26 ユリオスがお淑やかに見えるんだが……
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エデルがゲテモノドリンクに苦しんではや数日。ユリオスと恋子のペアで授業を数回こなした頃。
「最近ペアが自然と固定になってきてるな。とりあえずこれで決まりにするか?」
「意義なし!」
誰よりも声を張って賛成した人物は、ユリオスとのペアで全戦全勝をもぎ取るほど抜群のコンビネーションを発揮していた。
「よ、よし! ならこれで決定だな。結局プリンスフォーが全員選ばれた感じか、頑張れよお前ら」
「「「先生、もう何も言わないで……!」」」
ユリオス、恋子。シオン、シア。レイラ、ナノ。セシル、ユピナ。
男女で組まれたペア4組が前に呼ばれ、剣魔祭の1年選抜チームは各クラスの男女ペア計12組から、3組選ばれることが発表された。
「この中から選ばれるとは限らないのか……頑張ろうねユリオスくん!」
「僕は出来れば遠慮したいかなぁ荷が重いし。それに負けたらブーイングされそう」
「言われてみればそうかも……みんなに注目された中で惨敗なんてした日には……! シオンも出来れば遠慮したくなってきた」
剣魔祭までまだまだ日はあると言うのに、最悪のケースを想像して気を重くするユリオスを、恋子とシアが呆れるように笑いながら慰めていた。
「待ってせめて今だけでもいいからシオンも慰めてシアちゃん!」
「おいユリオス。弱音を吐いてるお前を励ますいい知らせをこの凄腕教師が告げてやる」
シアにスルーされるシオンを温かい目で見守っていたユリオスは、アイリの不自然な笑顔で一気に寒気が走る。
「いえ、大丈夫です。きっとそのいい知らせは僕にとっては悪い知らせなので聞きたくないです」
「プリンスナイトのユリオスはもう参加が決定している」
「ほら聞きたく無かった……」
「ユリオスくん、人生そんな時もあるよ」
朗らかに笑うシオンは、「プリンスナイトになれる可能性があったお前も決定してるからな」と言うアイリの追撃で沈没した。
「このクラスから2組の出場が決まってるって凄くない!? レイラとセシルも強いしワンチャンこのクラスだけで出れるんじゃない?」
「確かに! レイラとナノさんのペア強かったしな」
傷心する2人を置いてワイワイと盛り上がる、選ばれなかった男子ペアの生徒たち。
「よし、みんながやる気出たところで授業始めるぞー!」
「アイリ先生! 2名ほどダウンしてます!」
「蹴り入れて目を覚まさせる必要があるか?」
「「やったぁ授業だぁ!」」
一瞬にして2人の生徒を動かしたこの教師は、本当に凄腕なのかもしれない。この場の全員がそう感じただろう。
♡♡♡
コロシアムの中央を、2人1組でぐるぐると回っていく。
「ねぇ、なんでこんなことしてるんだっけ?」
「コンビネーションを磨くためだよユリオスくん!」
「いや、うん。そうなんだけどさ……だったら俺は恋子と組んでシオンはシアとじゃない? 5周して言うのもなんだけど」
決定したペアでのコンビネーションを磨く授業として二人三脚をしている。だが何故か、ユリオスペアとシオンペアは男女別で組んでいた。
「恋子ちゃんはユリオスくんと密着しすぎたら気絶しちゃうしシアちゃんは、「すみません、ユリオスさま以外の男性と密着するのはちょっと……」って言うからしかたないよね」
「アイリ先生よくそれを許可したね」
「まぁ2人とも実力があるからじゃない? 恋子ちゃんはユリオスくんと息ぴったりだし、シアちゃんはシオンの動きを予測して行動してくれるし」
カウントを取らずとも当然の如く息が合わさるユリオスとシオンは、他の生徒を周回遅れにさせた。
「ユリオス、シオン。もう少しスピード上げれるか?」
生徒が円を描いて走るその中心で仁王立ちするアイリは、独走する2人に呼びかけた。
「ねぇユリオスくん」
「言いたいことは分かる」
スーッと鼻から肺へと空気を送り込んだ2人。目を閉じてグッと脚の筋肉に意識を集中させる。
