第3話 妹・楓からの疑念

 ボクと神代さんが告白した翌朝―――。

 ティロロン♪

 LINEの通知が来た。もちろん、送り主は神代さんだ。

 昨日からずっとこんな調子だ。

 陽キャはひたすらスマホで何かを打ってるって翼が言ってたけど、それって本当かもしれない。

 よくもこんなにも沢山言葉を送ってくるもんだ…。

 まあ、自分もそれにしっかりとこまめに返信してるから、彼女も送ってきちゃうんだろうけどね。

 でも、こういうのっていつのタイミングで切ればいいのか分からないからね。

 昨日は彼女が「そろそろ寝るね💤」って送られてきて幕引きとなった。

 いやぁ、陰キャな自分としては、こんなにもコミュニケーションツール使ったのは前代未聞だよ…。たぶん、これまでの使用時間を優に超えていた。せいぜい、LINEは妹との連絡手段くらいだから。

 ちなみに今朝の彼女からの通知は、「おはよー、また後でね!」だった。

 ボクからも、「おはよ。じゃあ、学校でね」とだけ返しておく。

 ウチの家は中学3年生の妹の楓との二人暮らし。オートロック完備のそこそこ値の張る賃貸マンションだ。ウチの親は二人とも貿易関係の仕事を務めていて、今はたしかイギリスにいてるはずだ…。そこで、高2の僕と中3の妹を日本に置いて、夫婦で仕事にいそしんでいるようである。

 家賃や税金や光熱費は自動的に口座から引き落とされているようだし、生活費も僕たちの口座に振り込まれている。僕と妹のお小遣いはそこから計算して使うように言われている。

 まあ、楓はボクが通っている高校の中等部に入学した関係で、学校は敷地的にはお隣さん同士だ。

 とはいえ、楓も今や中学3年生で「お兄ちゃんとは絶対に一緒に行かねー!」と言ってる。

 うーん。所謂、お年頃といったところなのかな…。

 楓も中学3年生だから、本来であるあるならば「受験」を考える時期ではあるのだが、中等部に通っているメリットと言えばいいのだろうか…。成績が規定水準より上であるならば、当日の内部進学者専用の試験を突破すれば、合格は間違いない。

 それに妹の成績は、次席―――。

 お兄ちゃんであるボクよりも成績が良くて、外部の高校からもお誘いが来ているそうだから、吃驚びっくりだ。

 お願いだから、お兄ちゃんの面子メンツを潰さないでほしい。


「さて、じゃあ、そろそろそんな妹を起こしますかね…」


 ボクはLINEの通話ボタンを押す。

 これは我が家での朝の恒例行事。

 絶対に妹の部屋に侵入して起こしてはならないのである。過去に一度それをしたところ、ちょうど、着替えをしていたところだったようで、ブラジャーを付けようとしていたところに出くわしてしまった。

 神代さんほどではないけど、ほんのりとした胸の膨らみを見てしまったのだ……。

 えぇ、あとはご想像通り。

 ボクは朝から「」わけです。

 それ以来、ボクが提案したのはこのLINEを使っての「モーニングコール」だ。


「あれ? 出てくれないな…」


 ガチャッ!


「うるさいなー! 起きてるわよ!!!」


 勢いよくドアが開け放たれるのと同時に、妹の怒号が飛び込んでくる。

 うあ。メッチャ怒ってるね…。


「ちょうど髪の毛セットしてたの!」


 なかなか自由気ままに育ってしまったウチの妹・清水楓。

 母親譲りの小顔と父親譲りの高身長の両方を兼ね備えたスタイル最強美少女だ。

 最近の流行マイブームの髪形はツインテールらしい。

 セットするの面倒くさそう…。


「ああ、ゴメンゴメン」


 なぜか謝っちゃうボク。兄の威厳とは…。


「朝ご飯できたから冷めない間に食べてほしいと思っていたからね」


 テーブルには、すでにトーストした食パン、目玉焼き、ベーコン、サラダがワンプレートに用意されている。


「それはとっても嬉しいです。お兄ちゃんの食事はいつも細やかな気遣いがなされているし、栄養管理もできているし、ホント、サイコーだよね。あたしは、お兄ちゃんによってこのスタイルまで育ててもらえたんだよ♪」

「全肯定のお褒めの言葉、恐縮でございます」

「よきに計らえ…うむうむ」


 何なんだろう、この茶番劇。

 まあ、妹が機嫌を直してくれるのは、ありがたいことだ。

 このまま不機嫌に登校されて、中学校で問題を起こされても困るからね。


「そういえばさー」


 トーストに噛り付きながら、妹が唐突に言い出す。


「お兄ちゃんのスマホなんだけど、昨日、メチャクチャ通知音なってんだけど…。あれ、どうしたの?」

「……え?」

「いや、お兄ちゃんのLINEってそもそも家族しか登録してないような意味不イミフなアプリになってるじゃん。それが、昨日はメチャクチャ通知音なってたから、気になったんだよね~」

「学校の友達だよ…。新学年になったから、登録してくれって言われて無理やり登録しただけだよ」

「えー。お兄ちゃん、それ嘘くさーーーい。

 だって、お兄ちゃん、陰キャだからそういうの絶対に断るはずだもん!」


 ぐっ。なんでそんなにボクの性格をそんなに分かっているんだよ。

 さすが、妹、侮れない…。

 何とか表情を崩さずにボクは朝食を済ませる。

 朝食はやっぱりワンプレートに限る。洗い物も一瞬でできるし、これくらいの洗い物ならば、家事をあまり手伝わない妹にでもできる。

 ボクはサッと洗い物を済ませると、ザックを背負う。


「じゃあ、ボクは先に出るから、洗い物と戸締りだけお願いしていい?」

「らじゃー。任せといて!」


 勘のいい妹に深堀りされないようにしつつ、ボクは家を出た。


「あっぶなかったー。妹はホント勘がいいからなぁ…」


 朝の陽光を浴びながら、ボクは学校に向かうため、最寄りの駅に向かった。

 今日も「彼女」に会えるということに心が躍る。

 でも、教室ではあんまり神代さんとはまだ話をしないほうがいいかな…。ある意味、ボクはスクールカーストの底辺的な陰キャなんだからね。

 ボクは心の中でそう呟きながら、駅に向かって歩き出した。



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