第24話 ほら…見て…死んだ魚の目をしているわ…。
「……。」
「……。」
遊園地から出て、無言で歩く。ああ、やだなあ。せっかくのお出かけだったのに、最後にこんな気持ちで坊ちゃんの後ろを歩くなんて。申し訳なさすぎて消えて無くなりたい。鬱モードまっしぐら、だ。心が浮上してこない。さっきまであんなに楽しそうにしてたのに、大人のはずなのに……恥ずかしいぞ!稀子!よし、やめだやめだ!大人というのは!自分で自分の機嫌が取れるから大人なのだ!ふははははは大人の力を思い出し知るが……
「へぶ、」
坊ちゃんがいきなり立ち止まったせいで背中に体当たりをしてしまった。しかし、坊ちゃんは揺るがない。た、体幹すごい……鍛えてる??
ってちょ!
「ぼ……要くん?!」
いきなり坊ちゃんが全速力で走り出した。え、ちょ、早い!!こっちも全力で走らないと見失いそうになる。
っていうか見失った!!人が!帰宅ラッシュの人が!多い!!いや、坊ちゃんの霊力は登録してあるからどこにいるからわかるんだけも、本当に坊ちゃん……どうした!?
気持ち的には、ハアハア……と言いたい気分で追いついたとき、ちょっと我が目を疑った。ぼ、ぼぼぼぼ坊ちゃん何してるの!?
「おい、お前……名前教えろ。」
「ハア?なんだこのガキ?」
「うっせ、名前教えねーとここで泣き叫ぶぞ。」
いやいやいやいやいやマジで何してんの!??!
坊ちゃんは見るからにカタギじゃなさそうなおじさ……オニイサンに絡んでいた。まず、がたいが良すぎる。ボディービルダー方面ではなく、こう、実践的な…怖。そして傷痕。傷痕がすごい。でっかい跡というわけではなく、細かなものが頬、首、腕に無数に残ってる…怖。そしてこの真冬に白の半袖Tシャツ、だぼだぼのハイダメージのジーパン…怖。そして無精髭…怖。それにそれに、前髪長いし目は死んだ魚の目だし怖い。怖すぎる。鑑定結果発表!!確実にアブナイヤツ!!!
「ぼ、坊ちゃんってば〜どなたと間違えてるのかな⭐︎そそっかしいな⭐︎ほら帰るよ⭐︎」
「ね、金欲しくない?」
何言ってんのーーーーーー!!!!私はもう顎が外れそうだった。あんなに帰りたくなかったお屋敷に今すぐ帰りたい。どこでもドアが欲しい。
「ハア?なんだこいつ?頭イカれてんのか?」
「あは、そうなんですう〜ちょおっと見えないものが見えちゃったり右腕が疼いちゃったりするんですう〜でもほら、それってみんなが通る道ですよね??っていうことで私たちは退散し」「稀子ちゃん『黙って』」
うっわっ!呪禁使いやがった!!隷属契約で結ばれている私にそれはものすごく効く。ということでここから先は坊ちゃんと怪しい男の会話をお楽しみください。
「ねえ?金、欲しくないの?一本?二本?」
「……あのなあ、ガキの遊びに付き合ってるほど暇じゃねーんだ、帰れ、色ガキ。」
「でもさあ、困ってるんじゃないの?だからこんな底辺の仕事してるんでしょ?楽して稼げたら最高じゃない?」
あっは。坊ちゃん、何をぬかしてるのかな〜??人様のお仕事にケチつけるなんてえ、そんな子に育てたおぼえはありません!!!滝涙。
「……ハア、いーから帰れよ。まじうぜえ。今日は厄日だな。」
「要。」
「はあん?」
「おれの名前。ねえ、名前教えてよ。」
「会話してくれ。」
あれあれ?もしかしてこの怪しげなオニイサン…………わりと常識人なのかもしれん。ツッコミ属性なのは確かである。
「あー教えたらどっかいくか?」
「うんうん。」
どうやらオニイサンの方が折れたようだ。それにしても坊ちゃんの笑顔にやられないとは、お主なかなかやるな。
「あー、パパ?とかか?」
はーい前言撤回〜このペド野郎すり潰す。すり潰すすり潰すすり潰すすり潰すすり潰すすり潰すすり潰すすり潰す……あははははははははイエスショタノータッチの時代は終わったんだ。思想ごとすり潰してやるわ覚悟しろお……。心の中でアップを始める。どこから再起不能にしてやろうかな……?
