霞に教え込んだ犯人を捜せ
「そうそう! やっと霞の恋が実ったのね!!」
「……ちょっと苦しい」
目の前で霞がおばさんに抱きしめられていた。当然俺は霞と付き合うことになった事実を彼女の両親に報告した。昨日からこっちに泊っているのもあるし、何ならおじさんも朝なので一緒だったからだ。
「……やれやれ、ここまで来るのに長かったものだね和希君」
「はい……その、一時期は本当に申し訳なかったです」
新聞を読んでいたおじさんに俺は少し頭を下げた。
ほんわかとしたおばさんと違っておじさんは厳格そうに見えるが、その実は霞が大好きすぎる親バカな性格だ。いくら昔から交流があったとはいえ、小言の一つでも言われるかと思ったがそんなことはなかった。
大喜びしているおばさんに抱きしめられ、鬱陶しそうにしながらも頬が緩み切っている霞をおじさんと共に眺めていた。するとおじさんがこんなことを言った。
「和希君のことだから心配はしてないが、くれぐれも霞を裏切るようなことはしないでもらいたい。いいかな?」
「分かってますよ。肝に命じて……というか、絶対にないって断言出来ます」
「はは、確かにその通りだな。あんなにも可愛くて美人な娘が傍に居るのに目移りするようなことは絶対にないだろうしな」
その意見には概ね賛成だけど早速出たな親バカなところが……。
それからしばらくおじさんと話していると、おばさんから解放された霞が傍に近寄ってきた。背中から抱き着いてきた霞は俺の腹に腕を回し、そのまま動かなくってしまって俺は苦笑する。
「おい、これじゃあ俺も動けないんだが?」
「いいじゃん。嫌じゃないでしょ?」
うん、嫌じゃないな。
おじさんとおばさんに微笑ましく見つめられつつ、俺と霞はしばらくして離れて朝食をご馳走になった。
「それにしても早かったわね。和希君と一緒に住むことを決めたときにね、三カ月で勝負を掛けるって言ってたのよ。それがこんなにも短い期間だなんて」
「……あはは、そう聞くと俺がチョロイみたいですね」
まあ霞と一緒に住むようになってから色々と思い出して意識して、それでこうなったのだからチョロイと言われても否定できない。そんな風に思っていると、霞が小さく首を振った。
「確かに攻めて攻めて攻めまくるつもりだった。でも、蓋を開けたら攻めても攻め返されて逆に私がダメだったの。自分の中の和希大好きな気持ちが如何に強かったのか思い知った気分」
「あら♪」
……真顔で、しかも相手の家族の前でそう言われるのは流石に恥ずかしいぞ。
霞の言葉におばさんは満面の笑みを浮かべ、おじさんはコーヒーを飲みながら静かに笑みを浮かべている。この中で恥ずかしそうにしているのは俺だけか……なんだろうねこの空気。
それから朝食を食べ終え、俺の方の家に戻ることになった。
おばさんとおじさんから霞のことをよろしくと頼まれ、それに頷き俺は霞を連れて帰るのだった。
家に帰ってすぐにリビングに向かい、ソファに座って色々あったなと思い返す。正直なことを言えば昔のアルバムなどを見たことが霞に気持ちを伝える決意をさせたようなものだけど、案外そうでなくてもその時は近かったのかなとも思えた。
「何を考えてるの?」
「うん? あぁ今回のことがなかったとしても、近いうちに霞に気持ちを伝えることになったのかなって」
「そうなの?」
「それだけ霞のことが気になってたからな。与人にも聞かれたくらいだし」
「……ふ~ん?」
隣にピッタリとくっついた霞が顔を覗き込んできた。
挑発するような目線だが、その頬が赤く染まっていて照れていることが丸分かりという表情だ。
「そんなに私のことを気にしてたの?」
「あぁ」
「っ……~~~~~!!」
突然霞が体を揺らし始めた。
ポカポカと肩を叩くようにして霞はボソッと呟いた。
「そういうところなんだよ。二カ月が少なくなったのはそういうところなんだよ」
「……まあ何にしても、すれ違う前で……すれ違ってたけど、取り返しの付かない前で良かったと思うよ」
「……うん。本当にそれ。よいしょっと」
立ち上がった霞は俺の前に立ち、そのまま俺の腰に座るように正面から抱き着いてきた。初めてされたがこれはいわゆる大好きホールドという体勢で、短いスカートなのにそれを気にしないほどに足を開いている。
「……落ち着く。至高の座り方」
「行儀は悪いけどな」
「嫌じゃないでしょ?」
「……口癖になってるなそれ。嫌じゃないよ全然」
「……えへへ♪」
……可愛いなおい。
最近はずっと霞から嫌じゃないでしょと言われているが……嫌じゃないから自然と腕が伸びて霞を抱きしめてしまう。
「なんでこうやって引っ付いてると幸せなんだと思う?」
「……う~ん」
引っ付いてるとなんで幸せか……少し考えた俺だったが、霞はクスっと笑って顔を近づけてきた。もしかして、なんて思ったけどそれはキスではなくお互いの頬と頬を合わせただけだ。そして、霞はこう囁いた。
「そこに好きな人が居るからって体が認識するからだよ。そうして心が認識して幸せな気持ちが溢れてくる。私の全部が和希を認識して、和希のことを好きって気持ちがどうしようもなくらいに出てくるの」
「……ならそれは俺も一緒だな」
ポンポンと霞の背中を優しく撫でた。
……自分で言うのもなんだがかなり甘酸っぱい空気が流れている気がする。それなのにこうして密着しているからこそ、目の前にある霞の大きな胸元の感触が気になりすぎてドキドキが止まらない。
……なんで女性の胸は膨らむんだ? そうでなかったらこんなにドキドキしなくてもいいのに……いやいや! こんなに夢のある存在を否定するのはある種の冒涜だろう何を言ってるんだ。
「……はぁ」
「どうしたの?」
一人でよく分からない問答を心の中でしただけだ。
ちょっとトイレが行きたくなったので霞に退いてもらおうと声を掛けたが頑なに動いてくれない。
「霞?」
「いや」
「……トイレ行きたいんだよ」
「そのまますればいいじゃん」
「君は一体何を言っているのかね」
本当に時々頓珍漢なことを言うよね霞は。
「何なら私にかけたって――」
「霞、一体誰に教わった?」
キョトンとした霞はその名を口にした。
「美琴だけど」
「……あんの陽ギャルがぁ!!」
これはちゃんと霞に言い聞かせるしかないな。
というか倉持さんだけか霞にこんなに吹き込んだのは……絶対に他のメンツも何か霞に言ってるだろこれ。
「……私を躾けるの?」
「すぅ~……」
霞、それは誰から教わったのかな?
それから小一時間ちゃんと霞から事情聴取を俺はした。
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