第4話 派閥闘争のはじまり

 ボクにとっては今日も平和なスクールライフ――を送りたかったです。

 2年3組のドアを開けるなり、耳に飛んできたのは、怒号の応酬であった。


「そういうのがキモイって言ってんのよ!」


 怒号の張本人は、橘花凜華たちばなりんか。神代さんがいつも一緒にいる陽キャグループの1人だ。

 アニメの世界でしか見たことのないような、縦ロールの金髪をしているのですごく目立つ。それにしても、ウチの学校、制服の着こなしとか髪型とかそこそこ校則緩いよなぁ…。

 そもそも橘花さんって、由緒正しき橘花家のお嬢様で、どうして陽キャ軍団で行動しているんだろうと思ってしまう。

 何がキモイというのだろうか…。

 ボクが遠巻きで見ていると、そこに神代さんと陽キャ軍団のもう1人、二葉雪香ふたばゆきかも橘花さんの後ろで腕を組んでその光景を眺めている。

 顔からは明らかなる嫌悪感がにじみ出ている。

 ちなみにその怒号を受けているのが、


「何がキモイんだよ! これはな、芸術なんだよ! どうして芸術がキモイ扱いされるんだよ!」


 ――早乙女翼さおとめつばさくん。と、そこ横で怒号を涼しげに受け流している百合山葵ゆりやまあおいくん。

 両名よ…。これはどういうことだい――?

 朝から何でこんなにも賑やかになってしまったのだろう…。

 ボクはあの仲間に加わりたくないなぁ…と思っていたところ、翼に見つかった。


「あ、隼! 隼もコイツらに言ってやってよ! ギャルゲーが芸術だって!」


 ん? 翼、今、なんて言ったかな???

 ボクの聞き間違いだったのかな…。明らかに高校で、しかも、声を大にして言うような言葉ではないモノが耳に飛び込んできたんだけど…。


「隼、コイツらにギャルゲーの良さを伝えてやってよ!」

「いや、それはなかなか難しんじゃないか? そもそも土俵が違い過ぎるだろ…」


 ボクは翼のお願いに速攻でツッコミを入れる。

 陽キャがギャルゲーをしないとは言わないし、しているとも言わない。でもさ、この3人は明らかにしない方だろ。

 しかも、翼のタブレットに映し出されてる作品は、どちらかというとギャルゲーといわずに、それはエロゲーというのではないかい…?

 そうなると、絶対にしないだろう。

 てか、「それ」を学校に持ってきて見せ合うか!?

 さすがに、ボクも「陵辱モノ」や「NTRモノ」はゴメンだし、それを芸術と言えてしまう翼の精神構造あたまのなかを疑いたくなる…。

 とはいえ、これも「サブカルチャー」なのだ。

 いわば、「コア」なファンというのは色々といる。


「私、聞いたことがあります。そういうのを英語では「HENTAI」って言うって」


 んがっ!

 そこで二葉さん、そんな余計なこと入れなくていいんだよ! そんなところで帰国子女しなくていいです! 彼女は日本人の父とロシア人の母を持つハイブリッドだ。当然、外国のお友達もいるだろうけど、なんて言葉を教えてるんだ…。

 それに、彼女の特徴でもある白いお肌がどピンクに染まってるでしょ。恥ずかしいなら言うなよ…。

 てか、周囲がざわついたでしょーが!!


「清水よ。お前も系の人間なのか?」


 橘花さんが、腕組みをした状態で、憤怒の表情を崩さずに問いただす。

 うあ。さすがにあまりの怖さに気圧けおされてしまう。


「その無言は、同意ととらえてもいいんだな?」

「まあまあ、隼は問題ないよ…。たぶん、系じゃないし」


 と、葵がはにかんだ表情のままでボクの代わりに答える。

 葵は「それに」と付け加える、


「サブカルチャーは1つの経済を動かしている源なんだよ。確かに翼が持ってきたのが道徳的にどうかは賛否つけがたいものだけど、サブカルチャーそのものを否定するのは、僕も許しがたいことだね」

「あんた、麻衣ちゃんがいるのに、こういうのやったりするの!?」

「まあ、モノによるけどやったりするよ。麻衣もそれは理解してくれているし…」

「信じらんない! リア充のくせに!」


 葵と橘花さんの応酬はまだまだ続く。


「いわば、橘花さんもそうじゃない? 好きな男の子と付き合っていても、自分の好きなバンドのボーカルに恋したり、推したりしたりするじゃん。彼氏が一番なんだけど、部屋はボーカルのポスターに埋め尽くされている…みたいな」

「そ、それは一緒なのか?」

「まあ、ジャンルは違うけどね。それに橘花さんの言い方だと、陰キャそのものがキモイって感じで言われているように感じるよ…。

 そうなると、このクラスに国民的アイドルグループの推しはたくさんいると思うよ。男女問わずね。そんな陰キャもキモイ対象にする?」

「そ、それは難しい話ね」

「でしょ?」

「でもな、学校ここで堂々と出されるのは納得できないし、これはキモイ! キモイものをキモイといって何が悪い! なあ、ユーリもそう思うだろ?」

「あ、ああ、まあ確かにサブカルチャーは認められることだという話は理解できたが…さすがに、これはイヤ…かな」


 陽キャ軍団からの「キモイ」連発攻撃に、翼の堪忍袋の緒が切れた。


「キモイ、キモイうるせーよ! そもそもこれは文化であり芸術でもある! これを認められない時点でお前ら陽キャはクソなんだよ!

 お前らなんか、みんなビッチじゃねーか! 神代なんか、スカート短くして、おっさん誘ってお小遣いもらうパパ活やってんだろ!」

「こらっ! お前…それはちが……」


 パシィッ!!!!

 激しく頬がはたかれた音が教室に響いた。

 もちろん、叩かれたのは翼だ。

 そして、叩いたのは……


「そ、そんなことしてない! ひどい! 酷過ぎるよ!! 絶対に許せない!!」


 神代さんは目にたくさんの涙を浮かべながら抗議し、教室を走って出ていった。

 二葉さんは、後ろを追いかけていく。


「早乙女、お前、ユーリに対してよくもそんな酷いこと言えるな…」

「ふん。メチャクチャ噂で流れてんじゃん! 俺は噂に言っただけだよ…」


 橘花さんの抗議に翼はフンッ!と突っぱねる。


「陽キャをクソビッチ扱いして何が悪い! 陰キャをキモイ扱いしてんのと一緒だよ!」


 どうしてコイツは火に油を注ぎたがるのだろう…。

 ただ、ボクはここでは何も発言しようがない…。てか、何を発言しても正解ではなさそうな気がする。

 教室内が一気に不協和音が鳴り響いたような空気感となり、そのまま授業5分前を告げる予鈴が校舎内に鳴り響いた。



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