13 ユリオス・リリーってどいつだコラ! アァン?
♡♡♡
大声で注文した数分後、厨房が爆発した。
「嘘でしょ……? 事故!?」
「恋子、演出。店のお客さんみんな動じてないから多分そうかな」
「あーい! エクスプロージョンウルトラプレート上がりぃいい!!」
爆発で立ち昇った黒煙の中から、颯爽と現れた筋肉質のキャスト2。手にはクロッシュと呼ばれる銀色のドームに守られた料理を持っている。
「待たせたな!」
ニチャっと不器用に笑うキャスト2を、「笑顔が固ぇよ」などと揶揄うキャスト1。
キャスト1を無視して開けられたクロッシュからは、暴力的に香ばしい肉の香りが解き放たれる。
「美味しそー!」
まん丸とした砲丸サイズのハンバーグ。厚切りにされ、しっかりと焼かれたステーキ。その2つのインパクトで控えめに見える手のひらサイズの球体おにぎり。この球体には、唐揚げや卵焼きなどが包まれているようだ。
「すごいボリュームだね。恋子食べれる?」
「多分大丈夫だよ!」
持ち手が木の大きなフォーク。ナイフは無く、周りの客はみんなフォークで突き刺して大胆にかぶりついている。
恋子も同じように、かぶりと食らいつき口周りにソースを付けながら美味しそうに咀嚼していく。
「んん〜まい! 肉食べてる! って感じが凄い!」
「確かに、ガツンと肉って感じ」
5本の指をピンと伸ばし、その中の親指でソースを拭う恋子は、ペロリと舐めて満足げに笑った。
「恋子、ほっぺにも付いてるよ」
「ほっぺ……♡」
ユリオスが持った紙ナプキンが恋子の頬を伝う。
とろけた瞳で感謝を告げる恋子を、厨房から覗くキャストは苦笑いしていた。
「あ、というかユリオス様、学校休んで大丈夫だったの?」
恋子の何気ない一言で、ピシリと背筋が凍るユリオス。
「え……休みじゃなかった……? 土曜日だし……」
「ユリオス様、こっちでは平日ですね」
カラン、とユリオスの手からフォークが落ちる。
すかさずキャストが交換しにくるが、ユリオスは呆然としていた。
「ユリオス様、戻ろっか」
「そうだね……」
もう大幅に遅刻だし、ということで食事とデザートを満喫した恋子たちは、大玉の爆弾キャンディーとやらをもらって学校へと戻った。
「気を付けて帰れよー! ラブラブカップルども!」
元気に見送ってくれるキャスト1。
また来よう。そう決意した2人は、学園へ急いだ。
♡♡♡
「――で? 学校をサボって行ったドリームランドは楽しかったか?」
「はい!」
「…………」
こめかみをピクリと動かすアイリ。元気に応える恋子。気まずそうにアイリから視線を逸らすユリオス。
「そうか……まぁ荷物はそのままとはいえ、制服に着替えたことは褒める。だが、バイクで来ちゃまずいだろ。職員室が騒ついてたぞ?」
「すみませんでした……」
恋子は反省文1枚を課せられ、剣術準備室から釈放された。
――恋子が去ってから、数秒の沈黙が続く。
「悠貴バカだろ?」
「かもしんないっすね」
「まぁ2つの世界の曜日なんて覚えれないわなぁ。アタシも無理だ!」
準備室に置かれたソファーに身を預けるアイリは、面白おかしく笑って見せた。
「あ、これ。お土産どぞ」
「おー、ありがとう! ユメミーくんじゃん、可愛い! ――ってバカ! 遅刻してんの! なに堂々と教師にお土産を渡してんの?」
「5限目にはまだ間に合ったし、いいかなって」
ヘラヘラと笑う悠貴を咎めながらも、渡されたお土産のユメミーくんぬいぐるみを嬉しそうに抱き抱えるアイリ。
「結果論じゃないか。それにアタシとの約束も忘れてたろ? 停学明けの生徒」
「あー、そう言えばあったなそんな話」
悠貴は自分の記憶を深く思い出していく。
(てか恋子とのデートをそいつが邪魔する可能性とかも考えてたけどすっかり忘れてたな。そもそもユメミーランドも放課後行くつもりだったわ……迎えに行くって言っちまってたけど)
何もかもを忘れ去っていた王子様。いずれ忘却王子なんてあだ名が付く日も近いかもしれない悠貴は、呆れ果てるアイリに訪ねた。
「で、その問題児は今どこに?」
「今日の一件でその問題児と同じカテゴリにされたぞ悠貴。まぁそんなことはさておき、今はまだ大人しく寝てるぞ」
問題児にカテゴリされたことを気にすることなく、悠貴はポップコーンをアイリとシェアしていた。
机に置かれたポップコーンボックスに、2人して手を伸ばす。
「結構いけるなハチミツ味のポップコーン」
「美味しいよな。激甘で」
「ああ、クセになるなこれ。今度これだけ買いに行こうかな」
「期間限定だから急いだ方がいいぞ」
黙々とポップコーンを食べる2人。まるで放課後のようだが、予鈴によって今はまだ昼休みだったと気付かせられる。
「「あ、授業行かねぇと」」
♡♡♡
「あ、ユリオスくんおはよう。恋子ちゃんより長くお説教されてたんだね」
「うん、怒られちゃった。これ、お土産。ペアチケットありがとね」
ポップコーンを貪っていた事実を隠し、シオンにお土産を手渡した。
クラスメイト用のお土産は、先に解放されていた恋子がプリントクッキーを配っていた。
「ユリオス様〜! 寂しかったぁ♡」
数分。それですら恋子には耐え難かった。
ラグビーのタックルのようにも思えるような動作で、勢いよくユリオスに抱きつく準備をする恋子。
そしていざユリオスに飛び込むその瞬間、教室のドアが怒号を上げるように開かれる。
「ユリオス・リリーってどいつだコラ! アァン?」
ドアの反発を拒むように左手で押さえつけていたのは、後ろに集めた黒髪を軽く団子にした目つきの悪い、マンバン筋肉男。
頭部の側面は大胆に刈られ、頭の中央に乗っているような結ばれた髪との色の差が目立つ。筋肉質なその肉体も相まって、野蛮さが滲み出ている。
「(ユ、ユリオス様……?)」
明らかに名乗り出たら面倒なことになる場面。だがユリオスは、迷うことなくその男に近付いていった。
袖を掴み、止めようとする恋子だがユリオスに止まる気配はない。
「アン? テメェが1年のプリンスナイトかコラ!」
「そうだよ」
男の目を見据え、堂々と答える。そして……。
「君がイカれ王子かな? せっかく選ばれたのに暴れて棄権させられたんだってね」
あえて挑発するように笑ったユリオスは、嬉々として煽った。
「……んだとコラ! 上等じゃねぇかオラ! テメェ俺と殺り合えや!」
ビキっと眉間にシワを寄せる男は引き攣ったように笑いながら、威圧する。
「えー? 僕は名乗りもしない礼儀知らずとは関わりたくないなぁ」
「(ユリオスくん!? これ以上煽ったらダメだって! 明らかにヤバそうだよ!?)」
「(ユリオス様!? 絶対素が出てるよね!?)」
左右でヒソヒソと言ってくる2人を、一歩前に出てから片手を広げるようにして後ろに下げるユリオス。
2人に心配されるユリオスだが素を出しているのではなく、あえて挑発することでこの危険人物の意識を自分だけに向けさせているのだ。
「1年2組、エデル・ポーチュラカ! これで殺り合えんだよなぁ!?」
「1年1組、ユリオス・リリー。エデルくん、まずは話し合おっか?」
エデルはユリオスのことを知っているようだが、しっかりと名乗るユリオス。これはプリンスナイトとして当然の行動なのだろう。
「話し合いだ? なにぬるいこと言ってやがんだコラ!」
「僕は無闇に暴力に訴えないんだよね。話し合って解決できるならそれがいい、なんの用だったの?」
「そう言うぬるいのが気にくわねぇんだよ……だいたい、攻撃止めただけで合格だ!? ナメてんのか?」
ユリオスに詰め寄り、間近で睨みつけるエデル。
そんなエデルに退くことなく、負けじと見つめる。
「初回登場でユリオス様に見つめられるってなにあのキャラ! ジェラシー!」
「こ、恋子ちゃん! ちょっと落ち着いて……!」
ピリピリと張り詰めた教室内でも、平常運転の恋子を必死で止めようとするシオンの胃はキリキリと悲鳴を上げ始めていた。
誰かこの状況をなんとかしてください。シオンがそう願った時、自称凄腕教師の声が響く。
「ナイスデコイだユリオス。注意を引きつけてくれたことで、大事になる前にアタシが間に合った」
「いえ、プリンスナイトとして当然の役目ですよ。本当は話し合いで解決出来ればよかったんですけどね」
「あぁん……? テメェのナメた態度は時間稼ぎだったってか!?」
強引にユリオスから引き剥がされ、アイリに拘束されたエデルは、さらに怒りを昂らせる。
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