第23話 最近のおだんごはデコられてる。






「あ、要くん、見て?あれも美味しそう!」

「わー、稀子ちゃん。さっきから食べ物ばっかり。」

「だってだって!お屋敷じゃ見たことないものばっかり!」



 うん。着替えたところで若干のモーセは変わらなかった。でもまあ仕方ない。あと日本人の皆様の良いところは、スルースキル高めなところである。あ、でもたまに外国人の人に写真撮影を求められた。坊ちゃんの美は全世界共通……しゅごい。坊ちゃんが嫌がってなかったので一緒に写真を撮った。後ろに日本人の皆さんが並びそうだったので速攻立ち去ったけど。でもその様子を見てドン引きしてる外国の皆さんもいて……。ああ〜……あれかな、子供のなんちゃら……。うん、気をつけた方がいいな。今度は断ろう。



「そんなに食べたいなら買う?」

「いいの?食べてくれるの?」

「いいよ。」



 ま、まじ?坊ちゃんって外で食べ物食べるイメージなかった。お屋敷の食事もつまらなそうに食べてるし、食べるの好きじゃないんだなあ、と。



「じゃ、じゃあ!あれが良い!揚げ饅頭っ!」

「あれ?さっきのお団子じゃなくて?」

「それも捨てがたいけど、揚げ饅頭のほうが坊ちゃんの好みだと思う!」



 前世でも食べたことあったのかな?あったんだろうなあ。謎に揚げ饅頭への絶体の自信がある。




「すみません!揚げ饅頭のあんこをひと「二つで!」



 注文に割り込んできた坊ちゃんをぎょっと見つめる。



「え?私……?」

「うん。食べてみなよ。」



 そう言って坊ちゃんは、ぱく、と揚げ饅頭を口に含んだ。



「うーん、甘い……熱い……美味しい、かなあ?」

「いやいや、美味しい!」

「じゃ食べてみなよ、ほら。」



 そう言った坊ちゃんの瞳が、一瞬不自然に輝いた。



「えー、じゃあ、いただきます。」



 いやあ、いくら食べられるように改良してもらったとはいえ、身体の中に取り出し可能なボックスを設置したみたいな感じで……食べても栄養になるわけじゃないし。フードロスまっしぐら。SDGsに反して…………いや想像すんのやめよう。悲しい。



「えっ、あ、味がする……!」 

「……お、っと。」



 あんまりにも驚いて揚げ饅頭を落としそうになった。それを坊ちゃんが見事に片手にでキャッチした。



「あ、あれ?味……あ、甘い!!あ、熱い……お、美味しい!!!」

「あはは、おれにはちょっと甘すぎだけど。」

「坊ちゃん!これ、これ……何??」

「要くん、じゃなかったの?」



 坊ちゃんはいたずらが成功した、幼子のように笑った。



「最近、開発してた新術。感覚の共有ってやつ。」

「感覚の……共有?」

「そ、」

「じゃあ、坊ちゃ……要くんと、私の味覚が繋がってるってこと?」

「……あー、うん。そうだね?えーときもちわるかったら」「要くん!さっきの!さっきのお団子も!あ、あとカステラ!芋羊羹!パフェもあったし、五目そばも食べたい!!」



 食べる楽しみ……それが奪われてしまったと分かった時、私がどんなに絶望したかわかるだろうか?この世の数多ある美味しいものたち…………そしてまだ見ぬ美味しいものとの出会いがあったはずなのに……!!それを!!むざむざ奪われてしまったッ!!!私の気持ちがッッッッわかるだろうかッッッッッッッッ!!呪いの人形に生まれ変わったことよりも衝撃だったわッッッッ!!(過剰表現)



「えーと……おれ、少食だから……手加減してね?」

「もち!食べられない分は私が食べる!!」



 フードロスごめん。(良い子の皆さんは真似しないでね。)









■■■




「あは、あははは!!面白かった!面白かった……!!」



 デパートで服を買い

 仲見世通りで食べ歩き

 浅草寺でお参り、おみくじをひいて


 某日本最古の遊園地で遊びまくった。お化け屋敷は怖くもないのに「きゃー!こわい〜」って叫んでみたし、びっくりハウスは不思議な世界に迷い込んでしまったようでゾクゾクした。そして最後にのったローラーコースターがだいぶつぼだった。家の中に入っていくなんて、誰が考えたんだろう?笑いのツボが合致しすぎて笑いが止まらない。


 終始楽しくて、もう、これ本当に夢じゃないかなって何度も思った。何より、坊ちゃんがずっとずっと楽しそうで、それが何より嬉しくて。楽しそうな坊ちゃんを見ていると、もっともっと楽しくなって……涙が出そうだった。訳がわからない。でも私は泣けないから、かわりに笑った。ああ、ああ……楽しい……!



「稀子ちゃん、笑いすぎ。」

「あ、はは……た、楽しくて!ね、要くんも!要くんも楽しい?」

「うん。おれも楽しいよ。」

「そっか!良かった!」



 ああ、このまま時が止まればいいのに。坊ちゃんを、あのお屋敷に………………戻らせたくない。…………腐敗臭のする、あの、腐った箱庭に……坊ちゃんを返すなんて…………。



「稀子ちゃん、そろそろだよ。」

「……ぁ、うん……。」



 途端に、ぽかぽかしていた気持ちが冷めていくのを感じる。



「……。」

「稀子ちゃん?」



 夕日に照らされた坊ちゃんが、きらきら、輝いている。美しいけれど、どこか、もの寂しい。



「……坊ちゃん、大人になったら、私と………………………………か、海外旅行に行きません?国内も楽しいけど、海の向こうも!見たことがない世界が広がっているのと思うんです!」



 人が少なくなった遊園地のなか、私の声が間抜けに響いた。



「うーん、たとえば?」

「ええと、ヨーロッパなら、イギリスとか行ってみたい!ドイツも!あとはトルコとか、台湾!台湾に行ってみたい!」

「いいね。」

「でしょう?でもわたしの一番のおすすめはハワイ!日本語通じるらしいし!」

「楽しそうだねえ。」

「そうでしょう!ね、だから……」

「うん。稀子ちゃん、稀子ちゃんなら行けるよ。…………たくさん、たくさん楽しいところに行って……色んな人と出会って、しあわせになれるよ。ぜったい。」



 そう言った坊ちゃんの瞳は、蜂蜜色に優しく輝いていた。口元は優しく弧を描いていて、ずっと、大人の人がするような表情だった。…………でも、嫌い。坊ちゃんのその顔は、嫌い。表情は言葉よりも有弁に内心を語るのだ。





 坊ちゃんは………………




 ………………私と、逃げては、くれないんだ、ね。



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