17 それ絶対他の教師の前で言ったらダメなやつ
着替えが終わり、コロシアムに整列するユリオスたち男子生徒。
そしてそんな生徒たちの前にアイリがやって来る。
「よし、整列出来てるな。それじゃあ早速始めるか」
「「「よろしくお願いします!」」」
生徒たちの返事を、うんと頷き聞き入れると、早速今回の授業の説明を始めた。
「今日はやっと実技だ! コロシアム中央を1周したら、打ち合いをしてもらう。打ち合いについてはまた後で説明するからまずは走ってこい」
軽く屈伸などの準備体操で体をやわらげ、各々に走り始めていく。
観客席を区切る壁ををなぞるように、ぐるりと自分のペースで走る。
みんな打ち合いが待ち遠しいのか、心持ち程度に速いペースで完走を目指していく。
ユリオスはアイリの指示で、短距離走のようなスピードで誰よりも早く完走し、授業を手伝うように強要されていた。
♡♡♡
「おつかれユリオス。前半はジャリどもにひたすら打たせてモチベーションを上げる予定なんだが、アタシだけだと非効率だからお前も打たれる役引き受けてくれるか?」
「分かりました。いつもやってる感じでいいんですよね」
「あぁ、あんな感じで頼む」
アイリとの拷問でよくやるウォーミングアップ。それを授業でも行う。
片方が次々に打ち込み、もう片方はひたすら木剣で受け流していく。自分の攻撃で相手を追い込んでいる感覚で自身のモチベーションを上げ、自分は強いと思い込むことで精神的にも強くしていく手法。
「ユリオスくん飛ばし過ぎ……!」
「プリンスナイトはやることの格が違うってことか……」
ユリオスにつられて速度を上げた生徒たちが数名、息を切らしながらも無事に完走し、きちんと整列していた。
「よし! それでは今から説明する! まぁ見た方が早いから、ユリオス頼む」
生徒の列を見渡すように、アイリの横に立っていたユリオスが指名される。
見本として、まずはユリオスが先にモチベーションを上げる。
「分かりました」
ソードホルダーからから木剣を引き抜き、流れるような美しい所作で斜に構える。
「お前ら離れとけよー」
「いきます」
ゆっくりとアイリの元に歩いて近付き、一振り。
アイリはその斬撃を受け止めた直後、ユリオスが次の動きに繋ぎやすいように、軽く上に払う。
上に払われた木剣をそのまま叩きつけるように下ろす。そして次は左に払われ、そのまま右に流すように横から斬撃を繰り出す。
「――とまぁ、こんな感じで一方的に打ってくれ。相手はアタシとユリオスがするから」
10回打ち込んだら次の人と交代。アイリが6人とユリオスが5人を受け持つ。のだが……。
「おい! ちゃんと決められた人数通りに並べジャリども!」
「さすがに11人はキツイかなぁ……」
ユリオスの前に11人の生徒が並んでいる。生徒たちはみな、アイリに対し少し臆病になっている。
対面すれば甦る、吹き飛ばされた記憶。また吹き飛ばされるのではないか。そんな心配から、無意識のうちにユリオスの前に並んでいた。
「……シオンはアイリ先生のところ行くね! ごめんねユリオスくん、シオンがいないと寂しいと思うけど……」
「大丈夫、早く移動しよっか? ほら、他のみんなもウダウダ考えずに後ろから順番に5人移動して」
生徒たちを雑にあしらうと、早速1人目に打ち込みを始めさせたユリオス。
相手がどう動き、次はなにをするかを予測して木剣を動かしやすい位置へと移動させる。
「俺がどう動くか分かってるの!? ユリオス」
「大体だけどね、目の動きとか、足の向きとかで」
10回打ち終えた生徒は、ユリオスが意図的に動きやすいように弾いていることに気付き、驚いた。
サラッと説明すると、待機している生徒に視線を移し、効率よく回していく。
「はい次!」
――テンポ良く打ち込みが終わり、自分はそこそこ動けるかもしれない。そう息巻く生徒たちの目は宝石のようにキラキラと輝きを放っていた。
アイリやユリオスが意図的に打たせた直後、2人は全員に、「凄かった」と評価をしていた。
抽象的で雑さすら感じる。だが言った人物が自分たちを1度吹き飛ばした相手。片や、そんな相手に降参させ1年のトップに立つ男。
どんなに雑な言葉でも嬉しいものだった。
「今からは、お互いに打ち合ってもらう。それぞれペアを組んで、大怪我をしない程度に各自始めていけ。ユリオスとシオンは少しここに残ってくれ」
お互いに目を見合わせ、首を傾げるユリオスとシオン。自分たちはなにをさせられるのだろうか。そんなことを心に秘め、みんながペアを決めるのを眺めていた。
「ユリオス、シオン」
「「はい」」
アイリは少し間を空けてから2人の生徒を見つめた後、ユリオスたちに尋ねた。
「セシルとレイラどう思う?」
シオンと同じくらい背の低いセシル・グロリオサ。
エデルと同じくらい柄の悪いレイラ・クローバー。
この2人は、選抜されなかったものの、アイリに目をつけられている。と言うのも、最初にモブのように騒つかなかったからだ。
「シオンとキャラ被ってるなぁって思います」
「僕の従者と同じくらい柄が悪いなぁって思います」
「そう言うことじゃないのよ。
プリンスフォー。クラスを代表する4人のプリンス。これは剣術の技量、精神のタフさ。色々な面で査定され担任が選出する。
「アイリ先生、それシオンたちに聞くんですか? あとユリオスくんがキョトンとしてます」
「……ユリオス。あの2人はお前たちと同等くらいには戦えると思うか?」
「鍛えれば大丈夫だと思いますよ。アイリ先生が打ち込ませてる時見てましたけど、いい動きしてました」
ユリオスは、新しく登場した設定の処理に困惑していた。が、アイリが噛み砕いて聞いたことで、なんとか受け答えすることが可能になった。
「よし、それじゃあユリオスとシオンに加えてあの2人で決定だな! いやぁ楽に決めれたわ、ありがとな」
「それ絶対他の教師の前で言ったらダメなやつ」
爆弾発言をするアイリは、ユリオスたちと共にしばらく打ち合う生徒たちを眺めたあと、全員を集合させる。
「おーいジャリども。集合」
「「「はい」」」
打ち合っていた生徒たちは、瞬時に木剣をソードホルダーに差し、駆け足でアイリの元へ移動した。
「セシル、レイラは前に来てくれ。ユリオスとシオンの横に並んで」
「はーい♪」
「……っす」
片手を上げて明るく返事するセシル。その様子はさながら幼稚園児が先生の言うことに従う姿に似ていた。
そしてそんな明るさに反比例するように、レイラは小さく声を溢すだけだった。
何が始まるのか、疑問をぶつけるようにユリオスたちに視線を送る生徒が数名。何かを察したように悔しがる生徒も数名。
そんな中、アイリが切り出した。
「今目の前にいる4人が、このクラスのプリンスフォーだ! 今後はこの4人を主体に授業を展開していく。しっかりこいつらの技術を盗み、着実に技術を上げていけ!」
アイリに鼓舞された生徒たちは、各々の感情を胸に大きな声で返事した。
「解散! って言いたいんだけど授業時間もうちょいあるな……でも打ち合うほどは残ってないんだよなぁ。よし、お前ら意気込み一言頼むわ」
コロシアムにある時計を見ると、授業の時間は5分ほど残っていた。そこでアイリは、プリンスフォーに無茶振りした。
「はいはーい! ボクから!」
満を持して手を掲げるのは、セシル。小さな体をぴょこぴょこ弾ませ、存在を主張している。
「ボク、みんなのお手本になれるようにいーっぱい頑張るね♪」
ピクッとユリオスとシオンのこめかみが動く。
「(シオンとのキャラ被り凄いよね?)」
「(え、シオンあそこまで酷くない……よね?)」
セシルの意気込みに、生徒たちがパチパチと拍手を送る。
次はこいつか? という視線で見られたレイラ。
「……っす」
短い一言で、場は少し困惑する。が、アイリが強引に拍手してなんとか誤魔化した。
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