お風呂場までグイグイやってくる

 なぜ男女の体に違いがあるのか、俺は今それを猛烈に考えていた。

 男の胸は膨らまないが女の胸は膨らんでいる。男には下に大事なものが付いているが女には付いていない。肉体的要素の違いは大まかにその二つくらいだ……それなのになぜ男はそんな違いに興奮するのか、俺は今その謎を探るべくアマゾンの――。


「何をブツブツ言ってるの?」

「……霞よぉ」

「なに?」

「……やっぱり一緒のお風呂は恥ずかしいぜ」

「知ってるよ。私だって恥ずかしいんだから我慢しよう……いや」

「うん?」

「我慢、しなくてもいいんだよ?」


 背中から体をくっ付けて霞がそう言った。

 むくりと起き上がりそうになる我が分身に呼んでねえよと怒鳴りつけ、俺は落ち着くように深呼吸をした。


 さて、今俺は風呂に居るのだが霞も一緒に入っていた。

 最初に浴室に入った俺の後に少し間を置いて霞が有無を言わさずに入ってきた。こうして彼女が浴室に突撃してくることは初めてではないが、キスをしてからは初めてのことで当然色々と想像してしまう。


「嫌ならやめるよ。でも、和希が嫌だと思ってないのは分かるから……でも私も恥ずかしいのは恥ずかしい。正直、体がぽっぽしてる」

「ぽっぽって可愛いなおい」


 つまり熱くなってるってことだろ?

 お互いに完全に意識してしまっているからこそ熱を持っている。俺だって女の子とそういうことをしたいとは思う……その相手が霞なら凄く嬉しいことだ。くそっ、昔は全く気にしなかったのに今となっては……いやお互いに成長しているから当然の反応なんだけどな!!


「こうしてると永遠に出られないから体、洗うね」

「……おう」


 そもそも霞が背中を流すって入ってきたもんな。

 タオルに石鹸を付けて泡立たせ、霞は優しく背中を洗い始めた。強弱の付け方が非常に上手で大変気持ちが良い。気を抜いたら情けない声が出てしまいそうだ。


「……気持ち良いなぁ」

「ふふ、それなら良かった。ねえ和希、これから毎日こうする?」

「……魅力的な提案だけど、俺の身が持たないんだが」

「うん。それは私も同意、気を抜いたら倒れそう」

「霞さん!?」


 こうされることは嬉しいけど身を削ってまですることじゃないだろうに。

 それから霞に身を任せ、背中を綺麗に洗ってもらった。お湯で泡を流してもらうと今度は霞が俺の前に座った。


「お願い」

「おう」


 ……恥ずかしい、確かに恥ずかしいけど昔は本当によくこうやってたな。

 霞からタオルを受け取り、俺は霞の背中にタオルを当てた。俺とは違って真っ白な綺麗な肌、シミ一つない玉のような肌って言うのかな。これだけ綺麗だと下手に力を入れて傷を付けてしまわないか不安になってしまう。


「和希、とっても気持ち良い」

「なら良かったよ」


 霞にそう言われて俺は安心した。

 お湯で背中を流し、それから頭などを洗って二人で浴槽に浸かった。濡れた髪と紅潮した頬、下着に守られていない豊かな胸元も見えチラチラと視線が向く。当然それは霞に気づかれていた。


「エッチ」

「……すまね」

「ふふ、いいよ全然。男の子だもんね。大好きな彼女が裸で傍に居たら見ちゃうよ」

「あ~その通りだよ!!」


 逆に見ない方が失礼ってやつじゃないのか!?

 俺は付き合っている彼女がこうやって傍に居て一切の反応をしない奴は男じゃないと思ってる。むしろ、本当に好きなのかと疑いたくなる。もちろん鋼の精神で乗り越えられる人は居るだろうが俺には無理だ。


「……なあ霞」

「なに?」


 俺もたぶん頭がボーっとしているんだろう。

 ボソッと独り言でも呟くように霞に対して口を開いた。


「霞とエッチなこと、俺だってしたいさ」

「……ふぁ!?」

「……そんなに驚くことかよ」

「驚くよ……えぇでも、してもいい……あぁでも……あわわわわ」

「……くくっ」


 こうやって浴室に突撃してきたのにこう言うとすぐに霞は慌てるんだもんな。そんな部分も可愛いし、彼女の魅力の一つでもある。だが当然、俺は今すぐここで霞とそういうことをしようと思ったわけじゃない。


「……良く分からないけどさ、またキスとはベクトルが違うんだよな。おいそれと簡単に出来ないっていうか、色々と心の準備が要るっていうか」

「……そだね。私も凄く期待してる……でもちょっと怖い……あ、和希が怖いわけじゃないんだよ?」

「分かってる。女の子は最初凄く痛いって言うもんな」

「……痛いのが怖いわけじゃないんだけどね」


 まあなんにせよ、お互いにまだそれはちょっと怖いってことだ。

 俺は体を霞の方に向けて腕を伸ばした。綺麗な黒髪に手を当てたが、濡れているのでいつものサラサラ感を感じることは出来なかった。


「ま、それだけ霞のことを大切にしたいんだ俺は」

「……うん。分かってる。和希の言いたいことはちゃんと分かってるから♪」


 よし、それならいいんだ全然。

 ……でも、今度近くの薬局に寄って予め買っておくべきだよな? まさか俺があのアイテムを買うことになる日が来るとは思わなかった。霞が傍に居る以上、いつ獣になっちまうとも限らないし。


「本当に和希は私のことを大切にしてくれるね?」

「当たり前だろ。霞を大切にしない俺にこの先なったとしたら遠慮なく――」


 別れてくれ、そう言おうとしたが霞に唇を指で押さえられた。


「絶対に別れないよ。むしろ分からせるから」

「……おう」


 分からせるって……それ女の子のセリフじゃないんだが。

 まあでも、取り敢えず明日にでも薬局に行くことは決まったな。あれ、でも帰りってことは霞も一緒だろうし……大丈夫かな。


「和希、好き」


 ぴとっとくっ付いてきた霞に苦笑し、俺たちは体を温めるのだった。

 そして、お風呂を終えれば後は部屋に戻って寝るまで過ごすだけだ。ベッドの上で寝転がる俺に抱き着くように霞が身を寄せており、満足に動けないながらもスマホでSNSを見ながら時間を潰していた。


「……すぅ……すぅ」

「霞? 寝たのか?」


 どうやら先に眠ったみたいだ。

 相変わらず寝付きがいいなと苦笑し、俺は電気を消した。俺に引っ付いて離れないのでそのまま霞を傍に置いて目を閉じ……ようとしたが、霞の瞼がぴくんと動いたので起きていることに気づいた。


「……私は寝てる」

「寝てないよな?」

「……むぅ。先に寝た和希の寝顔を眺めようと思ったのに」


 それって楽しいか、なんてことを考えながら霞を抱きしめた。

 なんかこうやって寝るのが安心するしクセになってきたな……案外これも霞が狙ったことだったりするのだろうか。


「……ま、いいか」

「なにが?」

「なんでもない。霞が好きだってこと」

「……私も」


 照れてしまった霞を抱きながら俺は眠りに就くのだった。

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