盗賊退治について

 

 助けに入ったのは自分だけだと思っていたリュミエール。

 自分の左右隣を見てみれば、先程の魔法使いに加え、白馬に颯爽と跨った女戦士の姿があった。どうやら彼女も商人の声を聞きつけやって来たようだ。


 思わず勢いで飛び出してきてしまったが、もしかすると余計なお世話だっただろうか。

 商人も助っ人の多さに驚いたのか、ポカンと口が開いたままである。

 リュミエールは次第に頬を紅く染めていった。


「あ、もしかして僕、お邪魔でしたか?」

「いいえ、戦力は多いに越した事はないわ。ここは何かの縁よね、二人も一緒に行きましょう!」

 目を泳がせるリュミエールに対して、女戦士は馬上で胸を張った。

 意志の強い眼差しは気高さも感じさせる。恐らくリュミエールと同じ年頃だろう。後ろで高く結い上げた亜麻色の髪が、軽やかに揺れている。


「何を言っている⁉︎ 俺は貴様達と馴れ合うつもりはない!」

 魔法使いの男性は腕を組み、忌々しげに舌を鳴らす。

 軽く癖のある銀髪と妙に鋭い目つきが印象的だ。ゆったりとしたローブを着込んでいるが、そこから覗く腕は剣士のように鍛えられている。


 素性は不明だが、二人は只者ではない雰囲気を纏っていた。それに理由はともかく、人助けをしようとしているのは間違いない。


 リュミエールは思案の後、彼女に同意した。

「分かった、ここは協力しよう」


「と、とにかく三名ともよろしくお願いします! 盗賊どもはこの先です」

 リュミエールは女戦士と顔を見合わせて頷き、二人は素早く馬を走らせた。

「おい、貴様達! 話はまだ……」

 魔法使いが何か言いかけていたが、とにかく盗賊を捕らえるのが先だ。リュミエール達は馬に鞭を振るい、先を急がせる。



「——いた、あいつらね」

 そう離れていない距離に柄の悪い男たちが見えた。全部で十数人、全員武装している。恐らくアレが盗賊たちだろう。

 彼らは下品な笑みを浮かべながら、意気揚々と馬車から荷物を運び出している。


「あなたたち、その荷物を返しなさい!」

 女戦士が凛とした声を響かせ、リュミエールと彼女は馬から飛び降り盗賊と対峙する。

 盗賊たちは一瞬で殺気を纏い、武器を構えた。

 しかしリュミエール、特に女戦士に視線を止めると、途端に態度を軟化させてしまった。


「てめえら、あのオヤジに雇われたのか? だが、女子どもが相手とは、俺たちも舐められたもんだ。奪い返せるもんなら、奪い返してみろよ」

 挙句の果てに、完全に馬鹿にしたような笑い声を漏らす。


 リュミエールはその空気に呑まれ、グッと言葉を詰まらせた。

 しかし、隣の女戦士は一歩も怯まない。それどころか大きく一歩前に出て、ピシャリと盗賊たちに言い放った。


「黙りなさい! その荷物、私に払う報酬が含まれているかもしれないでしょ⁉︎ いいえ、そうでなくてもそれを取り返さないとお礼がもらえないのよ! さらに言うと、お礼がもらえないと私の野望が達成されないのよ! だから早急にその荷物を返しなさい‼︎」

「…………え?」

 思わず疑問の声を出したのは、盗賊たちとリュミエールの方だった。



「え、君、もしかしてお礼目当て?」

「私はお礼はいくらでも差し上げますって言葉を聞いて、駆けつけてきたの。どうしてもやりたい事があるのよ」

 女戦士は悪びれもせず言い切った。いっそ清々しいくらいだ。


「えっと、純粋な人助けとかではない?」

 顔を曇らせるリュミエール。対する彼女は少し嘆息をもらす。

「あのね、口先だけの人より、理由が何でも人助けできる人の方がずっと立派だとは思わない? それに大丈夫! 私はただの金目当てとは違うから! 理由は盗賊退治の後分かるわ」

 そしてリュミエールの両手をそっと包む様に握った。

「私を、信じてね」

 そう言う彼女の眼差しは、真剣そのもの。


「——そうだよね、君を信じる事にしよう。人の為に行動できるって素晴らしい! 僕も、もうこんなヤツらに怯まないよ」

 基本的にお人好しである彼は、あっさり頷き盗賊達へ向き直る。

 逆に勇気づけられたくらいだ。


「助けを求める人のため、お前達には絶対に負けない!」

「ええ、共に戦いましょう! 私の理想のために!」

「なんかコイツら、ヤべえぞ⁉︎」

「なんでテンション上がってんだ⁉︎」


 始めの態度とは裏腹に、盗賊たちは顔を引き攣らせて後退り。睨み合ったままジリジリと距離を取る。リュミエール達も武器を取り、少しずつ距離を詰める。睨み合いが続く。


 その時、リュミエール達の背後から凄まじい怒鳴り声が迫ってきた。


「貴様達、馬がない俺を放っておいて先に行くとは何事だあああ⁉︎」

 そう、魔法使いが追いついてきたのである。彼は盗賊に、というよりもリュミエールたちに怒っているようで。

「あ、彼だけ徒歩だったね」

「悪いことしたわね、歩きだと結構遠かったかも」

「貴様ら、悪びれもせずこの俺をコケにするとは……!」

 魔法使いは憤怒で顔を真っ赤にしている。彼は息を整えると、波打った銀髪をさらにうねらせて即座に呪文を唱え始めた。

 足元に魔法陣が引かれ、彼は魔法をリュミエール達に向かって解き放った。

「滅びよ、愚民どもおおお!」


 咄嗟に避けたリュミエール達の代わりに、盗賊たちがその魔法一発で宙を舞った。

 正義と野望に燃える二人にとって魔法を避けることなど造作もない。

「良いね! 魔法使いさん」

「すごいわね! 盗賊たちも一撃よ」

「息ピッタリか、貴様ら……」

 思わずグッと拳を握り締めたリュミエールたちの目の前で、魔法使いの青年はがっくりと項垂れたのだった。

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