幼馴染の居る日常
突然の報告
「……和希、起きて」
「……うあ?」
誰かに声を掛けられて俺は目を覚ました。
そして、目の前に広がる霞の顔に悲鳴を上げそうになった。
「な、何してんだよ……」
「? 昨日一緒に寝たでしょ?」
「それはそうだけどこの体勢はなんだってこと!」
霞は仰向けで寝ている俺に覆い被さるような姿勢だった。
何か体が重いなとは思ったがどうやらそれは霞が原因だったらしい。相変わらず真顔で俺の顔を覗き込むように霞は体をくっ付け、何故だか定期的に体を擦りつけるようにしてくるので股間に悪い……悪すぎる。
「今何時?」
「まだ六時だよ」
「……ちょい早いな」
いつもは七時前に起きるからかなり早い。
というか一時間も目覚めが早いのに全く眠くないのは何故だろう。これ以上ないほどに気持ちの良い目覚めに俺は首を傾げていた。
「和希、ずっと私を抱きしめて眠ってたんだよ?」
「……マジで?」
「うん。私を抱き枕みたいにしてた」
「……ふ~ん」
それは……凄く恥ずかしいのだが。
顔を赤くした俺を微笑ましそうに見つめてくる霞の表情に更に恥ずかしさが募っていった。そんな中、霞がこんなことを口にした。
「ねえ、試しに起きている今抱きしめてみてよ」
「は?」
「ほら早く、女を待たせるのは減点」
「……えぇ」
抱きしめないと梃子でも動かない、そう言わんばかりの表情に俺は諦めた。腕を霞の背中に回すようにして抱きしめると、なんとも言えない心地よい温かさというか安心感が俺を包み込んだ。
「どう?」
「どうって……なんか落ち着くな」
落ち着く……うん、それは間違いなかった。
こうして霞を抱きしめていると昔を思い出す。そう言えば小さい頃、霞をこんな風に抱きしめて眠ったことも少なくなかったっけ。
「憶えてる? 昔は私を良くこうやって抱きしめて寝てたの」
「……あ~思い出したわ」
一緒の布団に入るだけじゃ安心出来ない。だから抱きしめてくれないと眠れないって霞がよく言ってたんだよな。その時の俺も少し面倒だとは思ったけど、霞にそうやって頼られるのは嫌ではなかった。
「霞はこうされるの好きだったもんな。一緒に寝る時も抱きしめなかったら泣いたりしてたし」
「泣いたことまで思い出さなくていい。小学生の頃じゃん」
「それでもバッチリ憶えてるもんだなぁ」
「……むむむぅ!」
不満そうにした霞だが、決して離れてはくれない。
いつ満足してくれるんだろうか、そんなことを思っているとバタンと何気なく部屋のドアが開いた。
「二人とも、もう起きて……あら♪ 失礼したわね」
「あ」
「……………」
ドアをすぐ開けて締めていったのは母さんだ。
今俺と霞はお互いに抱きしめるような体勢になっている。下になる俺の上に霞が覆い被さるような形だから……傍から見ると完全に入ってるよね状態のやつだ。
「……見られちゃったね」
「誤解を解きに行くぞ霞」
「誤解? 誤解なんて何もなくない?」
「……なんでそんなに気楽なのよ君は」
「だって、和希となら誤解されても嫌じゃないし」
そういうことは幼馴染であっても軽々しく言わない方がいいぞマジで。
俺の反応に再び面白くなさそうにした霞だが、そこでようやく俺から離れてくれるのだった。
「……まあいいか。時間はたっぷりあるし」
「霞、行くぞ」
「あ、待ってよ」
朝の任務開始、母に今の状況を説明し誤解を解く。
ちなみにこの後俺と霞は母さんに説明したが、特に何もなかったことは分かっているらしく逆にこっちが疲れる羽目になった。
それから再び部屋に戻り、俺が傍に居るというのに霞はパジャマを脱いで着替え始めたりとハプニングはあったもののそれくらいだった。
母さんが用意してくれた朝食を食べていると、やはり母さんとしてもこっちに霞が来たのは久しぶりだったからかずっと話し続けている。
「霞ちゃん本当に綺麗になったわね。さぞモテるんじゃない?」
「自分では分かりませんが、よく告白はされますね」
「気になる人とかは居なかったの?」
「居ません……というか
「うふふ~♪」
ちなみに都というのは母さんの名前だ。
昨日遅くなるって言ってた母さんが居るのはいいとして、父さんはもう仕事に行ったのだろうか。
「あぁそうそう、和希」
「なに?」
「お父さんが仕事で遠くに赴任することになったのよ。三カ月くらいだけど私も付いていくから家を空けることになるわ」
「ふ~ん……え!?」
おい、そういう大事なことをそんな簡単に言うんじゃないよ母さん!
突然のことで驚きはしたが仕事なので仕方ないか。ということは三カ月……夏の終わりくらいまで一人になるってことか。
「お母さんたちが居なくて寂しい?」
「そりゃ寂しいでしょ」
「……我が息子ながらこういう素直なところはズルいわね」
いや誰でも普通に寂しいとは思うけどな。
「でも大丈夫よ。霞ちゃんがこっちに来てくれるらしいから」
「はい!?」
「うん。和希のお世話は私がする」
ギュッと握り拳を作った霞と母さんに俺は交互に視線を向けた。
……もしかして、霞はこの話知ってたんじゃないだろうな? 俺が母さんにこの話を聞いたのは今だし、それは霞だって同じだった。だからそれ以外で聞くことがあるとしたら昨日かそれ以前しかない。
「でも……いいのか? 俺としては確かに助かるけど霞の時間が――」
「いいの。私がしたいと思ったから……幼馴染、でしょ?」
「……霞」
あ、ちょっと泣きそうかも。
というわけで急遽、母さんたちが家を空けることと同時に霞がしばらくこちらに住むことが決定した。どうやら霞の両親も知っているらしく、喜んでその提案に頷いたとか。
「……これでいいの。三カ月……やれる……絶対に落とす」
ブツブツと何かを呟いたが聞こえなかった。
父さんは既に向かっており、母さんも今日の日中で準備をして向かうとのことだ。
霞と一緒に家を出てまずは彼女の家に向かった。
学校に持っていく鞄などはこっちに置かれているからだ。着替え等はしばらく使うことになるので残しているけど……なるほど、あの大きな鞄はこれを見越してのことだったのだろうか。
「お待たせ、行こうか」
「おう」
そのまま二人並んで通学路を歩く。
思えばこうして一緒に学校に行くのも二年振りくらいか。本当に懐かしい気持ちにさせられるものだ。
「なあ霞、学校まで一緒なのか?」
「当然でしょ。離れても引っ付くから」
「それは……ちょっと怖いな」
グッと顔を近づけて言われたものだから怖かった。
けど、そうなると学校で与人あたりに色々聞かれることになりそうだ。俺と霞が幼馴染ってことを知っている奴は居ないだろうから。
「和希、手を繋ごう」
「おうよ」
霞にそう言われ自然と手を差し出した。
俺自身、自分でもびっくりするぐらい自然に手が出たと思う。俺の手を握った霞は嬉しそうに笑い前を向いた。
「……あ」
「どうしたの?」
霞の笑顔、なんだかんだ久しぶりに見たかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます