24 うわぁぁん! ユリオスくんがイジメるよぉぉお
「シオンごめん、大丈夫?」
「ぶっぶー! 最初に声をかけるのは、シオンじゃなくて恋子ちゃんでしょ?」
自分が止める前に、負けるという選択をして恋子を助けたシオンに声をかけるユリオス。
たが、最初に声をかけるべきはシオンじゃ無いと諭される。「ユリオスくんたまにズレてるからなぁ」なんて溢しながら、笑顔でユリオスを恋子の下へ送り出した。
「恋子、怪我してない? 大丈夫?」
「今は敵同士だよユリオス様! 心配ご無用!」
デレェっとなる表情筋をバシッと押さえて、『自分を心配してくれる推し』という尊さの波状攻撃を全力で回避した。
「恋子ちゃんもたまにズレてるんだよなぁ……」
「同感です……」
呆れるシオンに、思わずシアも同情した。
砂地の中、セシルはアイリに呼び出されている。
「おいセシル、あれはどういうつもりだ?」
「えー? なんのことかわっかんないなぁ♪」
「真面目な話をしてるんだ、誤魔化すな。あれが当たっていたら恋子は重傷だった。それに、お前からは重い殺気を感じた。あれは……」
「もー! ヒートアップしただけだってば! カリカリしないでよお」
問い詰めるアイリだが、煮え切らない回答ばかりのセシルにだんだん語気が強くなっていく。
「だからふざけ――」
「はいそこまで」
サッとアイリの前に入るのはユリオス。このままでは手を上げかねないと判断したための仲裁だ。
「ユリオスくーん! ボクのこと助けてくれたんだね!? うれしーよ♪」
「おいユリオス、こいつを庇う必要あるか?」
「やだなぁ庇った訳じゃないですよ」
浮かべていた笑みを消したユリオスは、無表情でセシルの胸ぐらを掴む。
「おい、俺のに何してんだよ? 次あんなことしたらテメェ、ゆるふわな頭とお別れすることになると思っとけ」
「ゆう……ユリオス? 落ち着け?」
「うわぁぁん! ユリオスくんがイジメるよぉぉお」
「は? ナメてんの?」
仲裁に入る前より状況が悪化している。
だが、生徒同士のいざこざなら教師が生徒を殴るよりは幾分かマシ。そのことをユリオスは把握していた。
「ナメてないよ? おちょくってるだけだし? てか離せよ、ボクに触れるとかナマイキ!」
「あの時の声は君だったんだね、随分とキャラに差があるみたいだけど? そっちが本当?」
「ユリオスくんも人のこと言えないじゃん? おっかなぁい」
周りに声は聞こえない。ただ、ユリオスがエデルと決闘した時以上にキレているということしか分からない。
「はいはいそこまで! 止めに入ったお前がキレてどうすんだよ。次のペア早くやんぞ!」
「……すみません」
ここで時間を使っていても仕方がない。そう判断したアイリは、セシルの件は保留とし授業を進めることを優先した。
「ユリオスさま、その……大丈夫ですか?」
おずおずと尋ねるシア。対戦する女装ペアの2人は完全に怖気付いている。
「なにが?」
「お顔が、いつもより……凛々しい? ので」
「あ、ごめんね。つい感情こもっちゃって」
「そう、ですか。大丈夫ならいいんです。勝ちましょう!」
肩を寄せ合いグッと構えるユリオスペアと対峙するのは、前回と一緒のケイトペア。
「今日こそ勝ってねルーザー」
「そっちで呼ぶなよなぁ……まぁ、勝つよね!」
またシリウスがプリンセス役を担っている。だが前回と違うのは、ケイトとシリウスが肩を並べていること。
「もうみんな護るから共闘にシフトするよね」
「そりゃそうさ、男子全員であれが1番いいなってなったんだから」
「駆け引きなしで殴り合って決着をつける。簡単でいいですねユリオスさま」
「「シアさんそんな物騒だった!?」」
ニッコリと微笑むシアに、少し身構えるケイトペア。
「ちなみに僕は1回しか勝ててないよ」
「「もう負け確じゃねぇか!」」
「諦めるなよジャリども……」
こりゃダメだ……と言わんばかりに額を抑えるアイリだが、躊躇することなく訓練を開始させた。
「レディーファイト!」
開始の合図と共に、4名が同時に真ん中へと走る。
ユリオスはケイトと、シアはシリウスと合間見える。
「重た……!」
「軽いね」
「シオンといいユリオスといい、言葉のオブラート知らなすぎじゃない!? なにそっちの方が強くなれるの!?」
両手で木剣をしっかりと握るケイト。片手で軽く握るユリオス。
2人は木剣を合わせているが、ケイトが押さえ込まれるように少し膝を曲げて後手に回っている。
「あっちは完全に押されると思ってたけど……こっちは予想外なんだけど!?」
「あら、プリンスが相手を軽んじるのはどうかと思いますよ?」
「すみませんした!!」
防戦一方のシリウスに対して、シアは躊躇なく蹴り込む。
2人はお互いに目の前の敵にしか集中していないように見えるが、シアはユリオスたちの動きも完全に把握していた。
「ええーい! こうなりゃヤケだ!」
「……?」
ジャージのポケットからサッと取り出したティアラを、ヤケクソでシアに付けようと突進を仕掛けるシリウス。
「待ってました!」
「うおっ!?」
時が来たと言わんばかりに、楽しげに笑うユリオス。
大きくケイトを振り払うと、腰に付けたソードホルダーに木剣を収める。
「射程範囲内!」
腰に収めた木剣の柄にそっと触れて、体をしっかりと沈める。
前傾姿勢で見据える先は、ティアラを持つシリウス。
「メイ流奥義! 煌きお嬢様一閃」
「「は?」」
声とともに消えるユリオスの姿。辺りは砂埃が舞い、そしてシリウスの手には激しな痛みが走る。
「――ッ!」
「勝者! ユリオスペア!」
「え!? まだティアラは――」
「シリウス、俺らの負けだ。頭触ってみ」
ケイトに促されるまま、恐る恐る手を頭に持っていくシリウスは、唖然とした。
「えぇいつのまに!」
「ユリオスさまが手を弾いてあなたのティアラを取った直後に、私が付けました!」
「そゆこと。はい、ルーザーくんもどうぞ」
クルクルと、奪ったティアラを指に掛けて回すユリオスは、ケイトにそのティアラを乗せた。
「この名前やだぁ……」
「強く生きてくださいね……」
シアに慰められながら敗北に項垂れるケイトペアを後に、ユリオスとシアは観客席へ移動した。
「上手くいきましたね、メイ流奥義」
「そうだね、メイさんに感謝しなきゃ」
シアの専属メイド、メイ。
彼女の正体は謎に包まれているが、シアに武術を教えたのは彼女だ。
そして、ユリオスに自己流の奥義を仕込んだのも彼女。
「それにしても、メイが奥義を教えるって言ったのも驚きましたが、1日でマスターするなんてさすがユリオスさまですね!」
ユリオスの隣に座るシアは、尊敬の眼差しをキラキラと輝かせた。
「ありがとう、メイさんの教え方が分かりやすかったからだよ」
「でもいいなぁ私、まだ教えてもらって無いんですよ!」
「そ、そうなんだ」
ユリオスは聞かされていた。メイが所持する奥義は全てお嬢様を護るために編み出したもの。
本人的に、「お嬢様にお嬢様を護る用の奥義をお嬢様本人に教えるっておかしく無いですか?」と言う疑問があるようだ。
そしてユリオスはメイに、「お嬢様が奥義を習得したいと仰ったらそれとなく話を逸らしてください」と頼まれている。
「あ、それよりさ! 今度お出かけしない? 美味しいコーヒーが飲める店があるらしいんだよね。この前のお礼にどうかな?」
「いいんですか!? 是非ご一緒させて下さい!」
(こんな感じでいいっすかね、メイさん)
言いつけは守ったぞと言わんばかりに天を仰ぐユリオス。
その天にはサムズアップするメイが見えたが、「錯覚だろうな」と気にしないことにして他のペアの動きをしっかりと観察することにした。
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