早い再会に溜息を一つ
「最近かなり噂になってるっぽいな」
「何が?」
学校に着いてすぐに与人からそんなことを言われた。
何が、そう聞いたけど何となく分かる。きっと俺と霞のことだろうか。小学校も中学校も似たようなものだったけど、高校になってもそれは変わらずか。
「……ま、気にすることはねえさ」
「んだな。外野のことは無視するに限る」
与人も霞と話すことが多くなったせいかこう言ってくれるようになった。それは他の友人も同じだけど、それが俺にとってはありがたかった。昔のように揶揄われるだけではなく、ちゃんと友人として接してくれることが嬉しかった。
「白鷺さんからちょい聞いたんだよ。色々あったみたいだな?」
「……霞」
どうせおだてられでもしてゲロったんだろうなぁ。
まあ別に知られたからどうって話でもないし、相手が与人なら全然聞かれても悪くはない。
「そこまで詳しいことは聞いてないから安心してくれ。でも……本当に嬉しそうだったぞ? またお前と話が出来るようになったって」
「……そっか」
「あぁ。だから何かあったら頼れよ」
「サンクス」
「おう」
ほんと、良い友人を持つとありがたい限りだ。
俺は与人と話をしながら遠くの席で友人たちと話し込む霞を見た。相変わらず淡々とした表情だけど、どこか楽しそうに頬が緩んでいるようにも見える。そんな風に見つめていると朝比奈さんが俺に気づいた。
「……!」
「……?」
霞の手をトントンと叩いて俺の方に指を向けた。すると霞を含めて倉持さんとまだ話した子がない佐伯さんが一斉にこっちを見た。この現状を作り上げてニコニコしている朝比奈さんはともかく、見つめられた俺と与人は揃ってビクッとした。
「……なあ和希。クラスが誇る美少女たちに見つめられるのは気分が良いけど、これはちょっと怖いぜ」
その言葉には同意だった。
朝比奈さんがヒラヒラと手を振ってきたのでそれに応えると、今度は倉持さんも手を振ってきた。霞が倉持さんに顔を向けて何かを呟き、それに倉持さんが返事を返したと思ったら霞が席を立った。
「お姫様が来たぞ」
「みたいだな」
霞は真っ直ぐに俺の元に歩いて来た。
隣に誰も居ないことを確認して椅子を引き、そこに腰を下ろして俺を見つめた。
「……美琴に聞いた。あいつに会ったって」
「あ~……」
霞に心配というか、変な気持ちになってほしくなくてあのことは伝えていない。霞としても別に怒っているわけではなく、あくまで確認の意味合いだろう。
「まあな。でもすぐに別れたぞ」
「うん。美琴がボロカスに言ったことも聞いた。でも……相変わらずだったみたいでやっぱり私あいつ嫌い」
「あはは……」
「笑い事じゃない!」
ぷくっと頬を膨らませて霞は顔を寄せてきた。
俺が笑ったのはあいつに言われたことを軽く考えているわけではなく、霞がハッキリと嫌いだって口にしたことにだ。
「霞が嫌いってハッキリ言ったのを笑ったんだよ。なんか、霞もちゃんと言うようになったんだなって」
「……ねえ和希」
「うん?」
「和希ってさ……まるで私のことを孫娘みたいに思ってない?」
「お前、それは俺が年寄りだって言いたいのか?」
そういうと、霞はそうじゃないけどと言って再び頬を膨らませた。
ジッと俺を見つめて目を逸らさない彼女の様子に、傍で見守っていた与人がまずクスリと笑い、いつの間にか傍に来ていた朝比奈さんも笑っていた。
「いいじゃん孫みたいでもさ。ずっと可愛がってもらえるし」
「そ、それは……そう……でも違う。そうじゃないの」
ツンと顔を背けた霞に朝比奈さんが抱き着いた。
「仲が良すぎるのも弊害だよね。まあでも、私たちとしては霞の可愛い姿が見れて大変満足だけど」
「リア充滅びろって思ったけど見てるの楽しいもんな。退屈しないぜ」
「お、分かってるねぇ?」
「そっちもな」
何で分かり合ってんだよ君たちは。
妙に気が合っている与人と朝比奈さんから視線を外し、俺は相変わらずツンとした様子の霞に視線を戻した。すると、ちょうど彼女も俺に視線を向けていた。そして何かを決心した様子で口を開いた。
「和希、私は思った」
「お、おう?」
「これから先、二人で外に出掛けることは多くなるはず」
「まあそうだな」
買い物とかもそうだし、霞に誘われたら休日にどこか遊びに行くのもいいだろう。
「その時にあいつに……ううん、あいつだけじゃない。他の私たちを揶揄っていた人たちに出会ったら見せつけてあげよう。私たちはもう大丈夫なんだって、思いっきり見せつけてあげよ?」
……本当に強くなったな霞は。
でも、それはそうだなと俺は頷いた。また二人で居る時に彼らと出会った時、もしも過去と同じことを言われても涼しい顔で受け流してやろう。それがきっと彼らにとって一番悔しいことだと思うから。
「もしも何かされそうになっても大丈夫。私が和希を守る」
「そこは俺だと思うんだが」
「戦力的には私の方が強い」
……そうなんだよなぁ。
悔しいことに身体能力は霞の方が圧倒的に上だ。こんなことなら何かスポーツでもやっておけばよかったなと思ったけど仕方ない。
「……これで二人は……ねぇ?」
「本当にな」
「どうした?」
「どうしたの?」
俺たち二人を見て与人と朝比奈さんが溜息を吐くのだった。
さて、そんなやり取りもあったが時間は過ぎて放課後になった。霞と一緒に下駄箱に向かったところでそれは起きた。
「……あ」
「どうした?」
下駄箱を開けて霞が声を上げた。手を入れて取り出したのは手紙だった。霞は俺の顔を見てから再び手紙に視線を移し、そのまま近くのゴミ箱に捨てるのだった。
「いいのか?」
「いいの。後ろを見たけど男子の名前だったから」
それは……いいのか?
何も気にした様子のない霞と共に食材の買い出しのために街へ向かった。二人であれこれと言いながら食材を選んでいくのは不思議な感覚だが、ほとんど霞が手に取っていったので俺は特に何も言う事はない。
「こんな感じかな」
「それじゃあ帰るか」
「うん」
それなりに大きくなった買い物袋を持って店から出た。
そして、しばらく歩いていたその時だったのだ。あいつが、忘れもしない最近になって再会したあいつが再び現れたのは。
「おい、お前のせいで美琴ちゃんにフラれただろどうしてくれんだ!?」
……めんどくさいな本当に。
それはお前の自業自得だろう、そう口にしようとした俺よりも早く霞が俺の前に立った。俺なんかよりも小さな背中なのに、どこか強く大きく見えた気がした。
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