12 ガハハハ! よく来たな、楽しんでいけよ坊主たち!

「わぁ凄い!」


 雲一つない晴天に、色鮮やかな火薬の花が咲き誇る。

 数々と打ち上がる花を見上げるユリオスと恋子を含むゲストたち。


 そんなゲストたちをさらに沸かせるように、アナウンスが辺りに響く。


『ウェルカ〜ム! トゥー マイフレ〜ンド!!』


 甲高く鳴る音に、周りの人々は瞬時にゲートの方に視線を送る。


 開かれたゲートの奥には、ドリームランドのマスコットキャラ、ユメミーくんが両手を上げて待機していた。


「さぁみんなぁ! 今日はいーっぱい遊んで、美味しいもの食べたり、可愛いもの買ったり、記念品買ったり、お土産とか買って行ってねー!」


 ユメミーくんの横に現れた、商魂たくましいお姉さん。

 インカムを通して拡散される、セールストーク。


「右手側のお店でカチューシャ! 左手側のフードカートでポップコーンをお買い求めいただけまぁす! 是非食べ歩き等もお楽しみくださーーい!! ユメミーくんもそう言ってまーす!」

(夢覚めるわ……)


 露骨な営業。こんなにも堂々としていたら逆に尊敬すらしてしまいそうになるが、さすがに夢見心地100%ではいられない。


「はいこれユメミーくんのカチューシャに、ユメミーくんのポップコーンボックス! それとね、ユメミーシュガー味のチュロス!」

「あ……りがとう。楽しそうだね」

「真剣にお姉さんが営業してたから、買っちゃうよね! それにテーマパークに来たらこう言うの定番だし!」


 ユリオスが呆けている間に、色々と購入していた鴨子さん。満足げな顔で、両手にはモリモリと色々な物を抱えていた。


(郷に入れば郷に従え……だな)


 パンフレットに目を落とすユリオスは、派手に特集されたドリームエクスプロージョンレストランなるものの情報を叩き込んだ。


「恋子、まずどこ行きたい?」

「ユメミーくんを近くで見たい!」


 くるりとしたドデカアイに全体的にゆるっとした表情のキャラクター。名前からある程度予想できる通り、ゆめかわいいをモチーフにしていると思われる。が、公式設定では定年前の父親の生き霊らしい。


 息子が幼少期の頃は仕事ばかりで構ってやれず、寂しい思いをさせた。楽しい思い出なんてほとんどないはずだ。今からでも償いたいという思いが生き霊を生み出して、夢のような空間を作り出したという設定のようだ。


(ビジュは可愛いのに設定がシュールなんだよなぁ)


 ここに来るに至って、下調べをしまくった2人。オタクな一面がこんなところでも発揮されるから恐ろしいものだ。


『ガハハハ! よく来たな、楽しんでいけよ坊主たち!』

「喋った〜!」


 野太く発せられた声は、ユメミーくんの内側から聞こえた。

 下調べでは、喋るなんて情報はなかった。ゆえに恋子はテンションが上がっていたが、ユリオスは絶句だった。


(これ子供泣かね? よく潰れないなここ)


 喋り方も声も夢要素が無く、本当に設定通り、ただのおっさんのようなイメージを持たせる。


「ユリオス様! ジェットコースター乗りに行きたい! ユメミーくんのやつ!」

「了解! 真っ直ぐ行った北エリアと、そこを曲がった西エリアにユメミーくんライドがあるみたいだよ。どっち行く?」


 パンフレットを2人で覗き込み、考える。効率の良いルートを。


「ユリオス様! 西方面に進んで1つ乗ってから、コラボエリア回ってから北に乗りに行かない?」

「そうだね、コラボエリアは外せないね」


 この世界でも、色々な流行がある。勿論この世界にも漫画やアニメという至高の概念が存在していて、今回はそのアニメ数作品がユメミーランドとコラボしている。


 通称【ナイスドリーム】

 ナイスドリーム開催時は、それぞれのコラボライドが登場。それに伴いモニュメントが設置されたり、限定グッズや限定ポップコーンバケツが出たりする。


 恋子はその中の1作品が特に好きで、平面状態のユリオスから前日にドリームランドに行くと告げられた時は発狂していた。



 ♡♡♡



「ふぅ……待ち時間無しなんて凄すぎない!?」

「そうだね、行列できてるのに待ち時間無しなんてすごいよね」


 アトラクションの前に置かれた掲示板には、2時間待ちなどが書かれているが、実際には数秒で乗れる。


 ゲームの世界だからか、回転率がもの凄く速い。

 莫大な量のアトラクションを、もう半分くらいに乗った2人。


 30分に1回のハイペースで行われるパレード、各エリアに配置されたセールスモンスター。それぞれを楽しみ、2人はすっかりドリームランドを満喫していた。


「あとどこ行ってないっけ?」

「中央エリアはまだ全然行けてないし、南のシーサイドエリアもまだだね!」

「広くて行くところ迷うね、恋子次行きたいところある?」


 悠貴の質問にどう返すかを考えながら恋子は、コラボのポップコーンボックスからミソ味のポップコーンをパクパクと口に放り込む。


 恋子の首には、塩味のポップコーンが入ったユメミーくんのポップコーンボックスと、恋愛アニメ【この味噌で貴方を落とす】のコラボボックスがかかっている。


 そしてユリオスの首には、キャラメル味のポップコーンが入った、恋子とお揃いのユメミーくんのポップコーンボックス。それと、バトルアニメ【蜂蜜大戦記】のコラボボックスがかかっている。


 合計4つの味を楽しむ恋子とユリオス。

 2個掛けは邪魔になるので、食べ終わったらユメミーくんのだけをロッカーに預ける予定のようだ。


「そうだねぇお腹すいたなぁ」

「ポップコーンは食べてるけどお腹は空くよね。中央のレストラン行こっか」


 ユリオスは提案した。入場した時に目をつけていたレストランに。


「行く〜♡」


 差し出されたユリオスの手を握り嬉しそうに笑う恋子。

 ユリオスはそんな恋子に笑みを浮かべながらパンフレットで位置を確認して、ドリームエクスプロージョンレストランへと足を運んだ。



 ♡♡♡



「ここ本当にレストラン……?」

「パンフレットではここみたいだね、入ってみようよユリオス様!」


 たどり着いたレストランは、入るのを躊躇うほどに物騒な外観だった。


 トラテープが貼られたようなデザインのドア。その前に置かれた看板には、『暴音注意。心臓の弱い方、お子様、お年寄りのご来店はご遠慮下さい』と書かれていた。


「暴音ってどういうことなんだろうね〜」


 ドアに手をかける恋子。だがその時、ユリオスは嫌な予感がした。


「待って恋子! エスコートさせてくれないかな?」

「してくれるの!? 嬉しいぃぃ♡」


 能天気な恋子。ドアの先に感じる威圧感を感じ取れたのは、ユリオスのみだった。


 なにが起こるか分からないこの瞬間、ユリオスの警戒心はマックスだった。


「下がっててね――」


 ――言うと同時に、ドアを開けたユリオスの体中を爆風が襲った。

 殺傷能力は無いものの、派手な爆発と強めの爆風。これはレストランで起こり得る事象ではないことは明らかだ。


「ユリオス様!? 大丈夫!?」

「……だ、大丈夫だよ」

「よぉく来たなこのヤンチャボーイ!! 空いてる席に座んな!」


 軽く燃える床に消火器で応戦しながら、ワイルドに駆けてきたのは、腹に立派なステーキを蓄えたおじさん。恐らくキャストの1人。


「行こっか恋子」

「ユリオス様……そっち出口」


 ニッコリ紳士対応のユリオスが体を向ける先は激戦区のようなレストランでは無く、夢の世界が広がる店の外だった。


「ヘイヘーイ! ガールフレンドはワクワクしてんぜ!? こんなとこで引いてちゃ嫌われちま――」

「嫌いになる要素なくない? 萌えない!? 私のために体を張ってさりげなく先に店に入ってくれたんだよ?」

「お……おう、そうです……だな……」


 あまりの狂気ぶりに、一瞬だが素に戻るキャスト。そんなキャストが可哀想になったのか、ユリオスは恋子の手を引き厨房付近の空いてる席へと座った。


「注文が決まったら大声で呼びな!」


 恋子を警戒しつつ、テーブルに水を置いたキャスト。水は木製のジョッキに入れられていて、店内も木造建築だからか、やけに馴染んでいる。


「全メニューにエクスプロージョンって入ってる! 徹底ぶりがすごい!」

「エクスプロージョンが入った店名で爆発したから、料理も爆発するって考えたほうがいいかもだね」


 黙々とメニューを見ながら、2人は同時に指差した。


「「これ!」」


 同じメニューを。

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