みんなの前でもイチャイチャ
「……さてと、こうして一人で出歩くのも何だかんだ久しいな」
夏休みに入ってすぐ、俺は一人で街中に出ていた。
相変わらずの暑い日差しが嫌になるが、ちょっと買いたいものがあって出掛けていたのである。
「あった。ここだ」
俺の目的は最近になってオープンしたスイーツショップだった。
外観は白を基調としたもので、他にも可愛らしいデザインが目に入る。オープンしたてということもあり客の数もそれなりにあった。
「いざ出陣っと」
さて、何故俺が一人でここに来たのかの理由を話すと当然霞のためというのがあった。日頃のお礼を込めてというのもあるし、甘いものが大好きな霞の喜ぶ顔を見たいというものもある。
それに、今日は霞が傍に居ないのも理由がある。今日霞は朝から自分の家に戻っているのだ。朝比奈さんたち霞の友人がみんなで遊びに来たからだ。なので……少しお金は掛かるがみんなのも買っていくつもりだ。
取り合えず俺の独断と偏見でこれでいいだろうと思うものを複数買った。シュークリームやショートケーキ、イチゴのタルトなんかも全然ありだろう。
「……体脂肪とか気にしなかったら全部食べたくなる光景だなぁ」
白い箱に詰められたスイーツの数々、正直つまみ食いしてしまい気分だがグッと我慢だ。暑いということもあって温くならないうちに急いで霞の家に向かった。今日おばさんとおじさんが居ないのは分かっているが、一応チャイムを鳴らして中に入る。
玄関で靴を脱いだくらいでパタパタと足音を立てて霞が下りてきた。
「お帰り和希」
「ただいま……ってまあすぐにあっちに行くけど」
「なんで?」
「だってみんな来てるんだろ?」
「来てるよ? なんで?」
「……………」
どうやら本気で言っているようだ。
取り合えずこのままだと話は平行線みたいだし、みんなに挨拶をしてから一階で時間を潰すことにしよう。霞と一緒に彼女の部屋に向かうと、制服姿ではない私服に身を包んだ三人が居た。
「あ、いらっしゃい竜胆君」
「愛おしい彼女は預かってるよ~?」
「霞の家で竜胆君を見るのは新鮮だねぇ」
三者三様の反応だった。
それにしても、流石はクラスが誇る美少女たちってところか。朝比奈さんと倉持さんはラフな格好で肌が眩しい……というか倉持さんに至っては胸の谷間が見えているくらいだ。佐伯さんもラフな格好ではあるのだが、なんかこうスポーツ少女っぽさが見える感じだ。
「おやおや? 竜胆君は私たちの私服姿が気になるのかなぁ?」
どうやらジッと見ていたのがバレていたらしい。
ニヤニヤと笑う倉持さんだが、その問いかけに言葉を返したのは他でもない霞だった。
「みんな美人だから和希が見るのも仕方ない。でも、この中で一番和希の好みは私だから」
「……おぉ」
「ひゅ~言うねぇ」
少しだけぷくっと頬を膨らませて霞がそう言った。
まあそうだな、確かに彼女たちに対して凄く綺麗だし可愛いなとは思う。けど俺にとっても一番はどこまで行っても霞なのだ。
「サラサラの髪も、ぷくっとした唇も、大きなおっぱいも、お肉の付いていないお腹も、色々なところだって全部私が一番なんだから」
「霞さんその辺りにしておこうな!」
「……まだ言いたいことはたくさんある」
「ステイ」
「……ぐぬぬ」
漫才みたいな空気だが何気に凄まじいことを言ってなかったか?
霞から視線を外して三人に目を向けるとどうやら当たっていたらしい。
「本当に霞ったら大胆になったっていうか……」
「……色々なところって?」
「そりゃアンタ色々なところでしょ!」
……取り合えずその話は終わりでいいか?
「みんなの分買ったんだよ。良かったら食べてくれ」
そう言って俺は買ってきたスイーツの入った箱を差し出した。
霞がみんなの元に持って行って開けると全員が嬉しそうな声を上げた。
「うわぁ美味しそう!」
「これ新しく出来たお店のじゃん!」
「……じゅるり」
喜んでくれたようで何よりだ。
そして当然、霞に伝えておくことも忘れない。
「みんなの分もそうだし、霞には普段のお礼を込めてな。これくらいで返しきれるものじゃないけど、ありがとう霞」
「あ……ふふ、こちらこそ」
うん、可愛い笑顔を頂きましたよっと。
俺の分は……いいかな、このまま下に退散するとしよう。俺は背を向けて部屋から出ようとしたのだが、ガシッと手首を掴まれた。霞かなと思ったのだが、まさかの倉持さんだった。
「ちょっと竜胆君! 私たちに買ってきてくれたのは嬉しいけど、みんなで食べた方が楽しいからさ」
「……いやでもなぁ」
「女だけの空間は気まずい?」
朝比奈さんの問いかけに俺は頷いた。
すると朝比奈さんは霞にこんなことを言った。
「霞、竜胆君とイチャイチャして。みんなでこれを食べるまででいいから」
「了解」
ギュッと、霞が抱き着いてきてしまったので動けない。
どうやらこうなると一緒にお菓子を食べるのは確定してしまったらしい。そのまま霞に引きずられるようにみんなの元に向かい床に座らせられた。
「……ま、仕方ねえか」
「うん。諦めが肝心♪」
キッチリと俺の隣を確保した霞はそのまま腕を抱いてきた。
そうしてその状態で器用にシュークリームを手に取り俺に口に近づけた。そうだな一個くらい食べて行かないと遠慮させてしまうかもしれない。そう思って俺は大きく口を開けて噛り付いた。
サクッとした感触の中から広がるクリームの味……うん、めっちゃ美味い。
「なるほど、二人だとこんな風になるのね」
「学校でも変わらなくない?」
「確かに」
え? 流石にここまで無防備じゃないはずなんだが。
少し言い返そうとした俺だったが、どうやら口元にクリームが付いたらしく霞が気づいて顔を近づけてきた。舌でペロッと舐め取り、美味しいねと満面の笑みを浮かべて俺を見つめた。
「……あ、ついイチャついてしまった」
「遅いよこの天然が!!」
当然そんな倉持さんのツッコミが入るのも当たり前だった。
それから俺は名残惜しそうにする霞の視線をこれでもかと受けながら部屋から出て一階のリビングで過ごすことにした。
「……ったく、人前でも相変わらずなんだよな霞は」
まあでも、そんな抜けたところも本当に可愛らしいものだ。
だからこそ、俺がしっかりと霞を守っていかないといけない。霞は芯が強いのもあるし身体的な部分でも強い、でも放っておけないのは当たり前のことだ。
「……ちょい寝るかぁ」
色々と最近の疲れが溜まっていたのか早いうちに俺は寝落ちした。
次に目を覚ましたのが霞にキスをされたところで……まあそれも当然、朝比奈さんたちにはバッチリと見られているのだった。
「本当に凄いね二人は」
「うんうん。私も彼氏が出来た時の参考になったよ」
「……美琴があんなことするの気持ち悪くない?」
「ひどくない!?」
本当に賑やかな霞の友人たちである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます