夏だ海だサンオイルだ!

「お待たせ、和希」

「……おぉ」


 暑い日差しの下、砂浜に舞い降りたのは美しい天使だった……って、俺は一体何を言ってるんだ。


 以前に見せてくれた純白の水着を身に纏った霞は本当に綺麗だった。

 純白のビキニに黒髪が映え、シミ一つない綺麗な肌に魅了されてしまう。それに小さな面積の布に守られる豊満な胸は今にも零れそうで……っと、俺はそこで霞が多くの視線を集めていることに気づいた。


「おいで霞」

「うん」


 俺は手に持っていたタオルを霞の肩に掛け、出来るだけ肌を隠すようにして霞と共に歩いていく。海に来た時点でこれは仕方ないことなのだが、これは俺の心が狭い証なのかな。


「……ふふ、ありがとう和希。まるでナイトみたい」

「……そうか?」

「うん」


 ナイトなんて高尚なもんじゃない、ただ霞を視線から守りたかっただけだ。


「……ごめんな。ちょっと独占欲強いかも」

「なんで謝るの?」


 不思議そうな顔で霞は言葉を続けた。


「和希の独占欲が強いって私にとってご褒美だよ。というか、こうして水着だからこそ目が集まるのは仕方のないこと。和希がそう思うのって別におかしなことじゃないと思うよ?」

「……そうなのかな?」

「うん、そうだよ」


 ま、それも霞の魅力の表れだと受け止めるとしよう。

 というか、こう思うくらいなら海に来るなって話である。それを言ってしまうと仕方ないので、それなら俺が霞から目を離さずに守ればいいだけの簡単なことだ。


 それから霞を連れて歩き、用意されていたパラソルの下に俺たちは座った。

 海に来たら泳ぐのは当たり前ということで俺と霞はそれぞれストレッチを開始するのだった。そして、お約束ともいうべきか霞は日焼け止めのオイルを取り出した。


「お約束やっとく?」

「……やっとく」

「ふふ♪」


 やりたいかやりたくないか、一言言わせてもらえればやってみたい。

 俺は霞からオイルを受け取り手に垂らした。そのまま手と手で混ぜるように温めてから寝そべった霞の背中に手を当てた。


「あん」

「……何その棒読みのあん」

「和希がしっかりと温めてくれたから驚けなかった。でもお約束だから声は出さないといけないって思ったの」

「……くくっ」


 ま、お互いに全く初々しさがないのは今更だろうか。

 この綺麗な肌が日焼けしてしまわないように、念入りにオイルを霞の体に塗っていく。ねちゃねちゃとした音を立てながら、背中を塗ってから太ももに向かい足の方も綺麗に塗っていった。


「よし、いいぞ」

「うん。それじゃあこっちも」


 起き上がった霞はタオルを上手く使って俺にしか見えないように体を隠し、大きな胸をぷるんと揺らして俺の方に体を向けた。


「えっと……まさか前も塗れと?」

「モチのロン」

「……………」


 前は流石に霞が自分で塗ると思ったのだが……俺は周りに目を配りながら、何だかんだ霞に頷いた。俺は再びオイルを手に垂らしてしっかりと温め、こちらを向く霞に腕を伸ばした。


「っ……ちょっと恥ずかしいね」

「そりゃあな」


 僅かに頬を赤く染めて霞はそう言ったが、やめてくれとは言わなかった。

 何も言わず、ジッと俺を見つめているその目から大きな信頼を感じ取れた。こうなるとたぶん最後まで絶対に霞はやめてとは言わないだろう。俺は苦笑し、そのまま霞の体にオイルを塗っていくのだった。


 肩から腕に掛けて、お腹も塗り……そしてその大きく実った胸に手を当てた。

 柔らかいそれにも満遍なく塗っていき、片手では大変だったので両手を使う。


「……なんかとてもいい気分」

「そうか……」


 まあ霞がそういうなら別にいいんだけど。

 谷間の間にも手を入れ、胸を持ち上げてその下側もしっかりと塗った。これで終わったのだが、相変わらず霞の頬は赤かった。


「当然だけどちょっと興奮しちゃった」

「……俺も」


 そりゃそうなるよって感じだ。

 とはいえ、流石に俺たちも時と場所は弁えている。これ以上のイチャイチャは帰ってからしようと力強く霞に言われ、俺たちはさっそく海に向かった。


 ちなみに、パラソルの下から出た霞は全く俺の腕を離すことはなく腕を抱いたままだった。すれ違う人が霞に目を向け、次いで俺を見て舌打ちをするような人も居た。まあそれ以上に霞の温もりを感じているからこそ気にはならなかったが。


「えい!」

「うおっ!?」


 さてさて、海に入った瞬間に霞が水をパシャっと掛けてきた。突然のことで顔面にそれを受けた俺は驚いたが、仕返しのつもりで水を霞に掛けようとしたが……まるでラグビーをやる人がタックルをするように霞が突撃してきたのでそのまま背中から水の中に倒れた。


「……こら霞ぃ!!」

「ふふ……あははは! うん、やっぱり楽しいね♪」


 少し文句を言ってやろうと思ったが、久しぶりに霞の大きな笑い声を俺は聞いた気がした。昔を思い出させてくれるような大きな声に、俺は文句を言うよりも懐かしさで胸がいっぱいだった。


「……そうだな」

「わぷっ!?」


 起き上がろうとした霞を無理やり引っ張り、そのまま水の中へと引き込んだ。さっきのお返しだよ、そんな意味を込めてのやり返しである。


「……おのれ和希、私を敵に回すとはいい度胸」

「お、やるか?」

「ふんっ!!」

「ぬおっ!?」


 まあ当然、空手によって鍛えられていた女傑には勝てなかったよ。

 ぜぇはぁと息を吐く俺とは違い、霞は余裕を見せる表情で満足そうに俺を見下ろしていた。


「私たち何やってるんだろ」

「ほんとだよ」


 そうしてお互いに苦笑した。

 本来ならこうして海にまで来る予定ではなかったのだが、やっぱり夏ということで少しだけ二人で遠出をしたくなったのだ。


 こうしてせっかくやって来たのだからたくさん楽しまないと。


「今日はたくさん遊ぶぞ霞!」

「分かってる!」


 こうして、俺と霞は海でのひと時を楽しむのだった。


 そして、ある程度動き回った後で岩陰に二人で向かい小さな波の音を聞きながらのんびりしていた。


「本当に良かった。今年は水着が無駄にならなくて」

「……そうだな。改めてこうしてまた霞の水着姿が見れて良かったよ」

「うん♪」


 満足そうに頷いた霞は俺の肩に頭を置くようにして身を寄せて来た。

 そうして静かな時間を過ごす中、ボソッと霞が呟く。


「和希……結婚しようね」


 その問いかけに俺は頷いた。


「もちろんだ。色々と準備をしてからになるけど絶対だ約束する」

「うん……好き」


 可能な限り早く霞と一緒になりたいのは確かだ。でもそこに行き着くためにはちゃんと順序は守らないといけない。


 いつの間にか正面に回ってキスをしてきた霞に応えながら、俺は我慢出来るのかなと少し苦笑するのだった。

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