夢病

@shirushiru

序章 佐伯静流

――――遺影

それは故人だと一目見てわかる。

誰がそこに眠っているのかすぐにわかる。


だが姿のわからぬ者は......?


位牌ならどうだろうか。

姿はなくとも、そこに生きた名が刻まれる。


だが、まだ名前すらなかった者は......?



誰かに愛されて亡くなった、みんなに愛された子だった。

そう言えればどれだけ己の慰めになっただろうか。


写真がないから遺影はない......

名前もないから位牌は飾り......


旦那はいい。

遺影がある、位牌がある。

家族に、友人に、会社の同僚に泣いてもらえた。


私の子はどうだろう。

遺影はない、位牌に刻む名前もない。

家族に、友人に、会社の同僚に泣いてもらえたのは私。


誰もこの子のために泣いてはくれない。

誰かに愛される予定だった、みんなに愛される予定だった。



「あぁ......泣いてないのは私も同じか」


佐伯静流は、新たな家族を迎える前に一人になってしまった。

痛みがあれば、まだこの現実を受け入れられただろうか。

麻酔が切れれば......この子のために泣いてやれるだろうか。


麻痺した感情は、いつか涙を零してくれるだろうか......


「産むのはツライって?......産まないほうがツライじゃないか」

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