0-③
最奥の洞窟には、人が一人ようやく通れるような入口しかなく、いかなる武器も魔法も通用しない、分厚い扉に、さらに村長しか開けることの出来ない強固な鍵がかかっている。
その入口の扉の前に、いつものように一人の行商人が座っていた。
「ユダさん!」俺は彼に走り寄った。
「やあ、アッシュ君。こんにちは。今日もまたイライラしているみたいだね。」
そういって、彼は柔和な笑みを浮かべた。
もう彼がきてから10年にもなるだろうか?
世界から取り残されているようなこの村で、最新の情報をいつも仕入れてくれるユダさんは、同年代のいない俺にとっては、唯一同じ感覚をもち、愚痴を言うことができる存在で、実の兄のように慕っていた。
今日も俺はいつものように愚痴を言った。
「ユダさん。聞いてくださいよ。俺、明日成人の儀なんですよ。こんな平和な世の中で、わざわざ魔物が蔓延る洞窟に入るなんて、時代遅れも甚だしくないですか!?信じられませんよ…」
「ハハハ。本当ですよね。今の世の中、成人の儀なんてものがある村は、ここ以外聞いたことがありませんよ。」
「ですよね!?全くこの村の人は…」
………
……
…
そうやって愚痴を聞いてもらっていると、いつの間にかあたりが暗くなっていることに気づいた。
「ああ、すいません。もうだいぶ暗くなってしまいましたね。そろそろ帰らないと…」
「あ、そうですね。それでは、明日、成人の儀のアッシュ君に、私からこちらをプレゼントいたしましょう。」
そうして手渡されたのは、真っ黒な一本の短剣だった。
「え?こんなものいただいていいんですか?」
「はい。魔物がいる洞窟に入るということですし、こういった武器がいいかなと。」
「カッコいい短剣ですね!大切にします!」
「ええ、きっと明日の成人の儀で、この短剣『エアレーシェン』は、きっと君の助けになると思いますよ。」
そうして、ユダさんから武器をもらった俺は意気揚々と家路につくのであった。
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