第26話 誕生日
「げえ、茶碗?花器ィ?硯?スイッ●ぐらい寄越せよな。こちらとらガキだぞ。」
「……坊ちゃん、口が悪い。」
本日は坊ちゃんの十四歳のお誕生日です。そんなわけでさっきまで坊ちゃんは……お祝いの席に呼ばれておりました。私?私はもちろん留守番です。祝いが呪いに変わってしまうからね……ふっ。
「……祝いが、呪い……ふっふふっ。」
「……おれ、稀子ちゃんのそーゆーとこはちょっとどうかと思う。」
失礼な。
「……ん!」
「あ、はいはい。」
座布団の上に座った坊ちゃんが両手を差し出してくる。すっごい不遜だけど、これはアレだ。プレゼントのおねだりだ。多分ね。
「はい!坊ちゃん!お誕生日おめでとうー!」
「ん、」
そんなわけで、こっそり……といってもバレていただろうが、準備していたプレゼントを坊ちゃんに渡す。これはあれです。この前遊びに行ったときに買いました。坊ちゃんと離れるタイミングがなくてどうしようかな〜と思ってたんだけど、スマホの契約しているときにこれ幸いと買いに行きました。護衛兼お目付役としての仕事はどうした?とか言わないで。いや、だって坊ちゃん私より強いし。あとあのおっさんもそうだし。アレ、私の存在意義とは……検索。
「…………。」
「どう?可愛いでしょ?」
「まあまあかな。」
満更でもないんだろうな。嫌だったら嫌って言うだろうし。いや、でももうちょっと素直になった方が、人生生きやすいと思うよ、坊ちゃん。
坊ちゃんに渡したのは、Bluetoothのイヤホンとスマホケース。スマホケースの方は買ってるかな……と思いつつ、可愛いのがあったからついでに購入した。思った通り坊ちゃんはスマホケースと画面シートは自分で買ってたけど、私が用意したやつのが絶対可愛い。ほら!スマホケースって何個あってもいいじゃん?飽きるし!アッこれはッ前世の浪費癖……??
カパ……と坊ちゃんは、元々つけていた黒無地のスマホケースを外した。そして私が用意した「最強!耐衝撃!耐久性No. 1!」が売りのケースに付け替える。裏面がクリアになっているので、本体の深いブルーがよく見えて可愛い。
「……ありがと。」
「へへ、どういたしまして!」
ま、そのプレゼント買ったお金は波稲からのお給金なんですけどね!(昔貰ってたやつ。今は人形だとバレたんでなくなりました。解せぬ。)
■■■
「ふんふん〜♪ふふーん♪」
雑草無双である。
……誕生日でも坊ちゃんの「おつとめ」は変わらない。いやまじ何なんだろうな……「おつとめ」。坊ちゃんともう少し仲が深まったら、教えてくれるかな……潜入してみる?それも手かも。なんか、坊ちゃんって危なっかしいところあるよね。
…………ガサ。
『ほら!早く行きなさいよ!』
『えっあっで、でも……』
『行けっていってんのよグズ!』
『えっやっあっ』
ガサガサ……
突如聞こえてきたのは、複数人の少女たちの声。
ふー、おいおい……典型的なイジメだな!何だ何だ!?何が起きてるんだ??と、耳の出力を上げてみる。
『さっさとやんなさいよ!!!!!!』
キーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!
ぎゃあ、出力あげすぎた!!あだだだだ痛い!めっちゃ反響してる!ぐわんぐわんと揺れる視界の中、なんとか地面に腰を下ろす。だからその声の主たちが近づいてきたことに気づかなかった。
と、いうことで。
パッシャーーーーーン!
「…………………………。」
また私かい!!!!
「ぁ、あう……あの、ぁ…………。」
「…………。」
目の前には、ぷるぷると震える少女。手にはバケツ。
うん、いや、でもね?水が降りかかってきた方向が違う。つまり、この子はやってない。おそらくこの子に罪をなすりつけようとしているんだね。でもさあ、だからさあ……?
「つめ…………。」
「……っひ……、ァ…………許し…………。」
「つめが!!!あっまーーーーーーーい!!!!」
「ひぁああああ!?」
がくがくがくがくぶるぶるぶるぶる
小動物のように震える少女は、非常に哀れだった。大きな瞳はうるうると揺れて、今にも涙が溢れそう。お仕着せのスカートを握りしめた両手は真っ白だ。というか顔も真っ白だ。だ、大丈夫か?私はその姿にめちゃくちゃきゅんきゅんした。
あっ間違えた。とっても同情した。
……やめて!!違うの!間違えたの!ついうっかり本音を言っちゃったの!だ、だってだってだって!私が普段接してるのって坊ちゃんだけなんだよ!?基本、私をうっすら馬鹿にしているスタイルの坊ちゃんだけなんだよ!?あとは藤田氏?藤田氏は基本、私のこと空気だと思ってるよね?存在把握してくれてる??みたいなところに、こうも感情揺らされまくりの美少女が現れたらきゅんきゅんしたって仕方ないじゃん!!ああ、いけないいけない、怒ってないよって伝えないと、こんなに怯えて可哀想じゃないか、よし、ああ、でも、この子めっちゃ可愛いな!茶色の前下がりボブ。瞳の色も薄い茶色。可愛い〜……いやいや、まずは安心させてあげないと!
「うふ、うふふふふふ」
「ひ、ひいいいいいい」
「……………………………………なにしてんの?」
美少女を安心させてあげていたところに、渡り廊下から坊ちゃんの声が。
「あ、坊ちゃん。おかえりなさい!」
坊ちゃんは半眼でこちらを見下ろしていた。ああ、この顔はめちゃくちゃ呆れてますわ。「なんかまた馬鹿なことやってるよ。いいね、能天気で。」みたいな顔。うわ、ムカつくわ。
ばたん
「えっ。」
音がした方を見て驚いた。美少女が立った姿勢のまま後ろに倒れていた。心なしかピクピクしてる。あれ、デジャヴ。
「あわわわ、大丈夫?きみ!……こ、呼吸の確認ー!」
「うるさいよ。」
「い、意識、意識なし!し、心肺蘇生……!へぐうっ!」
胸骨圧迫に移ろうとしたところ、なかなかの勢いで抵抗され、後ろに吹き飛ばされた。
「た、ただ気を失ってるだけか……良かった……。」
「…………。」
いやあ、車の免許とるときの記憶が役に立ったわ。良かった。そして坊ちゃんにAED頼まずに済んで良かった。良かった良かった。……AEDってこのお屋敷常備してる?
「あ、坊ちゃん……ちょっとお部屋運んでいいですか?なんか気を失っちゃったみたいで。」
「いや、ほっておきなよ。」
え、ひど。
「そ、そんなこと言わないで下さいよ!こんな寒空の中、放置とか可哀想じゃないですか!」
「はあ?勝手に倒れたんだろ?」
え、ええ……こ、これはまじで言ってるわ。目がまじだもん。ちょっとショックを受けて坊ちゃんを見上げる。次の感情がわいてこない。
「…………。」
「…………。」
「……はあ、好きにすれば?」
じ、と見つめ続けていたら、坊ちゃんが折れてくれた。いや、意図したわけでなく、どうしたらいいか分からなくて見つめていただけなのだが。
「あ、ありがとう、坊ちゃん!」
気が変わらないうちに、とピクピク美少女の膝裏を抱えて立ち上がる。そして、善は急げとばかりに部屋へ向かう背中ごしに、坊ちゃんの呟きが聞こえた。
「……余計なお世話だと思うけどね。」
な、何が……?
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