霞が俺を強くしてくれた

「……ねえ舞」

「何よ」

「どう思う?」


 近くに居る美琴にそう聞かれ、私は彼女が見つめる方へ視線を向けた。

 当然そちらに居るのは私たちにとって大切な親友でもある霞だ。彼女がさっきからずっとボーっとして愛する彼氏を見続けているのである。


「……………」

「霞」

「……………」

「ダメだねこりゃ」


 怜の言葉に私は頷いた。

 基本的にいつも私たちより遅く霞は竜胆君と一緒に登校するのだが、今日に限っては彼女たちの方が先だった。何か用事でもあったのか、それを聞いてみたけど……ずっと霞はこの調子なのだ。


 心ここにあらずと言った様子でずっと竜胆君の方へ視線を向けている。友人たちと仲良く話している彼だが、やっぱり霞の視線には気づいているようで……ってあれ、彼も彼で少し頬を赤くしてる? 霞みたいな美人に見つめられて照れるのは分からないでもないけどこれくらいなら慣れているはずだ。だからこそ、もっと別の何か理由があるのだと私たちは考えた。


「……ふむ」


 しかし、それを聞きたいのだが霞はずっとこんな調子だ。

 ……仕方ない。私は霞の顎に手を当てて無理やりにでもこちらを向かせた。ここまですると流石に霞も無視は出来ないようで私に視線を向けるのだった。


「……あ、舞か」

「さっきから私は居たけどね」

「私たちもね」

「うんうん」


 私たちを順番に見つめた霞は何も言わず、またゆっくりと顔の向きを竜胆君の方へ向けた……この子、絶対に何かあった!


「霞~? 悪戯しちゃうぞ~?」


 美琴が霞の胸に手を当て、形が変わるくらいに揉みしだく。しかし霞は全く意に介さないし表情の変化も一切ない。とはいえ美琴は悪戯っぽく笑い、霞の胸の頂点を抓るように親指と人差し指でギュッと摘まんだ。


「ぎゃふんっ!?」

「……あ~」


 霞の鉄拳が美琴のお腹に炸裂した。

 美琴はお腹を押さえてしゃがみ込み、私と怜は手の動きが見えなかったことにまず戦慄するのだった。相変わらず霞は竜胆君を見つめ続け、ここまでくるとあちらの方も竜胆君の友人たちが何事かと揶揄っている姿が見える。


「ねえ霞、本当に何があったの?」

「……気になるの?」

「おっと?」


 まさか返事が返ってくるとは思わず驚いた。

 竜胆君から視線を逸らし、こちらに顔を向けた霞はやっぱりいつも通りだ。取り敢えず何かがあったことだけは確定だが、その何かが当然分からない。


「和希がね」

「うん」

「うん!」

「……うん」


 竜胆君が何をしたの?


「かっこよかったの」


 ……あぁうん、霞がそう思ってくることは分かるけど聞きたいのはそういうことじゃないんだよ。でもこれ以上は霞も話してくれないかなぁ、だってまた竜胆君の方を見つめだしたし。


「もしかしてエッチでもしたのかな?」

「……なるほど、そっちか。でも早くない?」

「いやでも高校生だよ? 一番盛ってる時期じゃん」


 盛ってるって言い方よ言い方。

 そんな話をしていると霞がこちらを物凄い勢いで振り向いた。


「してない」

「あ、はい」

「すみません」

「申し訳ありませんでした」


 ……ちゃんと聞こえてるんだね。

 まあでも、霞も流石にここまで私たちが話していると無視をするわけにもいかないと思ったのだろう。少し間を置いて霞は話してくれた。


「……ということがあったの」

「ねえ、その先輩殺る?」

「埋めてやろうよ」


 こらこら、物騒なことを言うんじゃない。

 でもなるほどね、そんなことがあったんだ。私は納得すると同時に、竜胆君もそんなことが出来るんだなって感心した。霞のことを大切にしているのは良く分かるけどそれでも行動に移せるかどうかは別問題……ふふ、何も心配はなさそうだ。


「私ね」

「うん」

「嫉妬する人間って本当に醜いんだなって思う」

「だっさいよねぇ」

「うん。ダサい」


 今日の霞は一段と切れ味があるなぁ。

 けれど私も霞の意見には賛成だ。人間であり感情がある以上、嫉妬という感情は切って切り離せないモノとは思ってる。そう、嫉妬心を持つだけならいいんだ。でもそれを暴走させて誰かに迷惑を掛けるようなことだけはしちゃいけない。


「嫉妬なら私も霞にするよ。なんでこんなにこの子は綺麗なんだろうって」

「何を言ってるの? 舞も凄く綺麗じゃん。怜も美琴も凄く美人だし」


 別に嫉妬はしないけどした体で話してみたらそんなカウンターをされた。霞は本心からそう思っているのか、私たちを見つめてそう言い切った。心を許してない相手には見向きもしないけど、一度でも内側に入れた存在には全く別の顔を見せてくれる。


「……もう霞は良い子だなぁ!」


 そんな霞だからこそ、私たちは大好きなんだよねきっと。


「……まだ朝礼まで時間はあるね。和希のところ行ってくる」

「いってらっしゃい。私たちは眺めてるから」

「うん」


 さてさて、朝からどんな絡みを見せてくれるのか見物しちゃおっと♪






「和希」

「お、おう……」


 ジッとこちらを見つめていた霞が歩いてきた。

 さっきまで好き勝手言って聞き出そうとしていた与人たちは我関せずを貫くように離れて行ってしまい、都合のいい奴らだなと一回睨んでおく。


「和希、改めてになるけどさっきはかっこよかった。和希を好きになって良かったって心から思う」

「そうか……ま、そう言われると俺も嬉しいよ」


 あの先輩との出来事は正直すぐに忘れてしまいたいくらいだが、あの出来事があったから俺ももう少し前に進めた気がする。そうだな……あれから俺も大きくなった以上、ただ霞を背中に守るだけじゃダメだ。言うときにはちゃんと言わないといけないって改めて思ったよ。


「……あ」

「どうした?」

「今の和希の顔……凄く良い。和希はやっぱりかっこいいよ」

「心だけでもイケメンになりてえなぁ」

「むぅ……本当なのに」


 まあそれでいいんじゃないか。

 霞にだけそう思われるだけで俺は幸せだよ。でも、あんな風に大切な人を守ろうとして前に立てるようになったのはきっと……霞のおかげでもあるんだ。


 霞が俺を強くしてくれたんだよ。

 ……しっかし、ここが学校っていうのがもどかしいな。家の部屋なら思いっきり霞を抱きしめて思いっきり堪能するんだけどな。


「? 和希、おいで」

「なんで?」

「和希から抱きしめたいオーラを感じ取った。ほらほら、カモン」

「学校だからなぁ……帰ったら頼む」

「分かった。我慢する……いいねこういうやり取り♪」

「んだな」


 彼女が出来るだけでこんなにも彩られた毎日になるとは……そりゃみんな彼女や彼氏が欲しいわけだ。

 満足そうに笑みを浮かべて去っていった霞を見送ると、与人たちが傍に戻ってきた。


「なあみんな」

「どうした?」

「……彼女っていいなぁ。そりゃ作りたくなるってもんだ」

「だなぁ……作れない奴の恨みをお前は知るべきだ」


 与人の言葉に友人たちがうんうんと頷いた。

 ……取り敢えず、この話題はもう終わりにしよう。

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