魅力が溢れて止まらない
「……なるほどなぁ」
「どうしたの?」
背中から抱き着いた霞がそう聞いてきた。
俺は今スマホでとあることを調べていた。それは、女性はエッチをすることで魅力が増すのかというものだ。
「実は、今日朝から霞からやけに色気を感じるなって思ってさ」
「……そうなんだ」
言葉はいつもの霞だがその声は弾んでいた。
色気を感じると言われて嬉しかったのだろうか、俺は苦笑して霞の頭を撫でて言葉を続けた。
「どうやらその通りみたいだぞ? 愛されることでフェロモンが多く分泌されるんだとさ」
「へぇ……自分じゃ良く分からないけど」
「ま、そんなもんだろうな」
これって科学的に証明されてるのかな? まあそこはいいか、取り合えず霞がいつもより魅力的に見えているのは間違いないみたいだし。いや、いつも霞は魅力たっぷりだけども。
「魅力的に見られるのは嬉しいけど和希にだけそう思われればいいよ」
可愛いことを言ってくれる彼女さんである。
霞は俺の首元に唇を押し付け、そのまま匂いを嗅いだりキスをしたりと好き勝手してきた。くすぐったさを感じるものの、霞からの愛情表現に止めろとは一切言わずしたいようにさせるのだった。
「……こうして和希と付き合うようになって、本当の家族みたいに一緒に過ごして幸せ。まるで新婚さんみたい」
「はは、そうだな」
「でも……おばさんとおじさんが帰ってきたらそれも終わっちゃう」
「……まあ仕方ないさそれは」
高校生の段階で子供二人が一緒に過ごしている時点でおかしな話だ。こうして霞がこっちに来れているのも幼馴染というのもあるし、互いの両親が俺たちのことを知り尽くして信頼しているからだ。
「霞の家は目の前でいつでも会えるしいつでもこっちに来れるんだから」
「そうだけど……出来ることなら一時でも和希と離れたくない。我儘だとは思ってるけど、それでも私は和希と一緒に居たい」
「……ったく、本当に困ったもんだな」
俺は苦笑して霞の方へ体を向けた。
腕を広げて受け入れる体勢になるとすぐに霞は胸に飛び込んできた。そのまま抱き着いて動かなくなった彼女の頭を撫でながら俺は言葉を続けた。
「それだけ思ってることは凄く嬉しいよ。俺も同じくらいに思ってるし……でもやっぱりあまりお互いに依存しすぎるのも困るしな。だから少しは離れることにも慣れておかないと」
「……むぅ、慣れたくないそんなこと」
顔を上げた霞は頬を膨らませてそう言った。
俺はそんな霞の頬をムニムニと揉んだ。ちょっと痛かったかなと思ったけど霞の様子からその心配はなさそうだ。体を離した霞は俺が揉んだ頬に手を当て、分かったと言って頷いた。
「和希の言うことも尤もだね。世の中に恋人との間に感じる寂しさから浮気に走る人が多いって聞くし……そうならないように頑張る」
「……浮気とか不安になること言わないでくれよ」
「大丈夫。言葉の綾ってやつだよ。でもそれだけ和希と一緒に居たいって思ってることは忘れないでね」
「もちろんだ」
まあ何というか、霞が浮気をするような姿が浮かばないんだよな全く。それだけ霞は俺のことを好きで居てくれていることが分かるしその逆も然りだ。だからこそ、霞が寂しくならないように俺も支えていかないとな。
「今日はどうするの?」
「のんびり霞とイチャイチャ」
「……言うようになったね和希。うんうん、良い傾向だ」
「そんなに?」
「うん。もっと私が夢中にさせてあげる。私が居ないと血を吐くくらいに」
「怖いことを言うんじゃないよ」
軽く額にチョップを入れておいた。
痛いと言って額を抑えたが、すぐにやり返すように軽めのチョップで反撃されてしまった。空手をやっていた時の影響でそのチョップは目に見えないほどに速かったがのだが、力加減が絶妙に上手く本当に痛くなかった。
「……ふふ」
さっきのように正面からまた霞が抱き着いてきた。
そのまま離れなくなり、まるで猫のように彼女は甘えてくるのだった。それは風呂の準備をする夕方まで続くことになり、俺は長い時間を彼女の香りと温もりを感じながら過ごすのだった。
そして、時間は流れて週明けの学校の日がやってきた。
いつものように霞と一緒に学校に向かったが、やっぱりというべきか霞は多くの視線を集めていた。まさかあの調べたことが本当だとは思わず、俺も霞もここまでなんだなと苦笑していた。
「なんか霞……雰囲気変わった?」
「そうかな?」
先に教室に来ていた朝比奈さんが霞を見てそう言った。
霞は相変わらず俺の後ろに立っており、後頭部に胸を押し当てるという最近好きになってきた体勢だ。グリグリと小刻みに頭を振るうと、霞は小さく笑ってもっと強く押し付けてくる。
「私が前に居るのにイチャイチャしちゃって……」
そしてそんな俺たちを朝比奈さんが呆れたように見つめていた。
取り敢えず同性にも霞の変化というか、醸し出される雰囲気は感じ取れているらしいがその理由まではやはり気づいていない。俺たちもやることやったから、なんて馬鹿正直に言うつもりもないので勝手に気づいてくれって感じだ。
「和希はこれが好きになったみたいだね」
「……恥ずかしいことにな」
「全然恥ずかしくないよ。和希の為に大きくなったと思えば嬉しいし」
気持ち良いのもあるし本当にいい匂いがするんだよな。
朝比奈さんだけでなく、倉持さんと佐伯さんも後から加わって話が盛り上がった。
「ねえねえ、それ私にもやってみてよ」
「なんで?」
「……そのなんでに凄い圧力を感じるんだけど」
「私の胸は和希だけのもの、今後は触ることは一切許さない」
「な、なんだって!? そんな……そんな殺生な!!」
倉持さんってどんなキャラなのか分からなくなってきた。
まあでも霞としても冗談ではあったらしい。友人同士のじゃれ合いのような感覚としてはむしろそれくらいなら許すスタンスなのは相変わらずみたいだ。
「でも度が過ぎると殴るからね。思いっきりお腹をぶち抜くから」
「……分かった。それでも私は揉む!」
自分の身よりそっちのが大事なのかと、俺たちは揃って苦笑するのだった。
クラスの中でも霞はかなり視線を集めているが、それでも先輩のような絡んでくる奴は居ない。近づいてきても俺にも霞にも頼りになる友人が居るから安心だが、それを抜きにしてもあの時みたいに俺が守るだけだ。
「霞だけじゃなくて竜胆君もどこか凛々しくなったよね」
「そうか?」
「うん。とてもかっこいいと思うよ♪」
佐伯さんにそう言われ、俺は少し照れてしまった。
どうやら俺自身にも少しばかりの変化を齎しているらしく、おそらくは自信が付いたんじゃないかって思う。
「それは私も思ったかな」
「うんうん。私も私も」
「おぉ……えっと、ありがとう二人とも」
ちなみに、霞の胸を押し付ける力が強くなったのは言うまでもない。
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