お互いに距離感バグ発生

「……キス……キス……キス……」


 ボソボソとそれだけ呟きながら霞はシャワーを浴びていた。

 学校が終わってから和希が何かに悩んでいたのは気づいていた。その悩みを打ち明けてほしくて聞いてみたのだが、それがまさか自分とキスをしたいだったとは。


「……えへ……えへへ♪」


 キスをしたい悩みを聞き、ここだと思って踏み込んだ結果……大好きな和希と触れるだけではあったがキスをすることが出来た。お互いの唇が触れ合った時間、刹那の時間のはずなのに永遠に感じてしまうような錯覚があった。


 ……まあその後すぐに霞は目を回して倒れてしまったのだが、それでも和希とキスをしたという事実は消えない。


「……やばい、ずっとにやけちゃう」


 両手を頬に当てて表情を固定しようとしても、それをすり抜けて勝手にニヤニヤと頬が緩んでしまう。それだけ和希とのキスはとても幸せな時間だったのだ。


「……でも、私も初心ってことだね」


 うんうんと霞は頷いた。

 以前に和希に対して嫌と言ってもやってほしい、さっきは自分からキスをする雰囲気まで持っていったが、恥ずかしさで脳が沸騰して目を回してしまうのだからまだまだである。


「私がもっとグイグイと攻めればあのキスの先も出来るはず……そうすればこの体に消えない印を和希に付けてもらうことだって出来る。うん、私ならやれる!」


 胸の前でグッと握り拳を作った。


「和希だって私をとことん意識してくれてる。魅力は十分にある……大丈夫」


 自分の体には絶対の自信を持っているからこそ言える言葉だ。

 曇った鏡を濡らして改めて自分の体を見つめてみる。シャワーに濡れて髪が肌に張り付いており、頬も紅潮して色っぽさを醸し出している。シミ一つない白い肌は汚れを知らず、大きくに実った胸とくびれのある腰、そして程よく大きなお尻が霞の色気をこれでもかと際立たせていた。


「……でもいきなり攻めても和希を困らせるだけ。恋愛って難しい」


 そう、恋愛は難しい。

 今まで通りに過ごしていくのもそれはそれでありだが、やはり和希限定で何か特別なことをしたい気持ちも当然ある。その中でもキスは一番したかったことでもありそれを和希をきっかけにして経験することが出来たのは嬉しかった。


「……ってキスを思い出すと頬がユルユルになっちゃう」


 学校では決して見せることのないニヤニヤした表情、どんなに取り繕おうとしてもキスをした記憶が蘇って邪魔をしてくる。

 霞は気持ちを落ち着けるために湯船に浸かった。


「……和希……和希♪」


 全く意識してないのに指が唇に触れる。

 ぷっくらとしながらも柔らかい唇、そこに人差し指を触れさせて疑似的に自分の指が和希の唇だと想像した。気持ちを落ち着ける? 馬鹿を言ってはいけない、もっとエスカレートしてしまった。


「……あ~」


 想像はいつしかさらに過激なものになり、指が唇ではなく和希の舌だと想像してしまった。人差し指と中指を重ね合わせ、ペロペロと舌を這わせて舐めていく。正面から、横から……ありとあらゆる舐め方を試すように悩まし気な声を漏らしながら舐めていく。


「……はっ!?」


 っと、そこで霞は我に返った。

 お湯ではなく唾液でドロドロになってしまった指を眺めて溜息を吐いた。


「……私って自分が思うよりもエッチなのかなぁ」


 そんな悩みの壁にぶち当たった。

 でも、誰よりも和希のことを理解しているのは霞だ。だからこそ、霞は自信を持って言える。


「程度の差はあってもエッチな女の子が嫌いな男は居ない。それも和希も例外じゃない絶対に」


 男の子はエッチな女の子が大好きである。それはある意味確かな真理なのだろう。





「和希♪」

「……………」


 俺は今戦っている……何かって? 己の煩悩とだ。

 今日霞とキスをしたことは幼馴染という関係性から一歩先に進んだ。たった一歩でも俺と霞にとっては大きな一歩、キスをしたいと言えるくらいには度胸が付いたのではと自信を持った。


 しかし、問題は今だったと俺は知った。

 風呂上がりの霞がいつもより色気を垂れ流しているなとドキドキし、そんなドキドキを抱えながら夕飯を済ませて今に至る。


 床に腰を下ろし、ベッドに背中を預ける俺に正面から抱き着くように霞が引っ付いているのだ。あのキスが霞の何かを変えたのか分からないが、これまで以上に嬉しそうな雰囲気を出して抱き着いてきている。


「……まあ俺も嬉しいしな」

「でしょ? 分かってるから大丈夫」


 そいつは嬉しいことで。

 まあでも、確かに恥ずかしいしドキドキはするが俺も嬉しいのだ。こうやって霞が分かりやすい形で愛情表現みたいなことをしてくれるのは。


「ちなみに」

「……なんだ?」


 密着していた体を離し、自身の胸元に霞は指を向けた。

 今霞が来ているピンク色のパジャマは前をボタンで留めるタイプだ。そのボタンを上から二つほど外しており、その豊かな谷間がこんにちはしている。


「興奮する?」

「……っ!!」


 そうなんだよずっとそれが気になってたんだよ!!

 俺に抱き着く瞬間に何故か目の前でボタンを二つ外したのだ霞は。おかげで抱き着かれて密着されると物凄い近い位置でその谷間に目が向いてしまう。さっき俺が煩悩と戦っていると言った原因はこれだった。


「……今はまだキスで勘弁してくれ」


 ヘタレ発言? うるせえまだそれは俺にはハードルが高いんだ!!

 俺の言葉を聞いてクスっと笑った霞は分かったと頷いた。


「私たちのペースで色々と進んでいこう。でも……」

「でも?」

「……キスを思い出すと頬が熱くなるね」


 確かにずっと俺と同じで霞も顔が赤いもんな。

 お互いに夕方のキスは大切な思い出の一つになっただろうが、同時にしばらく頭を悩ませる行為だったのは間違いない。


 ただ、俺にはやっぱり恋人の谷間を至近距離で見るのは難易度が高い。

 俺は霞のパジャマに手を伸ばし、上から二つボタンを留めた……あれ、なんで俺がやったんだろう。そのまま霞にボタンを留めてくれって言った方が良かったのでは?


「……脱がされるのかと思ってドキドキした」

「……………」


 誰か俺を殺してくれえええええええええ!!

 こうして霞が抱き着いているので体を動かすことも出来ないし、下手に振りほどけば霞を悲しませてしまう。そんな状況で落ち着くにはどうするか、俺はこれしかないと霞の体を思いっきり抱きしめるのだった。


「……これで落ち着くしかない」

「……ふふ、でも心臓が凄くドクンドクンって言ってる」


 もうね、俺もどうすればいいのか分からないんだ。

 そんな風に霞を抱きしめて数分、今度は交代と言われて俺が逆に霞に抱きしめられるのだった。その豊かな胸に顔を埋めるように、ガッチリと固めてきた霞に俺はもう溜息すら付けない……だってこれを嬉しいって思ってるんだ俺ってば。


「……グイグイ来すぎだろマジで」

「うん。グイグイ行くくらいがちょうどいい。和希が相手なら尚更」


 ……本当にグイグイ来すぎ君だろ。

 付き合うことも楽ではない、それをある意味知った俺だった。

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