手を繋いで登校すれば分かるよね
「それじゃ、いこっか」
「おう」
休みが明け学校の日だ。
いつもと何も変わらない朝の風景、しかし霞と恋人同士になって初めての登校でもあった。
霞と一緒に家を出て道を歩くのだが、当然のように霞が手を繋ぐ。これは昨日決めたことであり、少しずつ周りに付き合いだしたことを認識させていく作戦だ。今までよりも親密な姿を見せれば勝手にそうだと判断してくれるだろう。
「和希と付き合っていることが知られるなら私も告白されなくて済む。呼び出されても付いていく気はないけど、そういった目を減らせるなら全然良いし」
「だな……俺としても牽制にはなるし」
繋いでいる手を少しだけ強く握った。
決して痛くないように気を付けてのことだったが、霞は嬉しそうに同じく握り返してきた。
「和希もかなり積極的になった。良い傾向だね」
「……積極的というか霞のことが大切だからだぞ?」
「分かってる。そう想われて私は幸せ♪」
そんなこんなで霞と共に話をしながら道を歩く。
学校が近づいてくると人の姿も増え、俺たちと同じ制服を着た生徒たちの姿が増えてくる。今まではこうして手を繋いで登校したことはなかったので、やはりというべきか視線が集まる気がした。
「そんなジロジロ見なくてもいいのにね」
「確かに」
まあそれも無理なのかもしれない。
俺はともかく霞は二年の中でも本当に人気のある子だ。とはいってもそのほとんどが霞のことを何一つ知らず美人だからという理由だけで近づこうとする。しばらく霞から離れていた俺が今更って気もするが、そんな動機で近づく奴らから今度は俺が守っていくんだ。
「……ふふ」
「どうした?」
「ううん、今ずっと和希の横顔を眺めてたの」
「ふ~ん?」
……ってずっと眺めていられたのは恥ずかしいな。
どうして眺めていたのか、その理由を霞はこう話してくれた。
「和希の心を読めるわけじゃないけど、何か決心したみたいなかっこいい顔をしてたんだよ。まるで昔、隣に居た泣き虫の私を守ってくれていた時と同じ顔だった」
「そうか?」
「うん。昔と同じで、また私は和希のそういう顔に惚れ直した」
本当に霞はそんな恥ずかしいことを平然と言ってくる。というか言葉だけじゃなく態度にしたってボディタッチにしたって付き合う前から格段に増えた。いやまあ付き合う前から多かったけど更に増えたのだ。
「ほんと、そういうところだぞ霞」
「うん。こればかりは変わらない。素直に好意を示すことは大事、和希の恥ずかしさを犠牲に私は周りに見せつける」
そうして手を離し、更に密着する証として腕を抱いてきた。
豊かな胸元に腕が抱え込まれることで弾力を感じてしまいつい視線を泳がせてしまう。霞はそんな俺を見てクスっと笑い、このまま行こうかと言って歩き出した。
「……これは想像以上に来るものがあるな」
「気にしない気にしない。視線を気にするくらいなら私の胸の感触だけに意識を集中すればいい」
分かったそうする……じゃないんだよなぁ!
色んな意味で遠慮がないというか、爆速な勢いでグイグイ来る霞にやっぱり俺はタジタジになる定めなのかもしれない。
学校に近づけば近づくほど集まる視線、だがそこに救世主が現れた。
「やっほ~二人とも!」
俺と霞の背中をポンと叩いたのは倉持さんだった。
茶髪をなびかせて現れた彼女はニシシと笑って組まれた腕を見つめた。
「取り敢えずおめでとうって言った方がいい? それで付き合ってないとかならちょっと文句言うけど」
倉持さんの言葉に霞がドヤ顔で親指を立てた。
「大丈夫、バッチリ私たちは恋人になった」
「だよねぇ。おめでと霞!」
「ありがとう美琴」
目の前で繰り広げられる女子の友情につい頬が緩む。
だが、俺はこうして倉持さんに会ったからこそ言わないといけないことがあった。仲良く言葉を交わしていた美琴さんの肩にガシっと手を置いた。
「? ……竜胆君? どうしてそんな顔をしているのかな?」
「いやぁ? 色々と霞に吹き込んでくれたみたいだな?」
「……霞?」
「バッチリ使った。でも、お気に召さなかったみたい」
お気に召すわけがなかろうよ。
とはいえ別に吹き込まれて実践しようとしたわけではなく、その口にした行為がアブノーマルなことだと理解はちゃんと霞も出来ている。けれど突然あんなことを言われたこっちの身にもなってほしいよな。
「……霞は純粋だね」
「純粋だからこそ分かってるだろ?」
「まあねぇ。でも世の中にはそういうプレイもあるわけだし? 普段のイチャイチャがマンネリ化してきたら試すのもありじゃ?」
「霞、この子とは友達をやめなさい」
「和希がそう言うなら分かった。今日から私と美琴はただの他人、友達じゃないから話しかけないでね?」
「ごめんなさあああああああああい!!」
まあ当然冗談だけどさ。
けどこうして倉持さんが加わってくれたことで気が楽になった。せっかく一緒になったのだからとここからは三人で移動することになった。
「冗談でも友達を辞めるとか言わないでよ泣いちゃうから」
「ごめんごめん、ちょっと悪ノリしすぎだね」
「……その割にはなんで笑ってたの?」
「美琴を弄るのは楽しいから」
「くぅ! 普段弄ってこない霞に弄られるのがこんなに嬉しいのは間違ってる!」
本当に賑やかな人だな倉持さんは。
ちょっとうるさいかなと思いつつ、下駄箱で上履きに履き替え教室に向かった。流石に校内で腕を組むようなことはなかったが手は繋いでいた。
「おはよう」
「おっはよう!」
霞と倉持さんが挨拶をすると、一斉にみんなが言葉を返そうとして繋がれた手に目を向けてきた。ニヤニヤと笑う倉持さんの楽しそうな様子に溜息を吐きつつ、俺は霞から手を離した。
「あ……」
「……帰ったらいくらでも出来るからな?」
「うん……分かった」
至極残念そうな霞から離れ俺は席に座った。
するとバシンとそれなりに強く肩を叩かれた。当然このタイミングでそうやってくるのは与人くらいしか居ない。
「おっす和希……まさかか? まさかなのか?」
「何がまさかなのか知らんが想像の通りだよ」
「……ちっ、リア充かよ」
舌打ちをするんじゃないよ舌打ちを。
しかし、やっぱり手を繋いで登校すればそういう認識をされるよな。それを狙ったものでもあったけど、これは与人を含め友人たちに根掘り葉掘り聞かれそうだ。
「お前らに色々聞かれるくらいならいいんだけどな」
「あん? あぁそういうことか。以前に白鷺さんを連れ出そうとした先輩とか何かしらありそうだよな」
「……ただお互いに好きになって付き合っただけなんだからそっとしておいてほしいんだけどなぁ」
「それだけ白鷺さんが有名ってことだ。でもま、何かあったら相談しろよ?」
「分かってる。サンキューな」
「いいってことよ」
ほんと、頼りになる友人で助かるよ。
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