第29話 夢の終わり

「何寝てんの、このオタンコナス!」

「ぎぇッ?!」


 衝撃に目が覚めた。


 瞬きをして、視界に映る天井の蛍光灯を見つめる。

 背中が痛い。どうも寝落ちして、姉ちゃんにソファから叩き落されたらしい。


 代わりにイベントを走ってやった弟にこの仕打ち。まぁ金貰っておいて寝た俺も俺だけど。

 潰れたカエルのような声を出した俺を一瞥もせずに、姉ちゃんが俺から奪ったスマホを操作する。


「ええと、ランキングは……え?」


 いつぶん殴られるかと身構えてたものの、姉ちゃんはスマホを持ったままで固まっていた。


「か、カンストしてる……?」

「え?」

「ほら」


 姉ちゃんが画面をこちらに向ける。


 目を擦って確認すると、イベント総獲得ポイントのところに、ぱっと見では桁が分からないくらい大量の「9」が並んでいた。

 ランキングの順位のところも文字化けしてしまっていて、何位なのか分からない。


「何したのよ、外部ツールとか使った?!」

「いや、……フツーにやってただけ、だと思う」


 そう答えたけど、寝落ちしていた間の記憶はないのでイマイチ自信はない。

 というより、ものすごく長い夢を見ていた……ような気がする。

 姉ちゃんが帰ってくるまでだから、5~6時間は寝ていたはずだけど……それ以上に、はちゃめちゃに長い夢だ。


 夢か。やっぱ……夢か。目が覚めて、ちょっと悲しくなってしまう。

 分かってたけどね、夢オチだって。分かってましたけど。

 いいじゃん、夢なんだから、夢見たってさ。


「じゃ、バグかしら……えー、これランキング報酬ちゃんと貰えるんでしょうねぇ……」

「さぁ」


 ぶちぶち言っている姉ちゃんを横目に、俺はソファに座り直した。

 姉ちゃんに付き合っている余裕はない。俺は今傷心中なんですよ。彼女がいないという現実に。


 姉ちゃんはしばらくイベントの最終結果のページを睨んでいたが、ソファを背もたれにして床に座ると、イベントの最終話のストーリーを読み始めた。


 姉ちゃん、ちゃんと手洗った? ていうかそうやって座り込むから、スーツに変な皺がつくって怒られるんじゃん。

 ところで、俺はちゃんと報酬を貰えるんでしょうね?


「このスチルのルーカス様、なんかいつもと顔違う気がする……絵師違うのかなぁ」


 姉ちゃんの言葉が気になって、こっそり背後からスマホを覗き込む。


 そこには、アカリちゃんと並んで座って、指切りをしているルーカスが描かれたスチルが表示されていた。

 場所はもちろん廃屋などではなく、女性向けらしくロマンチックな、自然あふれる庭園っぽい場所だけど……何となく、ポーズには見覚えがある、ような。


 アカリちゃんの顔は見切れてしまってほとんど分からないけど、楽しそうに笑っている。

 楽しそうなのはいいことだよね。俺も嬉しいよ、うん。


 ルーカスに視線を移す。それは確かに姉ちゃんの言う通り、あまりルーカスらしくない表情だった。

 だけど俺はその表情に、妙に見覚えがある。


 高潔でレーリで、人を寄せ付けないルーカスとは思えない……何とも気の抜けた、その辺にいる男子大学生のような顔で笑うルーカスが、そこにいた。

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