「あとはお父さんとか、おっさん……とか若いの、とか……そんなんしかねーわ。新しくつけてもいーぞ。」
………………アッこいつ、やばい人だ。ガチのやつだ。逃げよう、逃げよう逃げよう逃げよう……坊ちゃんの手を掴んで走りたいのに、身体が動かない。呪禁効きすぎい!手加減!手加減して坊ちゃん!!
「……ふーん、じゃ、おっさんでいーわ。ね、スマホ持ってる?」
「ん?ああ。」
「それ、ちょうだい?」
え、こいつらなんなん?人間の会話じゃないの?宇宙言語すぎてついていけないんだけど。………………あと気がついたこと言っていい?ちょう言いたい言いたい言いたい言うね!!………………私の足元に!なんかいる!!!ふわふわした毛並みの動物的な何かがいる!!状況が意味不明なんだが!?あと下向けない。呪禁手加減しろって!!!!!
「ハア?つか名前言ったろ?さっさと消えろよ。これから仕事なんだよ。」
「仕事ってこいつのこと?」
そう言って坊ちゃんは私の足元からなにかを拾いあげた。
「キュウン。」
も、もふもふだあああああ!!!!
坊ちゃんの腕の中には真っ白なもふもふの獣がいた。狐っぽいが、尻尾がいくつかに分かれている。顔のところは赤い紋様が刻まれており、もののけの類なのだろう。
「あー、オマエたち見える系?」
「見ての通りだけど?」
「いや見えねえよ。調子に乗ってる色ガキカップルかと思ったわ。」
ぱちくり、と坊ちゃんが瞬きをする。そうして自分と私の格好をみて、納得したかのように頷いた。
「忘れてた。」
忘れてたんかい…………。じゃなんだ?坊ちゃんの中ではいつもの和服姿で、常時発動謎の神がかりムーブをかましてたつもりなんかい……それが色ガキ中坊カップル……ぷ。
「稀子ちゃんさあ、あとでオイタだからね。」
何も言ってないじゃん!!
「で、どーすんのこいつ?殺す?」
坊ちゃんが狐くんの首をつかんでぶらぶらと揺らす。動物……虐待……。
「ええ、オマエ……可哀想じゃん。血も涙もねえな。」
まともかよ。
「はあ?こいつの退治がおっさんの仕事なんじゃないの?」
「いやでもなあ、たかだか5000円で
「……よく分かってんじゃん。てかやっす。やっぱ底辺。」
「正規の依頼は回ってこねーんだよ。どっかの祓い屋が幅きかせてるからなァ。」
あはははははは…………って坊ちゃん、すっごく楽しそうに笑うね?この怪しげなおっさんのどこをそんなに気に入ったの??
「しゃーねーな、ウチで飼うか。」
「へえ、そんな甲斐性あったんだ。」
「バカヤロウ世話すんのは嫁に決まってるだろ。」
え、このろくでなし、嫁いんの??ええ……うわあ……奥さん不憫……。
「これで依頼されてた仕事は終了だよね?」
「んぁ?ああ。そーだな。」
「じゃ、こっちも仕事の話だよ。」
「はあ?」
坊ちゃんは、それはそれは美しく笑った。ああこれはだいたい……ろくでもないことを……考えてる時の顔だ……。
「おれの名前は、波稲 要。」
「……は、いね…………。まじか?」
「まじ。おおまじ。ね、仕事の話、聞く気になった?」
おっさんの腕の中で狐くんが、可愛く鳴いた。
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