「「あの威圧は絶対やれってことだよね!」」
口角を上げユリオスたちを楽しげに見据えるアイリに怯えながらも、速度を一段と上げるユリオスとシオン。
お互いの足を繋ぐ紐なんて無いも同然のような速度に、周りは気圧され足を止める。
「ユリオス様しゅごい♡」
「流石です! ユリオスさま!」
恋子とシアだけは、憧れを追うように走り続けた。
「ねぇあの2人シオンの扱い雑だよね? シオンってユリオスくんとプリンスナイトを争ったライバルキャラだよね!?」
「…………」
「無言やめて!?」
♡♡♡
コロシアムを20周した生徒たち。
疲弊するユリオスとシオンは、最終的に5周差をつけてゴールした。
「シアちゃん惜しかったねー!」
「そうですね、1周遅れは覆せなかったですね」
「シアも恋子も2人とも凄かったよ。次はちゃんと僕と走れるようにしようね恋子」
「しゅきぃ♡」
地面に座り込む生徒たちを、「だらしないぞ」なんて言いながらユリオスに近付くアイリは、そのままユリオスの首根っこを掴んだ。
「アタシも動きたくなった。1周だけ付き合え」
「え、嫌です――あぁぁぁ……!」
グイッと引っ張られたユリオスは、瞬く間に足を結ばれてスタートラインに立たされていた。
「競争相手も欲しいな。恋子、シアと組んで走ってくれ」
「え、しんど――あぁぁぁ……!」
抵抗する恋子は、シアに引っ張られてスタートラインへと立たされた。
「恋子さん、見てください。アイリ先生のお胸」
「――ハッ! しっかりと当ててる……だと!?」
ユリオスと肩を寄せ合うアイリの胸は、ギュッとユリオスの体にあてがわれていた。
「あれ当てにいってない!? ちょっと斜めに向いてない!?」
「ですね……! あれは狙ってますね!」
図らずも女子生徒2人をやる気にさせたこの教師は、やはり凄腕教師なのかもしれない。
「「アイリ先生! 私たち負けません!」」
「お、いいね! そうじゃないとな。ユリオス、マックススピードで走るから合わせてくれ」
「待ってマックススピードがどれくらいか分からないです」
「さっきより早く走るだけでいい」
サラッと言うアイリだが、ユリオスにとってはとても無茶振りだった。
全力で走り終わった後に、それより更に全力で走ることを強要される。
あからさまにユリオスの顔から明かりが消えていく。そんなユリオスを憐れむシオンは、スターターを名乗り出た。
「オンユアマークス……セット」
4人の雰囲気が変わる。
体を動かしたい欲で動く人物。隣の脅威に抗えない人物。打倒淫乱教師を掲げる2人の人物。
退けない戦いが今――始まる!
シオンは手の平で音を反響させる。それを合図に、一斉に駆け出す。
ゆらりと体を倒すかのようなスタートをしたアイリペア。
風に身を任せるように、無駄な力なく進んでいく2人。それと比べ、恋子ペアは脚の筋力のみで進んでいく。
優雅さを感じさせる、教師とプリンスペア。力強さを感じさせる、プリンセスペア。
「ユリオスがお淑やかに見えるんだが……」
「恋子さんとシアさんに敵う気がしないや」
見守るしか無い生徒たちが話すのも束の間。お淑やかなプリンスのペアが帰還する。
「え!? もう!? 僕たちより10秒は早いんじゃ?」
「はっはっは! 格が違うんだよジャリども!」
「負けたぁ!!」
アイリが生徒たちを煽り始めて数秒後、打倒淫乱教師を掲げた2人が帰還した。
「ユリオスさま大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫だよ……?」
観客席に置いていたタオルでユリオスを拭うシア。その様子を、「また先越された……」と傍観するしかなかった恋子。
「なんか、恋子って絶妙に不憫だよな」
「ですよね、後一歩シアちゃんに届いてない感じですね」
甘酸っぱい三角関係をしみじみと見守るアイリとシオンは、心なしかほっこりとした気分になった。
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