第2話 ノックした最後の扉
ある日のサークルでの飲み会。
華さんは私より1学年上だったので、卒業間近の送別会的な飲み会。若かった私は、飲み方もむちゃくちゃ。その日も、ヘベレケになっていた。
もう時間がない・・・
華さんが卒業してしまうと、きっと今までのように会う事はできなくなってしまう。私の心の根底にそんな焦りがあったのかもしれない。
「俺、華さんがいたから、このサークル入ったんやで!ずーーっと、好きやったんやで!」
華さんに初めてそう言って強引にキスをした。みんなが側にいたかどうかすら覚えていない。
ただ覚えてるのは華さんの顔。
いつも私といる時、華さんは笑顔だった。いや、よく考えたら笑顔しかみたことなかった。
でも、キスする直前の華さんの真顔。
私に見せたことのない真顔。
あの彼氏と話している時の真顔。
同じ顔だったような気が・・・・最後の扉。
もしかしたら私は初めて、華さんの最後の扉をノック出来たのかもしれなかった・・・・・
次の日。
なんとなく自分のした事は覚えていた。華さんの真顔も。
何日後かに華さんに会った。
いつも通り、何事もなかったかのように私に接する華さん。あれは夢だったんかな?と錯覚するくらい普通だった。
でも、確かに華さんの唇の感覚は覚えていた。
そして、キスした後、二人見つめ合った時の真顔も。
結局、それからも華さんが卒業するまで気まずくなる事もなく、いつも通り喋ったり、泊まりに行ったりしていた。別に進展もなにもなく。
大学を卒業し東京を離れても、年賀状でのやり取りはしていた。
それから数年。
名字と住所が変わっていた。
そっか・・・・
その彼氏と結婚したようだった。
その翌年から、私も遠慮して年賀状を出すのをやめた。華さんからもこなくなった。
あの好きっていう思いは、いったい何だったのか・・・
今でも、私が笑かして、華さんが声出ーへんくらい引き笑いしていたあの笑顔、強引にキスした後の真顔を思い出す・・・
そして、最後の扉をノックしたことを・・・
不思議な片思い エレジー @ereji-
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