水着を着た霞ちゃん
大人の階段を上り、色んな意味で自信を付けた和希と色気を漂わせる霞の二人はやはり注目の的だった。
ただでさえ人気があった霞に更なる魅力が上乗せされたとなっては男子たちはその心を射止められなかったことに悔しさを露にする。彼女の笑顔を、彼女の愛を、彼女の体を全てモノにしたかった男子は多かった。
「和希、帰ろうよ」
「あぁ」
放課後になり霞が声を掛けて和希は立ち上がった。
二人一緒に歩く姿は本当にお似合いで、何より普段あまり表情を変えない霞が頬を緩めているのだ。それは今まであまり見たことがない表情であり、和希が傍に居るからこそ浮かべる表情だった。
「……無理だよなぁ」
そして今日も、そんな二人を見て男子の誰かが苦笑してそう呟くのだった。
学校を出て街に出てデートを楽しむ二人だったが、途中で和希がトイレに向かうために霞の傍を離れた。
霞は暇になったので懐からスマホを取り出して時間を潰していくのだが、学校でも視線を集めたということはつまり、外に出ても同じことが言えた。
スマホを一人で触る霞を見る目は多かった。しかしそのどれもが話しかけることはなく、チラッと見ては去っていく。その理由はおそらく、霞がスマホを覗きながらも冷たい空気を醸し出しているからだ。話しかけられても反応しない、迷惑だから話しかけるなとそんな空気を感じさせるのが原因だ。
「お待たせ」
「ううん、全然」
しかしそんな鋭い空気も和希が戻ってくれば柔らかいものに変化する。頬を緩めて手を繋ぎ、和希の横顔を眺める霞の様子はとても楽しそうだ。さて、このまま帰る二人だが目指す先は霞の家だった。
すぐに目的を済ませたら和希の家に向かうのだが、その目的とは果たして……。
「お待たせ」
「……おぉ」
放課後、俺の目の前には純白の水着を着た天使が居た……って、つい見惚れてしまい天使のことを天使って言ってしまった……うん? なんかおかしいな、まあいいか何も間違ってないし。
あと少しすれば夏がやってくるということで、一足先に季節を先取りして霞が水着姿を見せてくれた。気が早いとは思ったが、見せてくれるというのならそれを見たいのが男心というやつである。
「どうかな?」
「似合ってるよ凄く。黒髪に白い水着が映えるようで……えっと」
「ふふ、無理して言葉を絞りださなくても大丈夫。似合ってるって言葉だけで満足しちゃうから」
「……そっか」
霞が着ているのはビキニスタイルの水着だ。
今まで友人と海やプールに遊びに行くことはあっても同年代の女子と一緒に行くことはなかった。もちろん目に留まることはあったけど、そこまで興味は惹かれなかったし……うん、霞が水着姿だと目が行ってしまうなこれは。
「和希の視線がとてもエッチ♪」
そう言うと霞は色んなポーズを取り始めた。
胸を強調するポーズであったり、お尻を突き出すようなポーズであったり、まるで俺の理性を試すような仕草を目の前で連発してくる。
「……うっふ~ん♪」
「ちょっと馬鹿っぽいぞ」
「うん。私も思った」
無表情だったしな。でも……やっぱり凄く似合ってる。
鏡で霞自身も自分の姿を確かめているが、そんな姿ですら様になっている。
黒髪の霞に純白の水着というのはこう……なんて言うのかな、清楚っていうイメージを前面に押し出しているって感じだ。ただその水着が守る豊かな胸とお尻はあまりにもエッチすぎるのだが……。
「……俺って本当に凄い子を彼女にしたよなぁ」
美人で可愛くて、スタイルもよくて気配りも出来て……こんなにも俺を好きになってくれる子が傍に居る幸せって本当に凄いことだと思うのだ。
「うん。私は凄い子」
「うわっと!?」
一人で色々と考えていたら四つん這いになりながら霞が目の前に居た。
俺をジッと見つめる霞の顔から視線を下に下げれば、重力に従って下に向かう胸の谷間がお出迎えしてくる。おかしい、俺ってここまでおっぱい星人だったっけ。
「ねえ、水着姿の私をどうしたい?」
その言葉にゴクッと唾を飲んだ。
思わず反射的に腕が伸びそうになったが、昨日の今日だし踏み止まる。霞もそんな俺を見てこれ以上攻めるのではなく、クスッと笑って身を引いた。
「その反応だけで十分だよ。この水着はちゃんと和希を意識させるんだって」
「意識するに決まってるだろ。ただでさえ好きな霞の水着姿だぞ?」
そう言うとボフッと音を立てて霞が胸に飛び込んできた。
服の上からではなく、直に霞の肌に触れながら抱きしめた。
「私ね」
「うん」
「服の上よりもこうやって肌を直接触られるのが好き」
「お、おう……」
「ふふ、それじゃあ着替えるね」
俺から離れて霞は水着を脱いだ。
もう付き合っているのもあるしそういう関係にもなったのだから裸を見られることには何も抵抗はないんだろう。上も下も隠すことはせず、目の前で霞は着替え始めるのだった。
「……良かった」
「何が?」
水着を大事そうに胸に抱えながら霞はこう言葉を続けた。
「今年は無駄にならなくて」
「……くぅ!」
霞から離れていた頃が刺客となって俺を襲う!
もう大丈夫、そんなことにならないと拳を作る俺を霞が笑っていた。
「うん。もう心配はしてないよ。和希はもう私から離れないって分かるから」
確信めいたその言葉に俺も釣られて笑みを浮かべた。
結局、離れていた期間があったとしても霞の方が俺のことを分かってるよなって本当にそう思う。俺が分かりやすいだけなのかもしれないけど、分かりやすいってのは時に良いことなんだと思う。
「ねえ和希、今日はこっちでご飯食べない?」
「いいのか?」
「うん。お母さんもちょっと乗り気だったし。今から伝えてくる」
「分かった」
部屋を出て行く霞を見送ると、テーブルに置かれた脱ぎたての水着が目に入った。
俺はそれをジッと見た後、何事もなかったように視線を逸らす。
「……なんで目が吸い寄せられるんだ。恐ろしいぞこれは」
霞のベッドに背中を預け、俺はジッと霞が戻ってくるまで視線を動かさなかった。
ちなみに、そんな俺の状態を見た霞は水着をタンスに仕舞い、水着なんかよりも私を見てと言ってずっと俺の目の前から動かなかった。
「……じぃー」
「……………」
「ぅんっ!?」
まあそうなると、キスはするよねって話だ。
不意を突かれた様子の霞はすぐに表情を蕩かせたが、何か用があったのかおばさんに呼ばれてまた部屋を出て行った。その際にとても不満そうというか、不機嫌そうな顔をしていたがどうにかおばさんと喧嘩しないことを祈る。
「もうタイミングが悪い!」
「なによキスでもしてたの?」
「……っ!!」
「ごめんなさいねぇ♪」
……これ、俺もダメージを負うやつだ。
キスって幸せな行為だけど、やっぱり時と場所は考えないといけない。それを痛感した瞬間だった。
【あとがき】
あとちょっとで終わります。
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