閑話 アカリ視点(1)

「ルーカス、遅いね」

「今日は食堂で、弁当のボリュームアップを直訴するー、とか言ってたっすよ」

「そうなんだ」


 そこで、会話は途切れてしまった。

 ジャンと2人で、黙ってパンを口に運ぶ。元から硬くてパサついたパンだけれど、より一層味気なく感じた。


 私とジャンは、魔法学園に転入してから――というより、ジャンが実は高貴な人の隠し子だったと知ってから――何となく、ぎくしゃくしてしまっていた。


 ルーカスがいるときは普通に話せるのに、2人きりになると途端に、何を話していいか分からなくなる。

 私もジャンも、口には出さないけれど……無理に、そのことに触れないようにしているからかもしれない。


 本当は、聞きたかった。

 どうして黙っていたの?

 どうして教えてくれなかったの?


 だけどそれを聞いてしまったら、今よりもっと2人の関係が悪くなってしまう気がして……それが怖くて、どうしても、言い出せなかった。


 ああ、嫌だな。気まずいな。

 早く、ルーカスが来てくれたらいいのに。


 ふっと、ルーカスの顔が浮かんだ。

 貴族で、黙っていたらすごくクールそうな印象なのに……それを飛び越えてしまうくらい、そんなことを忘れてしまうくらい、人懐っこくて、どこかちぐはぐな人。

 ころころと表情を変えて、分かりやすいはずなのに、何故かつかみどころのない人。


 そういえば、ルーカスも「二人の仲がいいと、俺が嬉しい」って言っていたっけ。

 彼の前では普通に話していたつもりだったけれど……もしかしたらルーカスにも、私たちがぎくしゃくしていることが伝わっていたのかもしれない。


 続けて思い起こされた彼の言葉が、やさしく私の背中を押した。

 ――分からないことは聞けばいいし、嫌なことは嫌って言えばいいんだよ。


 ……いいのかな。そんなこと、しても。

 隣に座るジャンに、視線を向ける。ジャンもこちらを見ていたようで、目が合った。


 けれど、すぐに視線を逸らされてしまう。

 それを、すごく寂しいと思った。

 その瞬間、理解した。


 そうか、私。

 今のままじゃ、嫌だ。


 ジャンとこのまま、気まずいままなんて、嫌だ。

 だって、たったひとりの、幼なじみだもの。


「ジャン、あのね――」


 私はジャンに向き直る。

 ジャンも今度は、私の顔を正面から見た。


「私……このまま、ジャンと気まずくなるの、嫌なの。だから、ちゃんと――ちゃんと、話がしたい」

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