翼によって「ビッチ認定」されたわけだから…。
その日一日は、重い空気のまま過ぎ去った。
重いなんてもんじゃない。
クラスにいる神代さんたち以外の陽キャ軍団も黙っているし、ボクたち陰キャも静かなもんだ。
国語科の自称「学園の
「あたしの授業でこんなに反応がないのは、いまだかつて無くて、
と、頭を抱えていたくらいだ。
そう。一気にクラスの仲が分断され、各々がいがみ合いを始めてしまったのだ。
放課後―――。
ボクは妹のために晩御飯の買い出しをするため、最寄り駅の近くのスーパーに来ていた。
最寄駅から自宅までの導線にスーパーがあるのは本当に助かる。
妹の楓は、部活(水泳部)をしてからの帰宅なので、いつも、7時を回るころにご帰還なさる。主将もしながら、生徒会の副会長職を行い、成績も次席を維持しているんだから、お兄ちゃんとしては家事全般をしてあげなければならない、と感じてしまう。
「今日は楓の好きな中華にしますかね」
スマホでチラシ広告を確認して、広告に載っている目玉商品と他の必要な商品をカゴに入れると、レジに並ぶ。
隣町にも大きめのスーパーがあるのだが、そこと価格を比較すれば、安上がりにはなるのだろうが、そもそも時間の限られた中ではそんなことはできない。それができるのは、お時間のある主婦の方々なのだろう。
レジで会計を済まて店を出ると、一人の女性に目が留まる。
「あれ? 神代さーん」
力なさげにトボトボと歩いているのは――。間違いない、神代さんだ。
「あれ? 清水くん…。どうしたのこんなところで…」
「ああ、ボクは今、帰りで夕食の買い出しをしていたところです」
「そうなんだ…。私はさ…何だかブラブラとしてたんだ…。もうね、何かイヤになっちゃったよ…」
「あ、あの…今日のことは本当にすみません…」
「何で、清水くんが謝んの?」
「いや、まあ、それはそうですね…」
「それに…、今日はその話、したくないな…。今は、清水くんの彼女でありたい…。折角会えたんだし…」
エヘヘ…と神代さんはボクに微笑んだ。
涙の後はもう残っていないけど、無理やりって感じではないくらいのはにかんだ笑顔だった。
「あ、そうだ。清水くんってちょっと時間あったりする?」
「ええ、妹は7時ごろには帰宅するので、それまでに夕食を作っておく必要はあるので…」
と、ボクは腕時計を確認すると、今は4時半。
「6時くらいには帰宅できれば問題ないですよ」
「じゃあさ、少しウチに来ない? ウチも今の時間なら、誰もいないと思うから、少しは
え? 付き合った翌日にいきなり彼女の家に彼氏を連れ込みますか!?
行動がアグレッシブ過ぎるのか、それとも神代さんが精神的にちょっと参っているのか…。
うーん、今日は後者の方かな。じゃあ、従っておこう。
「分かりました。じゃあ、少しお邪魔します」
あれ? でも今思うと、いきなり、彼女の家に行けちゃうってこれ、どういうルート!?
ギャルゲーならぬエロゲーなら……いやいや、ダメだダメだ。
まだ、付き合って2日目なんだから、紳士であれ!
道中は「最寄り駅が一緒だったんだ」とか「これから一緒に通学できるね」とか他愛のない会話が続いた。そんな話をするたびに、少しずつではあるが、神代さんの気分も回復してきているようにも感じた。
「ここ、このマンションの11階が私の家なの…」
「え?」
「どうかしたの?」
「いえ、あの、ここのマンションの名称は…」
「『サンエルフコート』よ」
やっぱり、間違いない!
「ここ、ボクん
「……えぇぇえぇぇぇっ!?」
今度は神代さんが驚いている。
折角の美人な顔がギャグマンガのような顔になってしまった…。
今後はあんまり驚かさないように気を遣うようにしよう。
「清水くん
「ボクん
「私ん
「どうして今まで気づかなかったんでしょうね…」
「まあ、登校時間とかが私と清水くんとでは、ビミョーにズレてたんだと思うな。それに私が引っ越してきたの、昨年の12月だから、あんまり会わなかったのかもしれないよね」
ただ結局、話をするのはボクの家になった。
ボクが買い物を冷蔵庫に入れないといけないのと、付き合って2日目で彼女の家にお邪魔することがやはり心のどこかでダメなような気がしたから…。
神代さんはボクが冷蔵庫に買ったものを入れたりする時間の間に、荷物を自宅に置いてくるようだ。
ティロロン!
ちょうど、買ったものを整理し終わったタイミングで、LINEの通知音が鳴る。
画面を見ると、神代さんから「今、着いたよ~」と書かれている。
玄関のドアを開けると、制服姿の神代さんが立っていた。
「片付けてないから、ちょっと散らかっているかもしれないけど、どうぞ」
「ああ、そんなの全然気にしなくていいよ。お邪魔しまーす。て、やっぱり同じマンションなだけあって、構造は基本的には一緒だね」
彼女をリビングのソファに案内する。
「リンゴジュースがあるけど、それでいいですか?」
「あ、ありがと。ホントに気使わなくていいよ。急にお邪魔することになったんだから…」
リンゴジュースをガラスコップに入れて、リビングのテーブルに置く。
ボクはそのまま座ろうとして、気づく。
神代さんは今、ソファに座っていて、ボクがこのままラグに座ると、目線的にスカートの中が…み、見える。もう、丸見えだ…。
こ、これはまずい…。どうしよう。
「あ、清水くん、ゴメン! ちょうどこのソファ、大きいから横に座ってよ」
ボクがラグに座ろうとしているのを察して、彼女がボクに自身の横の空いた部分を勧める。決して、パンツが見えそうになっていたからではない…。
ボクの心臓がビクンッと大きく跳ねた。
どうして、彼女はいつもこんなに積極的なんだろう。これが陽キャ特有の行動パターンなんだろうか…。
「ここに座ってよー! ちょっとしか時間ないんだから、一緒に話をしよ♪」
ボクは彼女のお誘いを断る理由もないので、隣に座ることにした。
あ、ふわっと彼女の髪からいい匂いがする。
昨日、ギュッてしてもらったときに包まれた匂い。
その匂いに、ボクの心臓は
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