0-②

「アッシュ!明日はお前の15歳の誕生日だぞ。成人の儀の準備は出来ているのか?」

 深い森の中にある、名も無き村の村長である俺の父はそう声をかけてきた。


 俺はその声にうんざりとしながら、

「もちろん準備は進めているさ。だけど、成人の儀なんて時代遅れのこと、いつまでやるんだ?帝都はおろか近くにあるド田舎のあの村でさえ、誰も古の言い伝えなんざ信じてるやつなんていないよ。」

 そう答えた。


「バカモノ!!次期村長となるお前がそんなことでどうする!自分が三神の加護を得る自覚があるのか!!」

「あー、はいはい。またいつものお説教かよ。もう耳にたこができるほど聞いたぜ。」

「待て!アッシュ!まだ話は終わっておらんぞ!待て!」

 後ろで父が大声で叱る声を聞き流しながら、俺は成人の儀について考えていた。


『成人の儀』

 こんな古の悪しき風習が残っているのは、この村の住人みんなが、時代遅れが服を着て歩いているような村だからだろう。

 自分と同世代どころか、親よりも上の年齢の人間しかいないこの村では、しきたりや風習といったものが何よりも大切にされてきていた。


 だからだろうか?もう誰が信じているかもわからないような、古くからこの世界に伝わる言い伝えを律儀に守って、15歳になったこの村の子供は、原初に存在したという三神の加護を得るためのある儀式を行う。


 その儀式とは、村の最奥の洞窟に一人で入り、一番奥に置かれている一枚のコインを持ち帰ってくるというものだ。


 だが、この儀式には一つだけ問題があった。それはこの洞窟には魔物が出現するということ。

 この平和な世の中で魔物に会う機会など、この洞窟に入る時以外、生涯一度もないだろうというのに、なぜこんな危険を冒してまで成人の儀など行わなければならないのか?本当に、この村の住人の時代遅れは理解に苦しむ…


 そんなことを思いながら、気の向くままに歩いていると、いつしか俺は明日の儀式の場である、最奥の洞窟の入口までやってきていた。

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