1章 上田克也

努力は必ず報われる。

努力は裏切らない。

今までそれを疑いもしなかった。

なぜならそこに結果が生まれていたから。


天才と言われ、プロからのスカウトもあった。

――――今はどうだろう。


努力を重ねたことによって、努力ができなくなる結果が生まれた。

努力は裏切らない......?本当に?

疑念が生まれ、確信に変わった。

なぜなら自分がその結果だから。


天才は消え、ただの凡人が残った。

――――これが今の俺。


投手として致命的な野球肘。

凡人として生きるなら何も問題はない。

全力で投げることができないだけ......だから俺はもう全力で生きることができない。

全力で努力することもないだろう。


「いや、凡人以下かもしれない」

なにせ野球以外のことを俺は何も知らない。

これのために生きてきた、これのために生きれなくなった。


――――かわいそう。

聞き飽きた。

――――もったいないことをした。

何様だよ。

まるで存在価値まで消え去ったような感覚さえある。



でもそんな俺の境遇をあざ笑うかのようにその女性は現れた。

俺が一番不幸だ......なんて言うつもりはない。

だけどただただ無気力な、昔の俺が見たら死人のようなまなざしだと思うだろう。


――――そんな俺と同じ眼をした人がいた。

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夢病 @shirushiru

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