SCENE:6‐2 16時22分 海砦レムレス 管理区 曼荼羅ガレージ

ネムルがリリーと攻防戦を交える最中、さりゅは海斗からユークの身体の状態を聞いた。


 ソファに腰掛け、ユークの身体を支える。五体の自由が効かないものの、首から上の感覚はあるらしい。


 ユークは自分の口元にさりゅの耳を近づけさせると、小さな声でささやいた。


「私のことはいいから、早く着替えなさい」


 えっ? とさりゅは聞き返す。


 ユークはやれやれといった呆れを目だけで表現すると、さらに小声でつけくわえる。


「その服、今にもパンツが見えそう」


反射的にさりゅはスカートの裾を引っ張る。

確かに座ったままの体勢でいると、スカートがどんどん太腿の上に上がってくる。


 真っ赤な顔でうろたえるさりゅに、制服! 制服着なさい! とユークの指示が飛ぶ。制服の入った紙袋を引っ掴むと、さりゅは慌ててリビングを出ていく。


その際、もろにイチゴ柄のパンツが見えていて、身体の自由が効くのであれば、肩をすくめたいところだった。


 リビングを出てすぐ、さりゅは誰かにぶつかった。冷たい床に尻もちをつく。


 顔を上げると、そこには陸太が茫然ぼうぜんと立ち尽くしていた。


 視線の先に気づいたさりゅは、すぐさま紙袋でスカートを隠す。


「パンツ、見た……?」


「見てない! イチゴ柄のパンツとか、生まれてこのかた一度も目にしたことがない!」


「み、見たんだ……!」


「だから、見てねーって……」


「ひどいっ!」


さりゅは立ち上がると、紙袋を振りかざし、陸太の頭をばしばし叩く。


「りっくんのエッチ!」


「ちょっ……!」 


「スケベ! ケダモノ! 変態性欲へんたいせいよく! 色情狂しきじょうきょう!」


陸太がひるんだ隙に、やにわにさりゅは走り出す。「見られた」という単語が頭の中でぐるぐる巡り、紙袋にうずめる顔が火照ほてった。


 恥ずかしさに身悶えしつつも、トイレで無事に着替えを済ませ、ほっと息を吐く。


 リビングに戻ると、ユークが震える腕を立てて、ソファに座ろうとしていた。


 さりゅは慌てて肩を抱く。ユークの額には汗が浮かんでいた。

これは、人間が発汗するに相応の動作をフィジカル・ヴィークルが行った時に排出される人工の水だ。


 ユークの脳は、肉体との接続を取り戻し始めているらしい。


 震える手でさりゅの手を握り返してくる。容態とは対照的に、発する声は平生と変わりなかった。


「片腕はどうにか動いたわ。他の部分も動いてくれれば良いんだけど」


白い睫毛がぱちぱち瞬く。表情の変化を確かめるように、ユークは口を開けたり閉じたりを繰り返す。


 他の部位の動きも試しているようだが、顔と片腕以外の身体の動きに変化はない。

その間、彼女の力になれることを必死にさりゅは考えたが、不安定な身体の支えになることくらいしか思いつかない。


 もどかしげに唇を噛むさりゅを見て、ユークは言った。


「さりゅは、制服姿の方が可愛いわ」

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