第24話 オレそんな勇気ないんすよ!(ジャン視点)
アカリの飛んで行った方角を眺める。あっという間に姿が見えなくなっていた。
ああもう、多少は我儘言ってもいいって思ってたけど、こんなに無鉄砲になるなんて。
ていうか最近ルーカスに似てきた気がするっす。悪影響っす、悪影響。
早くアカリを追いかけなくては。何が起こるか想像できなかった。
「ヘンリー殿下、馬借りるっす!」
「いいよ、あげる」
「くれなくていいっす」
鐙に足をかけようとしたところで、くいと袖が引かれた。
視線を向けると、ソフィアがオレの袖を握っている。
彼女は上目遣いでオレを見上げて、しばらく言いにくそうに口ごもった後、意を決したように言う。
「あ、アカリさんに任せておけばいいのではないかしら」
「え?」
「だから! ジャンさんが行く必要はないのではないかしら、と言っていますの!」
ぎゅっと袖を握りしめて言うソフィア。
どういうことだろう。確かにアカリが行った以上、オレに出来ることは大してないかもしれないけど。
ルーカス曰く「最終兵器マッチポンプ彼女」とか何とか。
何なんすかね、それ。
「だって、危険な目に遭うかもしれませんのよ」
「そりゃアカリに比べたらオレは弱いっすけど」
情けない話、万が一アカリと戦ったら瞬殺される自信がある。そんな状態では足手まといになるだけかもしれない。
だが、ここで行かないという選択肢はなかった。
オレだって心配なんすよ。ルーカスのことも、アカリのことも。
「ソフィア様だって、ルーカスのこと心配でしょ?」
「それは、心配ですけれど」
もじもじとしていた彼女が、ぱっと顔を上げた。
至近距離で見つめられて、じわりと頬が熱くなる。
「わたくしは、ジャンさんが心配だと申し上げていますの!」
「……え」
ソフィアの言葉に目を丸くする。
彼女の頬も赤くなっていた。一生懸命な表情で――こぼれそうなほど大きな瞳が、オレを映している。
いや、あの。今そんな顔をされると、ちょっと。
期待しそうになるというか。
勘違いしそうになると言うか。
「なるほど、なるほど」
オレとソフィアの様子を眺めていたヘンリー殿下が、頷きながら会話に入って来た。
「ルーカスがアカリ嬢の方へ行ったと思ったら……そうか。ソフィア。君はそういう選択をするんだね」
ソフィアの頬がまた一層赤くなる。
ちょっと、ソフィア様。ちゃんと否定しないと、オレだけじゃなくてヘンリー殿下にも勘違いされちゃうっすよ。
「イイね、すごくイイ」
何故か妙に満足げなヘンリー殿下。
2人の顔を交互に見るが、ソフィアは俯くばかりで何も言わなかった。
え。あれ。これって……本当に?
「僕は応援するよ。ルーカスたちのことも、君たちのことも」
勝手なことを言うヘンリー殿下。
恥ずかしそうに頬を染めて俯いているソフィアを見て、がしがしと頭を掻く。
本当に、勝手なことを言ってくれる。
こっちは、欲しくもない公爵家の継承権まで取り戻して、いろいろと準備を進めてるところだったのに。
オレのプランが全部台無しっす。
「ああもう、ソフィア様、ちょっとこっち」
「え?」
ソフィアの手を掴んで、歩き出す。
彼女は驚いたような表情だったが、素直についてきた。
「あ、あの?」
「人前で告白とか、オレそんな勇気ないんすよ!」
「え!?」
ヘンリー殿下たちから見えない場所までソフィアを引っ張っていく。
手にじっとり汗をかいている気がする。握ったソフィアの手は、緊張しているのか指先まで冷たくなっていた。
小さな手と細い指に、一段と心臓の音がうるさくなる。
オレの背中に投げかけるように、ヘンリー殿下の言葉が聞こえた。
「新しい時代の幕開けを感じるなぁ」
本当に、勝手なことを言ってくれるっすね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます