5話 華のJK生活!
「お、おはよう~!……優里奈?」
「え、なんで疑問形なの?あんた」
次の日は俺の小田嶋麻衣としての初登校日だった。
わざわざ家の前まで迎えに来てくれた彼女は
クラスメイトで、そして恐らくは小田嶋麻衣の一番の親友と言って良い存在だろう。
スマホには小田嶋麻衣のたくさんの情報が残されていたが、一番多く頻繁にメッセージのやりとりをしていたのが彼女、神崎優里奈だった。そもそも小田嶋麻衣の交友関係はあまり広くなさそうだった。家族以外にメッセージのやりとりをしていたのは、ほぼ彼女だけだったのだ。
メッセージのやりとりはほぼ毎日。「今なにしてるの?」といった何気ない日常もメッセージにしてやりとりしている間柄のようだった。直接彼女から小田嶋麻衣の情報を聞き出すのが一番だろうと思い、こうして登校前に彼女を呼び出したのだ。
「あ、わざわざ来てもらってごめん。ありがとね」
俺はまず、わざわざ登校前に家の前まで来てもらったことの感謝を彼女に伝えた。
「え?別によくあることじゃん。……どしたの?」
残念ながら俺の用心は藪蛇だったようだ。……にしてもわざわざ登校前に家まで迎えに来るのがよくあることなのか?女子の親友でもそんな関係の人はほとんどいないよね?この2人はどんな関係なんだろうか?
優里奈は一瞬不思議そうな顔で俺を見たが、すぐに微笑んだ。
「とりあえず行こう。遅刻しちゃうよ?」
「う、うん」
不審に思われなかったかと心配したが、彼女の反応を見るに問題はなさそうだった。単に彼女の性格が良いのか、元々の小田嶋麻衣の性格がボケていて違和感がなかったのか、培ってきた2人の関係性によるのかは分からなかったが、とりあえずは助かった。
学校までの道のりも全く分からないので、優里奈に完全に付いていくような形だった。電車に乗り込み、10駅ほどを経てどうやら学校の最寄りの駅に到着したようだった。
駅を降りると大量のJKがいた。というかこの時間この駅で降りるのはほとんどが同じ学校に通うJKのようだ。
そうだった。小田嶋麻衣は女子校に通っているのだった。元々女子に全くといっていいほど免疫のない生活をずっと送っていたけれど……大丈夫だろうか、俺。同じ制服を着た女子たちはどの子も上品で頭が良さそうに見えて緊張してきた。
学校に向かう道すがら多くの人からの……特に男性からの視線を感じた。
JKたちとは逆方向にこれから電車に乗り込むであろう男子高校生からの視線、若いサラリーマンからの視線、おじさんからの視線……
(あ~、これが美少女であることの宿命か……)
視線はどれもささやかなものだった。無遠慮にジロジロと見つめてきた男性は誰もいないし、こちらが視線に気付けば向こうは慌てて逸らす……。そんな視線ばかりではあったが、間違いなく俺を見つめていた。
単なる自意識過剰じゃないかって?そんなことはない!俺は元の人生で他人から注目されることなど一度としてなかったのだ!その明らかな違いが勘違いなどであるはずがなかった!
……にしてもこのスカートってやつは慣れないな。もう秋も深まってきた10月なのに膝が見えている服装なんて……とにかくスース―して落ち着かない。女子は大変だなとつくづく思う。
教室に入るとすぐに先生が来てホームルームが始まった。始業時間ギリギリの到着になってしまったようだった。
俺としては、高校の授業なんて15年ぶりということになるので、ついていけるか不安だったが始まってしまえば特に苦労することはなかった。何も意識しなくても思考が勝手に進んでゆくような感覚は、元々の小田嶋麻衣の頭脳のなせる技なのだろう。
クラスメイトたちとは不思議な距離感だった。
誰も積極的に話しかけてくるわけではないのだが、一挙手一投足をすべて注目されているような感じ……いや、男どもの汚いものとは全く違った、見守るような温かい視線なのだが、それを感じた。誰もあからさまに距離を詰めてはこないが、小田嶋麻衣を好意的に見ているのは間違いなさそうだ。結局は女子同士でも可愛いは正義ということなのだろうか。
「おつかれ麻衣。帰ろっか?」
授業が終わると優里奈が声を掛けてきた。慣れないJK生活初日がなんとか無事に過ごせて、俺は大きな安堵感を覚えていた。
「うん。……では皆さん、お先に失礼します」
サラリーマン時代に染み付いた癖で、俺は教室から出ながら頭を下げた。
わいわいと雑談をしていたクラスメイトたちの時が一瞬にして止まる。
「あ……うん。お疲れ様です」
「小田嶋さん、また明日ね」
「ご、ご機嫌よう」
やっちまったか!……と思ったが、皆思いのほか優しく受け止めて挨拶を返してくれた。
「……何、どしたの?キャラ変でもしてこうってこと?」
優里奈が訊ねてきたのは教室を出て少し経ってからだった。俺がトンチンカンな挨拶をしたその場ではあまり大きく反応しないことが、彼女なりの優しさなのだろう。一日接しているうちに彼女のことが少し分かってきた。
優里奈はあまり感情が強く出るタイプではない。一見するとクールなのだが間違いなくその根底には優しさが満ちている。慣れないJK生活を送らなければならない俺にとって、彼女の大人っぽくてサバサバした性格はとてもありがたかった。もっと女子特有のキャピキャピ感を求められていたら、この生活は初日にして破綻していたかもしれない。
「や、全然そういうつもりじゃなかったんだけどさ……。そう、夢でね!なんかサラリーマン生活を送ってる夢を、すっごいリアルなヤツを見てね、それでつい……」
「ふ~ん」
優里奈は苦笑していた。
「あ、ねえ優里奈。どっかでお茶でもしていかない?」
学校から駅までの10分程度の道の途中で俺は彼女に提案した。
慣れないJK生活一日目でもっとヘトヘトになるかと思っていたが、開放感の方が大きくとても気分が良かった。これが10代の肉体の持つ活力ということだろう。今日一日を過ごして自分が美少女であることにも少し慣れて、それを楽しみたいという意識があったのかもしれない。
だが一方で実際問題として、学校ではあまり時間もなく他のクラスメイトの視線も気になって優里奈ともあまり深い話は出来ていないわけだ。もっともっと小田嶋麻衣という人物を知っておくことが間違いなく必要なことだった。
「珍しいわね。アンタがそんなこと言うなんて。……でも大丈夫なの?」
「え、何が?」
お金なら財布にも少し入っていたし、スマホにも交通系ICのアプリが入っていた。別に支払いに困ることはないだろう。
「あの!……小田嶋麻衣さんだよね?」
どこかに適当なカフェでもないだろうかと探していると、後ろから不意に声を掛けられた。
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