第1話 とにかく前髪が邪魔だ
「っは!?」
慌てて顔を上げた。
いかん、完全に寝ていた。
やばい、今何時だ。まだ姉ちゃんは帰ってきていないだろうか。
時計を見ると、まだ昼の1時だった。よかった、30分ほど意識が飛んでいただけらしい。
手元のスマホに目を戻す。
……手にスマホがなかった。
あれ、どこかに落としたか……と思って周囲を見渡す。
家のリビングとは全く違う光景が広がっていた。
映画でしか見たことのないような、西洋風の豪華な家具。俺が寝転がっているベッドもキングサイズの天蓋付きだ。
まるでタイタニック号の中のような……昔のヨーロッパの大豪邸の中のような。
ていうかさっき見た時計も家の時計と全然違う。「大きなのっぽの古時計」を絵に描いたような柱時計だ。
急に我が家が大豪邸になるわけがないので、夢だとしか考えられない。
けど、それにしては妙にリアルな感じもする。
何だろう。明晰夢というやつだろうか。
さっきから前髪が視界を遮る。その髪の色に違和感を覚えた。
あれ。この前染め直したし、こんなに明るくなかったと思うけどな。
立ち上がって、部屋の隅に置いてある全身鏡の前に向かった。
まず目がくらむような金髪に視線が行く。脱色した色じゃなくて、もとからこの色でしたよと言わんばかりのツヤッツヤの髪だ。
あと前髪が長い。襟足も長い。
そして足が長い。身長も高い。ザ・日本人平均体型の俺とは縮尺からして全く違う。
顔も濃い。眉毛のあたりから下がこう、クッと窪んでいて、目力が強いし鼻も高い。平たい顔族らしくない彫りの深さだ。
道理で袖口にフリルがついたシャツとか着ているはずだな、という感じの顔つきをしている。
そしてこの顔には、とても見覚えがあった。
ルーカスだ。
さっきまで連打していたスマホ画面で死ぬほど見た、ルーカスだった。
どういうことだ? やっぱり夢? 寝落ちる寸前までスマホをタップしていたからか?
しかし前髪が長いな。
夢だと分かっているときの目覚め方とか何かあっただろうか。
デュマって3回言う、とか? いや、これなんか違うやつだな。
試しに頬をつねってみるが、まぁ案の定目は覚めない。
触った頬が驚くほどすべすべでちょっと引いた。毛穴とかないのか。男の肌がこんなにつるつる滑らかで一体誰が得をするんだ?
とにかく前髪が邪魔だ。
もう俺も大学生だし、ゲームの世界に来ちゃった!? やったー! なんて無邪気にはしゃぐ純粋な心は持っていない。
変な夢だな、と思う程度だ。
あと万が一本当にゲームの世界に行くならちゃんと自分の好きなゲームがいい。
小遣い稼ぎに周回していた女性向けゲームじゃなくて。モン〇ンとかがいい。
ああもう、さっきから何だこの前髪。チラチラと鬱陶しい。
まったく集中出来ない。
俺は部屋のドアを開けると、廊下にいたメイドさんを呼び止めた。
「すいませーん! ヘアゴムとか、ヘアピンあります?」
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