第28話 そんなルーカス、想像つかない(アカリ視点)
「あ。そうだ、アカリちゃん」
「なぁに、ルーカス」
「万が一俺が頭とか打って、高慢でいけ好かなくてレーリな感じになったら、ソッコー別れてね」
「何それ」
私が笑うと、ルーカスは普段よりも真面目な顔をして、言った。
「いやこれはマジなやつだから。ほら、指切りして」
「そんなルーカス、想像つかないけどなぁ」
「いいから」
ルーカスに急かされて、小指を差し出した。
そこに小指を絡めて、ルーカスが「指切りげんまん」とか、よく分からない呪文を唱え始める。
「ゲンマン」って何だろう。不思議な呪文。
指切りしていると、咳ばらいをしながらジャンが割り込んできた。
「ほら、いちゃついてないで早く戻るっす。一応ヘンリー殿下に連絡は入れたっすけど、皆心配してたんすよ」
「あ、ごめん」
ジャンの言葉に、ルーカスがぱっと手を放した。
もうちょっと余韻に浸っていたい気もしたけど……しょうがないよね。
そういえばジャンも他の皆も置いてきてしまったけど、どうしてるんだろう。
「はーまったくもう、心配して損したっす。バカップルには付き合ってらんないっすよ」
「そんなこと言って」
呆れた顔で肩を竦めるジャンに、堪えきれない笑いをこぼしながら近寄る。
私の笑顔の意味に気づいたようで、ジャンが気まずそうに視線を逸らした。
「『彼女』ってことは、ソフィアとうまくいったんでしょ?」
「う。……そりゃ、まぁ」
「え」
照れくさそうに言うジャンに、ルーカスが手に持っていたペンダントを落っことした。
カシャンという音がしたけど、ルーカスは落としたペンダントに目もくれず、拾おうともしない。
「まって」
呆然とした表情でわなわな震えながら、ジャンの方を見ている。
何だろう。目に光がない気がする。
「その話俺知らない」
ぶわっとルーカスの瞳に涙が浮かび上がった。
私もジャンもびっくりしてしまう。
「え、ちょ、何で泣くんすか!?」
「ひどいよジャン!!!! どうして! 俺に! 相談して! くれないんだよ!」
「友達だからって何でも話さなきゃいけないわけじゃないんすよね?」
「それは! そうだけど! 話してほしいタイプの話ってあるじゃん!!」
ルーカスが大泣きしながらジャンにしがみついてた。
男の子同士ならではのノリなのかもしれないけど、仲が良さそうでいいなぁ、と思ってしまう。
いいもん。私もさっき、ハグしてもらったもん。
「……ええと」
声がして視線を上げると、廃屋の入り口にヘンリー様の姿が見えた。
ヘンリー様はジャンとジャンにしがみついていて泣いているルーカスを見て……気まずそうに頬を掻いて、目を逸らす。
「取り込み中みたいだね。出直すよ」
「取り込んでないっす!」
「取り込んでるから後にして!」
「ルーカス!!」
ジャンがルーカスを叱りつける。でもルーカスはジャンにしがみついたまま離れなかった。
ワイワイと騒いでいるのがおかしくて、つい噴き出してしまう。
「ジャンさん……? これは、どういう……」
廃屋の入り口でじゃりっと砂を踏む音がした。
ソフィアがこめかみのあたりを押さえて、ふらりと扉にもたれかかっている。
信じられないようなものを見たという表情で、なんだかとても……ショックを受けているみたい。
「そ、ソフィア様、これは違、」
「行こうぜソフィア、そっとしておいたほうがいい」
「そうですね。きっと彼には彼なりの事情が」
必死で説明しようとするジャン。でもソフィアはユーゴとスタークに支えられて廃屋から出て行ってしまう。
「あああああもう!」
ジャンがルーカスを引き剥がそうともがきながら、私に呼びかけた。
「アカリ! ルーカスを何とかするっす!」
「アカリちゃん止めないで! これは男と男のアレ的なやつだから!」
「アレ的なやつってなんすか!」
「……ふふ」
私はジャンに協力するために、2人に駆け寄る。
ふと思った。
ほんとだ。
ルーカスといると、私……笑ってる。
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