第12話 セクシーなの? キュートなの?
「ってわけで、俺も寮に住むことになったから! よろしくね! アカリちゃん! ジャン!」
「何一つどういうわけか分からないことの枕詞に『ってわけで』を付けるのやめて欲しいっす!」
アカリちゃんとジャンに先日決まったことを話してみれば、ジャンに怒られた。
クラスメイトの皆にも聞こえたらしく、何だかざわざわしている。
寮から通っているのは何もアカリちゃんたちだけではない。
地方にしか邸宅がない貴族の子どもたちも寮から通っているはずで、俺が寮に入ったって別におかしなことではないはずだ。
「いやー、親とちょっと喧嘩になっちゃって。うちの親ちょっと過干渉気味でさ。もう高校生よ、俺。子どもの交友関係に口出すとかどうなのって話で」
「交友関係って、もしかして、私たちと」
「そのくせ、『次期当主としての自覚』とか言い出しちゃって。何なの? 俺のこと子ども扱いしたいの? 大人扱いしたいの? セクシーなの? キュートなの? って感じじゃん?」
「ルーカス、あの」
「だからそこで俺は言ってやったわけよ!」
ばんと机を叩いて立ち上がる。2人の注目を集めたところで、俺はドヤ顔でこう言った。
「『俺に家を継がせようとするのがそもそもの間違いだ』ってね!」
「は?」
「え?」
「もう俺は熱弁したね。いかに俺が侯爵家の当主に向いていないかを。二人もそう思うっしょ?」
「それは、まぁ……」
「わ、私はそんなことないって思うけど……」
やさしすぎるアカリちゃんは気を遣ってくれたけど、ジャンがすーっと視線を逸らしたのが何よりの証拠だ。
そう。誰から見ても向いていないのだ。
デフォルトルーカス氏はさておき、俺には、まったく。
「俺の熱意が通じたんだと思う。最終的には分かってくれたみたいで。俺は独り立ちの練習がてら、寮から学校に通うことになったってわけ」
「独り立ちって、具体的に何するんすか?」
「運送屋」
「う、運送屋……?」
ジャンが「何を言っているんだコイツ」という顔をしていた。
まぁそこに至る経緯は話すと長くなるし、俺が勝手に2人の新居の屋根裏に陣取ろうとしているのがバレたら引かれるかもしれないので、俺も深くは話さないことにした。
友達だからって何でも話さないといけないってことはないからね、うん。
「まぁ先のことはいいじゃん。それより、寮ってどんな感じ? 俺実家から出たことないからちょっと憧れてたんだよ~! 2段ベッドとかあるの?」
「2段ベッド? いや、フツーのベッドっすけど」
「ジャンと相部屋がいいんだけど。そういうの希望制? もう誰かと一緒の部屋だったりする?」
「みんな一人部屋っすよ」
「えー! 何だよー、枕投げとか恋バナとか出来ると思ったのに」
露骨に残念がる俺を見て、ジャンがやれやれと苦笑いする。
「寮でそんなことしないっす」
「洗濯とかどうなってんの? ご飯は? 週末に引っ越すから案内とか頼んでいい?」
「まぁ、案内くらいならいいっすけど……」
「やったー! 頼りにしてるぜ、ジャン~!」
「……いいなぁ」
「え?」
しばらく俺とジャンのやり取りを眺めていたアカリちゃんが、ぽつりと零した。
「ふたりばっかり楽しそうで、羨ましい」
アカリちゃんがぷくーっと頬を膨らませていた。
え? 何それカワイイ。もしかして怒ってる?
怒り方にまで男の幻想が詰まっていて、大丈夫かなという気持ちになった。
現実的な女の子の怒り方って、「はぁ――――」とかいうクソデカいため息とともに立ち上がって、謝ろうとすると「もういい」とか言ってくる感じのはずだ。
その後こっちがちょっとでもカチンと来たぞって態度を取ろうもんなら「何? あたしが悪いの?」とかギチギチに詰められるのだ。
ウッ……何故だろう、頭痛がしてきた。
これ以上思い出すと健康を害する気がする。やめよう、考えるの。
「私も男子寮に引っ越そうかな」
「それはコンプライアンス的にダメでしょ」
「こんぷら……?」
まぁそういう設定の少女漫画とかあるから、
花ざかりのイケメンがパラダイスしちゃうかもしれないけど。
アカリちゃんの身を守るためには、ダメだと言っておいた方が良いはずだ。
「食事は男女共用の食堂っすから。その時には会えるっすよ」
「そっか。そしたら3食一緒じゃん。とうとう俺たちも同じ釜の飯を食った仲ってわけだ。まぁ、同じカゴのサンドイッチはもう食べてるけど」
「同じ釜? カゴ? 何、それ」
拗ねた様子だったアカリちゃんがくすくす笑う。
主食が米じゃない地域では何て言うんだろう、このことわざ。同じ鍋で煮たスープ、とかになるのかな。
まぁ、とにかくよかった。アカリちゃんが笑ってくれて。
2人と一緒にいられる時間が増えるなら、俺の作戦に使える時間も増えるということだ。
両親や弟の目を気にする必要もない。あとあのパンをお弁当に持たせてもらえる。
それと単純に、寮とか入ったことがないのでどんな感じなのかとわくわくしていた。
「楽しみだなぁ、寮生活!」
「オレは不安っす……」
アカリちゃんと「ねー」と顔を見合わせる俺に、ジャンがまたため息をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます