昼食は友人も一緒に
「……あぁ疲れた」
四限目の授業が終了し昼休みだ。
少し硬くなった肩を解していると、霞が友人を連れてやってきた。
「和希、食堂に行こう」
「そうだな」
いつもは母さんの弁当があったが、今日はやっぱり忙しいということで用意されていなかった。それはこっちに泊まりに来た霞も同様だった。
「本当にあたしも一緒でいいの?」
「うん。朝の注目を考えれば舞が居てくれたらありがたい」
「あたしは壁みたいなもん? ……まあいいけどね。竜胆君も良い?」
「もちろんだ。……結構助かる」
「あはは、了解♪」
俺の言葉に笑みを浮かべたこの子の名前は
愛想がとても良く、さっき俺に手を振ってくれたのもこの人だったりする。
「ほら、早く行こう」
霞に急かされるように俺は立ち上がり、二人に続くように教室を出た。
食堂に向かう道中、朝比奈さんは俺と霞を交互に見ながらうんうんと嬉しそうに頷いていた。
「二人が一緒なのは今日初めて見たけど……何というか似合ってるね凄く」
「そうか?」
「当然、私たちは幼馴染だから」
ね? そうやけに圧のある眼差しで霞に見つめられ俺は頷いた。
そんな俺を見て更に朝比奈さんは笑った。
「本当に良かったよ。これでも霞から結構相談されてたんだ。昔に仲の良かった幼馴染と疎遠になってしまったってね」
そのことを聞くと本当に霞に対しての罪悪感が凄まじい。
きっと色んな話を朝比奈さんは聞いたと思うけど、それだけ霞は昔みたいに戻りたいって考えてくれていたわけだ。
「……ほんと、俺が馬鹿だっただけだ」
小さくそう呟くと、霞はそんなことないと口にした。
「もうそう言うのはやめよう。昨日話をして私たちは元に戻った。それでこの話はお終い、私と和希は離れない……そうでしょ?」
「そうだな……って離れないってのはオーバーすぎない?」
「離れないもん……っ!」
「おぉ……これが知られざる霞の顔!」
取り敢えずとっとと食堂に行こうぜ。
二人より前に出ると遅れまいと隣に霞が並ぶ。周りからは普段見ない光景だろうけどやっぱり、こうして霞が隣に居ると昔を思い出す。
こうしていると変な揶揄いをされたこともあったな。
『お前らいっつも一緒に居て夫婦かよ!』
『竜胆はちんちくりんの白鷺が大好きなんだってよ!』
『白鷺も竜胆が大好きなんだな!!』
ほんと、クソガキばかりだったな昔は。
それは俺も含めてだけど、それにイラついて喧嘩することも珍しくなかった。懐かしいことを思い出していると食堂に着いた。
「あたしはナポリタンで。二人はどうする?」
「俺は肉うどんで」
「私はスパゲティ」
みんな麺類とは気が合うな。
三人分の空いている席を確保し、用意された昼食を持って腰を下ろした。
「普通に隣同士で座ったね」
「当然」
俺と霞が隣り合い、向かいに朝比奈さんが座った。
それから昼食を摂りながら雑談に花を咲かせる。こうして話してて思ったのは朝比奈さんはかなり面倒見の良い性格をしているってことだ。
「いつも霞の傍に居たのを見ていたけど本当に気に掛けてくれてたんだな」
「当然。霞はあたしにとって親友だからね」
その綺麗な笑顔に嘘はなかった。
俺が知らない間に霞は良い友人を持ったみたいだ。少し保護者目線で考えてしまうのは仕方ないけど……あの霞がと思うと感慨深い。
「だからね竜胆君」
「なんだ?」
真剣な表情になった朝比奈さんはこう言葉を続けた。
「もう霞から離れて行ったりしないでね? あたしはもう前みたいな霞は見たくないし、不安を抱えるように過ごしてもらいたくもないから」
「……あぁ。もちろんだ」
「うん! それで良し!」
少なくとも自分と霞を比べて離れるようなことはしない。
俺みたいな奴が霞の傍に居ることが相応しくない……その考えは間違いなく霞のためだと当時の俺は思っていた。でも実際はそうではなく、俺の勝手な考えで幼馴染の霞を悲しませただけだったのだから。
「舞の言う通り。今のは契約、絶対に反故にしちゃダメだよ」
「分かってるよ。もしそうなったら引っ叩いてくれてもいい」
「ダメだよ。そうなったらじゃなくて、ダメなの」
「……そっか。分かったよ」
「うん」
そうなったら色々と怖いからな。
何となく今朝のやり取りで母さんも霞のことは気に掛けていたみたいだし、これでまた俺が離れるようなことがあったらそれこそ雷が落ちることになるかもしれない。
「でも……本当に良かったね霞」
「うん。本当に良かった」
二人のやり取りを後目に俺はうどんを啜る。
恰幅の良いおばちゃんが作ってくれたうどんだが本当に美味い。そんな風に気を抜いて麺を啜っていた時だった。
「霞はこれから竜胆君の家に泊まることになるんだっけ?」
「ぶふっ!?」
「和希?」
どうしてそれを、そう驚いた俺だが霞のことだし親友に話しててもおかしくはないか。鼻から麺が飛び出そうになるくらい咽てしまったものの何とか水を飲んで気持ちを落ち着かせる。
「霞が言ったの?」
「うん。嬉しそうに話してくれたよ。あ、当然それはあたしたちしか知らないから安心してね? みんな霞のこと大好きだから口外したりしないから」
「つい言い触らしてしまった」
こんなに後先考えない性格だったっけ霞って。
「……ま、一番は牽制だと思うけど」
「なんて?」
「なんでもな~い♪」
いや気になるなおい……。
カラカラと笑う朝比奈さんから視線を外し、俺は再びちゅるちゅるとうどんを啜り始めた。するとそんな俺をジッと霞が見つめてきた。
「どうした?」
「明日から私がお弁当を作る。だから食べてほしい」
「……え、本当に? でもいいのか?」
「うん。自分のも作るから平気。それに……食べてほしいし」
弁当を作ってくれるのはありがたいし嬉しいことだけど、本当に良いのか? 色々と負担にさせてしまいそうな気がするが。
「気にしないで。それじゃあ作るね」
「お、おう……ありがとな霞」
「ううん、全然いいよ」
こうして霞が弁当を作ってくれることになった。
……そうだな。そこまでしてもらって俺が何もしないわけにもいかない。なにかお返しもそうだし、霞に恩返しを考えておかないと。
「高校から霞は自分で弁当作ってたんだよ? 知ってた?」
「え? そうなのか?」
「うん。お母さん曰く花嫁修業の一環」
「……なるほど、それなら昨日の夕飯の美味しさも納得だな」
「そんなに美味しかった?」
「めっちゃ美味かった。って昨日も言った気がするけど」
「そうだね……でも、何度言われても嬉しい」
「……このやり取り、見てるだけでコーヒー欲しくなるんだけど」
昨日から霞の変化を多く目の当たりにしている気がする。
変わってないのは俺だけで霞だけがたくさん変わってるような……って、これはもう考えないようにしたんだっけな。
「ありがとう霞」
「……うん。もっと撫でることを許可する」
ちなみに、俺たちのやり取りに朝比奈さんが胸を抑えていた。
どこか悪い? 保健室連れて行こうか?
【あとがき】
喋り方に抑揚がないといいますか、基本無表情がデフォなので霞の話し方はこんな感じです。こういうの好きなんで……完全に趣味です笑
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