不思議な片思い
エレジー
第1話 出会い
「ねぇねぇ~君~。うちらのサークル入らない?」
華さん(仮名)との出会いは華さんのそんな言葉からだった。
私はずっと高校時代を関西で過ごし、小さな手に大きな夢を握りしめて東京に上京した。
家業を継がなければいけなかった私に与えられた時間は4年間。奨学金を使って頑張って大学行っている人には申し訳ないんだけれど、私はあくまで自分の夢を掴む為に親との交換条件として大学に行っていた。
その夢とは・・・・“世界チャンピオンになる!”
そうプロボクシングの世界で勝負する事が私の夢。だから、大学というのはあくまで東京に行く為の手段であって、勉強はおろかサークルなんて入るつもりはなかった。
ところが、華さんという女性に出会って、私は路線変更を余儀なくされた。
入学式の後、誰も知り合いがいなくてサークル勧誘の通りを一人歩いていた私。そんな私に華さんと加納さん(男性、仮名)という男の先輩が話し掛けてきた。
「ねぇねぇ~君~。うちらのサークル入らない?」
私は華さんを見た時、一目惚れしてしまった。
別に、むちゃくちゃ美人ではなかったけれど華さんの独特のゆる~い雰囲気、笑顔にやられてしまった。俗に言う不思議ちゃんというカテゴリーの女性だった。
私は高校時代、決してマジメとはいえない少年だった。住み込みで“ある施設”に預けられていて、仕事をしながら高校に通っていた。今だったら労働基準法に余裕で引っかかるような環境で、自由時間といえば学校から帰って、一仕事が終わる夜10時くらいから朝6時までの間。
自然と夜の世界に入りびたり、男子校ということもあり女性といえばホステスさんしか接する機会がなかった。
なので華さんは私が出会ったことのないタイプ。
私はプロボクサーになるという事情を話し、サークルなんて入っている暇はないんですと華さんに説明した。
「大丈夫、大丈夫!ウチのサークルは、ゆる~い感じだから君が好きな時に顔出してくれたらいいから!」
笑顔で華さんは言った。
何故だか華さんの“君”って呼ばれる事が心地よかった。東京に出てきて一人きりだった私。結局、私は華さんに惹かれてサークルに入った。
週5日はジム。だから、授業の合間に部室に遊びに行ったりしていた。ボクサーという事が珍しかったのか、サークル内で先輩方に可愛がられた。
華さんと加納さんは私より1学年上で、特に華さんと一緒にいた加納さんと仲良くなった。加納さんと華さん自体も仲がよかった。一人暮らしだった加納さんのマンションや、実家暮らしの華さんの家にも泊めてもらうほどの間柄になった。華さんのお母さんにも可愛がられ、第2の実家みたいに晩飯を作ってくれたりしてくれた。
1年後、プロになった私の試合にもサークルの皆が応援に来てくれた。
そんな日々を過ごしていたある日。
加納先輩の側にはいつも華さんがいた。内心付き合ってるのかな?って思っていた。私が軽い嫉妬を覚えるほど仲もよく、会話も阿吽の呼吸を感じさせるくらい息ピッタリ。
私は大学に行くといつも加納先輩と行動を共にしていた。最初は、華さんと一緒にいられる口実で加納先輩といた部分もあった。でも、加納先輩の優しい人柄に、自然と華さんがいなくても一緒にいるようになっていた。
授業がない時、部室でいろんな話をしたり、ジムで練習して、そのまま自宅に帰らず加納先輩の家に泊まったり・・・本当に楽しかった。
そんな加納先輩が、ある日、突然・・・本当に突然、変わってしまった・・・
話をしても、いつもの加納先輩ではなく、なんかよそよそしい。
私は先輩たち、華さんのお母さんからも、親しみを込めて名字+チンと呼ばれていた。
「エレチン、気付いてると思うけど、加納おかしいでしょ?」
「そうですね。なんか、よそよそしいというか・・・」
「なんかね~新興宗教にハマッてるみたいなの。」
「えっ、そうなんですか?」
「エレチン、説得してみてよ。アイツ、私が言っても聞かないのよ。大学辞めるとか言ってんの。エレチンの言う事だったらアイツ聞くと思うんだけど・・・」
私も加納先輩に大学を辞めてほしくなかったから必死に説得してみた。
でも、聞く耳を持ってくれなかった・・・
結局、大学にも来なくなり辞めてしまった。何を洗脳されたのかわからないけれど、すごく悲しかった・・・
それからは加納先輩抜きで華さんの家に泊まったりしていた。でも、本当に不思議なんだけど、華さんを抱きたいとか性的な視線で見れなかった。
「ひーー、ひーー!もうやめてーーーお腹が痛いーーーー!」
華さんは私が喋る事に声出-へんくらいいつも笑ってくれていた。ただただ、アホな事言ったりしてK先輩の笑っている顔をずっと見ていたかった。
しかし、K先輩には付き合っている人がいた。
くしくも、それを教えてくれたのは華さんのお母さんだった。ある日、私が華さんの家に泊まっていて、華さんがお風呂かなんかで居なかった時。
「エレチン、知ってる?華ね、実は彼氏おるんよ。」
お母さんが私に言った。
「え、あ、そうなんすか。」
私は素っ気なく言ったけど、少し・・・いや、結構、ショックだった記憶がある。薄々は彼氏がいるという事は人づてに聞いてはいた。
しかし、普通だったらデートをしたりだとかすると思うんだけど、華さんは彼氏がいる女の子みたいな所を一切感じさせなかった。だけど、こうやって現実を突き付けられると、結構ショックだった・・・
「私、アイツ嫌いなんよね~。暗いしさ~。エレチンが彼氏だったら良かったのにね~。面白いし・・・養子になる?」
笑いながらお母さんは言った。私も本気で華家の家族の一員になりたかった。
その後も、華さんを笑わせる日々を送っていた。でも、華さんの最後の扉を開けることは出来ずにいた。
華さんの彼氏はサークルのOBで、何度かお会いしたこともあった。
見た目もパッとしない、背もそんなに高くない、ボソボソと話す、正直言ってどこがいいんだろ?って思うような人だった。その彼氏がいる前でも、いつものように華さんを一杯笑わせた。
いや、いつも以上にこれ見よがしに彼氏に見せつけるようにしていたかもしれない。
俺といた方が彼氏より楽しいでしょ?って。
俺だったら華さんの笑顔いっぱい引き出せるし、ケンカも普通の人よりかは強いし・・・
でも、そういうのじゃない、本人にしかわからない良さがきっと、その彼氏にはあるのだろう。
そんなK先輩に、たった1度だけ・・・本当に1度だけ告白した事がある。
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