第28話 お、お前は……ッッ!!







「はっ、弱。」

「…………。」



 スマホアプリの画面には、おめでとう!村人側の勝利です!の文字。    



「ま、また負けた……!?」

「顔にですぎ。」

「お…稀子さん!どんまい!です!」

「くううう!!もう一回!もう一回!!!」



 地団駄を踏む私に、冷ややかな目を向ける坊ちゃんと、心配そうな目を向ける憂。さながら冷却水と熱湯。ん?違うか、反応が正反対と言いたかったのだ。ただ今、絶賛人狼ゲーム中である。ちなみに勝率は坊ちゃんがいる方がダントツ。次に憂でドベは私だ。言い出しっぺ、最弱。



 え、なんで?(困惑)

 普通、最初からルール知ってる方が圧倒的に有利じゃないの??一回も勝ってないってどゆこと??(困惑)


 

 ――私には夢があった。そう、それは、大人数でゲームをすること!多分前世がボードゲーム好きだったんだと思う。(最近なんでもかんでも前世のせいにしてる気、するな……いやいや)二人じゃババ抜きとか神経衰弱とか指スマとかそんなことしかできないじゃん!?……というか私が勝てないじゃん!?勝てないゲームほどつまらないものはない。ま、それでもやったけどね。坊ちゃんに迷惑そうな顔されても一通りやりましたわ。しかあし!ここで憂ちゃん登場ですよ!(大声)


 憂ちゃん……。なんか、意志薄弱で押しに弱そうだったから、目覚めた時に優しくお願いしました。





「ね、憂ちゃん。私、憂ちゃんとお友達になりたいの。だめ?」

「……っ……!」



 憂ちゃんは迷っているようだった。そりゃそうだよなあ。紅緒ちゃん?たちから嫌がらせしてこいって言われたのに、嫌がらせ対象と仲良くなってどうするよな。でもな……ここで……ここで憂ちゃん逃したら!ゲームで私に負けてくれる人なんてもう現れないのではないか!?



「だめ、かなあ?」



 でもなあ、それで嫌がらせのターゲットが憂ちゃんになっても困るしな……。無理強いは出来ない。いや、紅緒ちゃん?たちと一緒にいるよりは、格段に楽しい日々をお約束するよ??私、いろいろ知ってるよ?三人いたら出来る遊びの幅、広がるよ??


 頭の中で、三人でゲームしたい私と、いやいや相手の事情も分かってあげないとという私と、冷静に考えてここは大人の対応では?という私が論争を繰り広げている。



「…………。」

「……ッッッ…ッ……。」

「……だめ?」



 これで駄目なら諦めよう、という気持ちからちょっと情けない顔になってしまったかも知れない。うーん、大人気ない。



「だ、だめじゃ!!だめじゃないですう!!!」



 え、声でか。



「あっ、あの!こ、こちらこそ!こちらこそよろしくお願いします!あの、私のことは憂って、呼び捨てで呼んでくださいぃ……。」

「本当!?嬉しいなあ!私、友達なんて初めてっ!」

「……!!わ、私も!私もです!!」



 憂ちゃんはまた恍惚の表情を浮かべた。がしり、と掴まれた両手がどことなく湿っている気がする。



「お、おう……。」



 え、また鼻血出さないよね?坊ちゃんにしろ憂にしろ、スイッチがわからないんだけど??アレ?私の周りまともなヤツいなくない??



「こ、これから……よろしくお願いします、ね。お、……稀子さん!」

「ええ〜、そんな、さん付けなんていいよお、稀子ってよん」「いいえ!稀子さんと呼ばせて下さい!!」



 え、押し強くない??あれ??押しに弱そうって言ったの誰?まじ、ソースははっきりさせないと駄目だよ??



「あの……その、でも、お友達になる前に……謝らせて下さい。その、お水のこと……。」

「え?……あ、ああー!忘れてた!ぜんっぜん気にしないで?」

「で、でも……」

「別に、氷水ぶっかけられようが冷たくないし、むしろ用意すんの大変だっただろうな……とか思ってるし。」

「き、稀子さん……!な、なんて、なんてお優しいのッ…………!!」



 そう言って憂は身悶えしながら涙を流しはじめた。……アッレー……オトモダチ……チョット……ハヤマッタカナ……。いやいや、失礼だぞ!稀子!憂チャンハ、チョット、感受性ガユタカナダケナンダヨ……。



「……私、決めました。」

「エ、ナニガ?」

「弱い自分とはおさらばします。」

「エ……」

「私!稀子さんみたいに!強く、優しく、美しい女性を目指します!」

「……ヒェ」



 近い。なんか知らんが顔が近い。憂ちゃんって儚げ美少女なのに、中身がざんね………………んん?まて、何か、なーんかデジャヴるんだよなーって思ってたんだけど……儚げ美少女儚げ美少女……検索…………



――――――などつらつら考えているうちに、少女Bがゆっくりと立ち上がり、お仕着せのスカートに着いた汚れをはたき落とした。そうして、少女Aたちが立ち去っていった使用人部屋の方を睨みつけながら呟いた。

「……月夜ばかりと思うなよ。」

……アッ大丈夫そうですわ。心つよっょ系ですわ。儚い系の美少女なのに、ひと目見たぐらいじゃ分からないものである―――――――……………………お!お前は!!




「しょ、少女B!!!!」

「憂、ですよ。稀子さん!」




 憂はそう言って、とってもとっても可愛らしく笑った。



















 ちなみに坊ちゃんはドン引きしてた。

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